家族との再会
「アレク、お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
謁見の間から場所を移し、アレクは王妃と再会していた。バルもユーリも謁見の間から出て、それぞれ家族と会って話をしている。
唐突に終わってしまった謁見に、レイズクルス公爵を始めとする幾人かの貴族たちは不満そうにしていたが、有無を言わせずに国王がアレクを連れて謁見の間を出てしまったために、引き下がるしかなかった。
旅立つ前と同じように王妃がアレクを抱きしめ、その様子を国王が嬉しそうに見ている。アレクは、近づいてくる気配に気づき、口元を綻ばせた。
「アレク!!」
予想した通り、勢いよく扉を開けて入ってきたのは、アレクの兄、アークバルトだった。
「兄上」
「アレク、よく戻った!」
王妃が手を離し、代わりに自分を抱きしめてくる兄に、アレクも抱きしめ返す。
そうしながら、違和感があった。
「……兄上、もしかして体を鍛えてますか?」
触れた感じ、しっかり筋肉がついているようだった。病弱で、そんなものとは程遠かったはずなのだが、自分が旅をしている間に何かあったのだろうか。
「なんだ、簡単にばれるんだな。……お前の剣をもらったからな。少しくらい扱えるようにならなければ、もらった剣に悪い。そう思って頑張ってきたんだ。本当は、お前に勝負を挑んで、驚かせてやろうと思っていたのに」
少し残念そうな兄に、アレクは笑う。
アレクが兄にあげた剣、というのは、旅に出る前日に、父にもらった剣の代わりに、それまで使っていた剣を、欲しいという兄にあげたのだ。
何の変哲もない、ただの普通の剣でしかないのだが、それでも兄にそう思ってもらえた事が嬉しかった。
同時に、思い出した。
父からもらった剣の事だ。
一瞬ためらったが、アイテムボックスに手を触れて、それを取り出した。
「父上、申し訳ありません。せっかく頂いた剣を壊してしまいました」
「い、いや、アレク。お前今、どこから剣を……」
アレクの手にあるのは、魔族の四天王、ヤクシャとヤクシニーとの戦いで折れてしまった剣だ。どこからどう見ても、もう使い物にはならない。
それが突如出現したことに、兄が驚いたように言ったが、父は数瞬凝視したのみだ。
「この剣、役に立ったか?」
「はい、もちろんです。けれど……」
「構わぬよ。所詮は道具。いつかは壊れるものだ。こうなるまで使い切ってくれたのだ。この剣も、そして儂も本望だよ」
父の言葉に、アレクは心から頭を下げる。そして「しまえ」と言われて、やはり躊躇ったが、すでに出すのに見せてしまったアイテムボックスを、今さら隠すのも変だ。
言われた通りにしまってみせれば、やはり父にも兄にも凝視された。
「……全く、旅の間に何をしてきたのやら。すぐとは言わんが、いつかは話してくれ」
父の言葉に、アレクは笑うしかない。
これを作ったのは、ユーリとリィカだ。自分はただ使っているだけである。だが、すでに非常識に感覚が慣れてしまっていたらしい自分を、認識してしまったアレクだった。
※ ※ ※
「戻ってきたな、バル」
「当たり前だろ」
バルは騎士団長である自らの父親と二人で話をしていた。
軽く聞こえる言葉ながら、その目と声に安堵がにじみ出ているのを感じて、バルはニヤけそうになる顔を必死に堪えた。
まず告げなければならないことがある。
「親父、悪ぃ。剣、真っ二つになっちまった」
言って、アイテムボックスから四天王アシュラとの戦いで、二つに折られた剣を取り出す。旅立つ前に、父親に贈られた剣だ。
「……………………」
父親に凝視される。
怒られることはないだろう、とは思っているのだが、自分が贈った剣がこんな姿になっていれば、面白くないとは思うだろう。
「……おいバル。お前、今どこから剣出した?」
「あ、やべぇ」
何も考えず、アイテムボックスを使ってしまった。
「旅の間に何してきた。吐け」
「……そのうちな」
いつの間にか非常識に染まっていた自分に気付き、バルは微妙に落ち込んだが、その前に怖い顔をしている父親をどうにかするほうが優先だった。
※ ※ ※
「お帰りなさい、ユーリ」
「はい、父様。ただいま戻りました」
神官長である父の穏やかな笑みに、ユーリも同じように笑って挨拶を返す。うなずく父の顔が、ひどく嬉しそうに見えるのは、きっと気のせいではないだろう。
多分、ずっと心配してくれていたのだろう。
「父様、すいません。マジックポーション、全部使ってしまいました」
旅に出る前に父にもらった三本のマジックポーション。聖地でもらった一本も含めて、使い切ってしまった。
「構いませんよ。ユーリにあげたものですからね。役に立ちましたか?」
「ええ、もちろんです」
そこまで言って、ふと思う。マジックポーション四本を使用したのは。
「……全部、リィカに使いましたね。考えてみれば、僕は一本も飲んでいません」
カトリーズの街で魔方陣を壊すときとその直後。
魔王との戦いの時。
どちらも、二本ずつリィカが飲んでいる。
「おやおや」
父がどこか嬉しそうに笑った。
「いいんですよ、誰が飲んでも。仲間のことを考えて、それが最善だと思ったのでしょうから」
「はい」
それだけは自信を持って言える。どの場面でもそれが必要だと思ったから、リィカに飲んでもらったのだ。
頷いたユーリは、旅の間のたわいない話を始めたのだった。




