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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十五章 帰郷

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暁斗との別れ、そして……

「暁斗」

「……リィ、カ」


 リィカが暁斗の前に立った。

 暁斗は、先ほどの泰基とリィカの会話を思い出す。何か怖さを感じて、足が一歩後ろに下がった。


「暁斗、これを」


 リィカが差し出したのは、先ほど泰基に上げていた深緑色の袋の残り一つだ。しかし、暁斗は手を伸ばせない。無意識に、首を横に振っていた。


 リィカは、そんな暁斗を少し悲しそうな目で見て、さらに差し出す手を伸ばした。


「この袋はね、香澄さんからもらった布で作ったの。二人を帰すことができるって知って、二人に何かを贈りたかった。受け取ってくれないかな」


 催促するように手を動かされて、拒めなかった。結局暁斗は手を伸ばしてそれを受け取る。

 手の平サイズの小さな袋だ。何か固い物が入っているように感じる。


「中、開けてみて」


 リィカに促されるがままに、暁斗は袋を開ける。それを手の平に出して、暁斗は目を見開いた。


「これ……」


 転げ出てきたのは、指の付け根サイズの、小さな丸い玉だ。

 見覚えがある、これは。


『そうだね。何か考えて、暁斗にプレゼントしようかな』


 リィカの言葉を思い出す。

 これは旅が始まったばかりの頃、サルマたちに魔道具作りを教わっていた頃に作ったもの。自分が上手く作れず、リィカと一緒に作った、Eランクの魔石の魔道具だ。


「日本に魔力っていうのが存在するのかどうか分からないけど、普通に考えれば、ないって思った方が間違いないと思う。だから、魔道具を作ってもしょうがないなって思って」


 リィカが笑う。とても優しい笑みで。


「だからそれは、ただのお守り。暁斗が元気でいられますように、暁斗が幸せになれますように。そんなわたしの気持ちを込めた、ただのお守り」


 そう言って、リィカは足を一歩踏み出す。そしてさらに距離を詰めて、暁斗を抱きしめていた。


「……………!」

「ごめんね、暁斗。育ててあげられなくて、ごめんね。死んじゃってごめんね」


 暁斗は体を拘縮させたまま、動けない。でも、しっかりリィカの声は、耳に入ってくる。


「でもね、暁斗。わたし、嬉しかったの。幸せだったの。暁斗が生まれてきてくれて、名前を呼んだら笑ってくれて、いろんな表情見せてくれて。本当に、生まれてきてくれてありがとうって思ってたの」

「あ……あ……」


 言葉にしようとしても、喉につかえたように出てこない。意味ある言葉を発せない暁斗を、リィカは抱きしめていた手を離し、その手が暁斗の両頬に触れた。


「愛してるよ、暁斗。幸せになってね」


 リィカの、とびきりの笑顔。でも、その笑顔は、リィカじゃない別の姿が重なって見えて、暁斗は呼吸すら忘れて、その顔に見入った。


 リィカが泰基を見る。泰基は頷いて、暁斗の手を取った。そして頭を下げる。その方向にいるのは、アレクとバル、ユーリ。一緒に旅した仲間たちだ。


 暁斗は自分からは動けなかった。ただ泰基に引かれるままに、魔方陣の中に入る。


「じゃあ、やるね」


 リィカが魔方陣に手をかざした。と同時に、魔方陣が光り始めた。その光がどんどん強くなっていく。

 暁斗の視界に、リィカが映った。その途端、暁斗の中に言いようのない感情がこみ上げてきた。


「母さん!!」


 気付けば、暁斗は叫んでいた。


「ありがと、母さん! オレも母さんのこと、大好きだよ!!」


 リィカの驚いた顔が見える。

 自分の声が届いている。そして、これがリィカと最後なのだと気付く。そう思ったら、一生言うつもりのなかった気持ちまで、口からついて出た。


「リィカ!! オレ、リィカのこと好きだ! 一人の女の子として、リィカのことが好きだよ!!」


 言って、リィカに笑いかける。けれど、そこで恥ずかしくなって、そのまま脇に視線を向けた。慌てたように駆け寄ってくる、一緒に旅した仲間たちへと。


「バル! ユーリ! ありがとう! そしてアレク! リィカのこと、幸せにしなかったら許さないからね!!」


 光が強くなる。もう、その顔も姿も見えない。それを確認すると、暁斗の目から涙が零れた。

 どこかに体が引っ張られる感覚に、黙って委ねたのだった。



※ ※ ※



 魔方陣の光が消えた時、そこにはもう誰もいなかった。それを確認して、リィカは目から零れる涙を堪えるのをやめた。

 泣きながら、口元が緩む。暁斗が最後に言い残していった言葉を、思い返す。


「……ありがと、暁斗」


 そんな風に思われていたことに、全く気付いていなかった。

 おかげで、初めて母と呼ばれたことよりも、そっちの方が印象に残ってしまった。でも、たぶんそれでいいんだろうと思う。自分は凪沙じゃない、リィカなんだから。


「アキトの奴、言い捨てていきやがって」


 いつになく乱暴な口調で言ったのは、アレクだった。泣くリィカを、後ろから抱きしめる。


「全部話してもらうぞ、リィカ。……でも、今はいい。今は泣きたいだけ泣け」

「……うん」


 慣れ親しんでしまった腕に包まれて、リィカに笑顔が零れる。その優しさが、嬉しい。


 魔王は倒した。あとはもう、アルカトル王国に帰れば、旅は終わる。

 この腕の中にいられるのは……あと、少しだ。


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