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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十五章 帰郷

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転移について

 この話は、"森の魔女"の家で、香澄とリィカと泰基が話をしたときのこと。


「生まれる前は日本人だった、ね。やっぱり、前世の記憶とか、そういうこと」


 なぜ転移陣を発動させることができたのか。その理由を説明すると、香澄はやはりという感じで頷き、ついで首を傾げた。


「あれ、じゃあその事実を息子君は知らないわけ?」


 暁斗の前では話ができないと、泰基が言ったのだ。つまりは、知っているのは泰基だけということになる。

 そのくらい教えてあげればいいのに、と香澄の目が雄弁に語っている。


「色々事情がありまして」

「ふーん? ま、別にいいけど」


 苦笑する泰基に、香澄はそれ以上踏み込まなかった。

 その代わりに指を指して言ったのは、リィカが持ってきた魔方陣の書かれた紙だ。


「この魔方陣なら、日本に帰れるよ。少なくとも、どっちか一人はね」

「え?」

「この魔方陣は"帰還"のための魔方陣じゃない。あくまでも目的の場所に"送り込む"ための魔方陣なの」


 香澄は、魔方陣の空白になっている部分を指さす。


「ここに、対象を送り込みたい場所を書く。この場合なら、日本と書けば良い。できれば、もっと詳しく書いた方が良いけどね。で、術者はその場所をイメージしながら魔力を流して魔方陣を発動させる」


「イメージ……?」


「そう。ただ書いて魔力を流すだけじゃ魔方陣は発動しない。術者が、その書いた場所をイメージできなきゃならない。だから、日本を知らないこの世界の人間じゃ、魔方陣は発動させられない」


 前回の勇者であるシゲキの仲間が、シゲキを故郷に帰すために作った魔方陣は発動せず、結局シゲキは日本に帰ることが叶わなかった。

 発動しなかった理由は、その魔方陣を発動させる者が日本を知らないから。いくら魔方陣だけ完成させても、それだけでは足りなかったのだ。


 そこで香澄は泰基のことを面白そうに見た。


「つまり、あんたか息子か、どっちか一人は帰れる。帰る方が魔方陣に乗って、帰す方が日本をイメージしながら魔力を流せばいい」

「なるほど、分かりやすいですね」


 笑うしかないとはこのことか。

 確かに無理ではないのだ。二人いるから、どちらかは確実に日本に帰れる。けれど、それはつまり。


「他に日本を知っている人がいれば、二人とも帰れるってことですか?」


 リィカの、少し興奮したような声が会話に割って入る。泰基は無言だ。香澄が少し考える風になる。


「んー、そうね。帰れると言えば帰れる、かしら? ただ、日本って言っても広いし、帰りたい場所に帰れるかが分からない、かな?」


 送り込む場所は、術者のイメージによって決まってしまう。泰基と暁斗であれば、一緒に召喚された。だからイメージも、召喚された場所にすることができる。

 だが、日本を知っているとはいっても、他者ではその場所を確実にイメージできるかが分からない。


 香澄も日本人だが、住んでいた場所、住んでいた時代が泰基たちとどれだけ乖離しているか分からない。香澄のイメージで、泰基たちの帰りたい場所に帰れるかが分からない。

 もっと言えば、この世界に来て長い時間が過ぎた。日本にいた頃の記憶は、朧気だ。


 その説明にリィカと泰基は顔を見合わせた。


「香澄さん、ちょっと聞きたいんですけど。例えばわたしが知っている日本が十年前だとして、その十年後の場所に送り込む事ってできますか?」

「…………………そうね」


 香澄が考え込む。やがて出た答えは、肯定だった。


「できると思うわよ。もともとイメージって曖昧なものだから、それを文字で補完するの。十年たって、多少建物が古ぼけてるとかの変化はあるだろうけれど、曖昧なイメージなら逆に大きな影響は受けない」


 考えつつ、香澄はさらに告げる。


「あまり外観の変わらない場所を選んで……あとはそうね。なんだったら日時を指定してみてもいいかもしれない。やったことはないから分からないけど、細かく指定すればその場所、その時間に送り込める可能性は高いと思う」


「やったこと、ないんですか?」


 リィカの疑問に、香澄が呆れた顔をした。


「そりゃそうでしょ。この魔方陣は、元々病気を治す薬を取りに行って帰ってくるために作ったものよ。具体的な場所だの時間だの、指定する必要はなかった。薬をイメージすれば良かったんだから」


 それがどこであろうといつだろうと、薬がある場所に送り込めれば良かった。だから、細かく行き場所を指定する必要性は、まったくなかったのだ。


 なるほど、と納得したリィカだが、そうなると別の不安が出てくる。これまで香澄が言ったことは、すべて"可能性"でしかないということだ。


「そうやって細かく指定して、もし仮に失敗したとしたら、どうなるんですか?」


 泰基が聞いた事は、リィカが抱いた不安と同じことだった。失敗のリスクがあまりに高いようであれば、日本へ帰還するのは躊躇われる。


「心配しなくても、失敗すれば発動しないだけ。どこか違う場所に行ってしまうとか、そういうことはないから」


 リィカと泰基はホッと息を吐く。失敗すればもちろん落ち込みはするだろうが、逆に言えば、それだけで済むとも言える。


「場所を書くときには、大きい場所……つまり日本から書いて、小さい場所、細かい住所なんかを書くのが良いと思う」


 そんな二人を見ながら、さらに解説する香澄は、微笑ましそうで、さみしそうにも見えた。


「それと、帰る日時は気をつけてね。基本的に、転移するときに"時間"は弄っては駄目だと言われてるの」

「え?」

「過去や未来への干渉は許されない。それは世界に大きな矛盾を作ることになる」


 泰基が難しい顔をした。それはいわゆるタイムパラドックスというものか。


「同じ人間が、同じ場所に二人いるという状況を作ってはならない。転移するとき、果たして"時間"という概念をどこまで読み取ってくれるか、分からない。午後六時のつもりでいたら、午前六時に転移した、なんて可能性は十分ある」


 昼と夜の違いなら、あるいはイメージで補完されるかもしれない。けれど、それも絶対ではない。


「召喚されたその日に帰ることはお勧めしない。時間がどう判断されるか、分からないから。最低、次の日にして」

「……分かりました。助言ありがとうございます」


 泰基が真剣な顔で頭を下げた。リィカも黙って頷く。

 香澄は満足そうに笑って、ついでとでも言うように、その話題を取り出した。


「で、リィカってどこの誰?」

「え?」

「だって、二人とも場所は全く問題にしなかったじゃない。気にしたのは、時間の問題だけ。つまり、お互い共通の認識している場所があるってことでしょ? もしかしなくても、リィカが日本人だった頃の知り合い?」


 興味津々な様子の香澄に、リィカと泰基が苦笑する。答えを口にしたのは、リィカだった。


「そうですよ。わたしと泰基、結婚してたんです」

「………………………は?」


 香澄の目がまん丸になった。やがて、その目に理解と驚愕が浮かぶ。


「け、けっこんっっ!?」


 叫ぶ香澄に、リィカは笑ったのだった。



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