カストル
カストルたちは、魔国を出て人の地を歩いていた。
ともにいるのは、カストルが拾って育てたダラン、側近のオルフ。そしてバトルアックスを持つラムポーン、モーニングスターを持つディーノス、合わせて五人。
人の地といっても、ここは元々人も誰も住んでいなかった地。かつて人間たちが「北の三国」と呼んでいた地、そして魔族たちが占領したリョト村まで行くのにも、まだまだ南下しなければならない。
ふと、カストルが足を止めた。後ろを振り返る。
「カストル様?」
ダランに呼ばれたが、カストルは返事をできなかった。
やがて、力なく肩を落とす。
「……ホルクスが、負けた」
「………………!!」
その場の、カストル以外の全員に驚愕が走る。
誰もその言葉を疑わない。なぜそんなことが分かるのか、とも言わない。カストルがそう言う以上は、それが事実だ。
「魔力が……!」
そう声を上げたのは光魔法を使うオルフだ。
カストルも当然感じている。辺りに満ちていたはずの、魔王の、ホルクスの魔力が、急速に失われていく。
そして遠い魔国の空。青空などほとんど見ないはずの空に、青空が一瞬広がったのが見えた。
「勇者が、ホルクスの魔力を集めて浄化した。正確には、この惑星の外に放った、というべきであろうが」
「ほし、とは……?」
オルフの疑問に、カストルはほんの僅かな笑みを浮かべただけで、答えない。
代わりに口にしたのは、別のことだった。
「これで、魔王様の魔力が失われた。……何もせずとも持っていた膨大な魔力が、なくなった」
カストルの言葉に、オルフが頷く。ラムポーンとディーノスは、反応に困った様子だ。ダランは静かにカストルを見つめるだけ。
それぞれの反応を見つつ、カストルが再度言葉を口にする。
「元々ラムポーンとディーノスは、魔法を使わぬからな。ダランは人間だ。我々魔族のように、魔王様の影響を受けない」
フッと笑い、さらに続ける。
「私は問題ない。オルフもな。魔王様の魔力がなくとも、戦える力は身に付けている。だが……」
カストルは、遙か南に視線を送る。そこには何も見えない。だが、その視線が意味するところを、その場の全員が分かっていた。
「ルバドール軍と戦っている魔族たちは、そうは行かぬだろうな。魔力を失って……そう経たぬうちに敗北するだろう。生き延びられる者がいるかどうか」
そこまで言って、カストルは言葉を切り、目を閉じる。
生き延びたところで生きる手段などない。彼らは魔国へ戻ることはない。であれば、下手に生き残るより、戦いの中で死ぬ方が幸せだろう。
「行くぞ。続いてきた不変の歴史を、変えるために」
「はいっ!」
こうしてカストルは、ホルクスに託された未来へ向かって歩き出す。
その未来がどういうものになるかは、まだ見えない。




