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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十四章 魔国

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VS魔王ホルクス⑮

 リィカは呼吸を落ち着けて、泰基の戦いを見ていた。


 暁斗が、ただ静かに集中しているのだけが分かる。アレクが、バルとユーリがどうしているのかは、今はあえて意識から遠ざける。


 魔王に止めを刺せるのが、果たして本当に聖剣グラムだけなのか。その答えは出ていないが、他の方法を試せるだけの余裕などありはしない。


 自分たちも限界が近い。けれど、それは魔王も同じはずだ。あとは、暁斗が魔王に最後の一太刀を入れるだけ。そのためだけに、残った力を使うだけだ。


 もしかしたら泰基だけでそのチャンスを作るかもしれない。それでも、リィカはただ集中し続けた。来るかもしれない、出番のために。



※ ※ ※



 ――泰基の剣が、崩れ落ちた。それを見て、泰基が呆然としているのが分かる。


(まだだ、まだ少し)


 リィカは、焦る気持ちを抑え込む。

 魔王が泰基に近寄る。放ってしまいたい。けれど、あと少しだけ。


「ここまでだな、勇者の父親」


 魔王がそう言って、右手を振り上げた。拳が握られる。

 泰基が力なく、ただ上を見上げる。


(――今だっ!)


 リィカは、一瞬で魔法を生み出す。

 初級魔法であるボールの魔法を小さくした凝縮魔法。その数は、二十。


「いけぇっ!!」


 泰基へ振り下ろされる腕に、それら全てを放った。



※ ※ ※



『これ以上は、ムリかも』

『二十か』

『一つの属性につき、五つずつですか。それでも十分なくらいですね』


 リィカが、泰基とユーリとそんな会話を交わしたのは、ルバドール帝国からの地下道を抜けて、魔族の領地内を移動している時だった。


 初級魔法なのに上級魔法並の威力がある、凝縮魔法。複数個生み出すことが出来て、さらにそれを思うように操ることができる。

 使いようによっては、混成魔法よりもよほど使えそうなこの凝縮魔法を、リィカは練習し続けていた。


 出していける数をどんどん増やしていき、その数が火・水・風・土の一つの属性につき、五つ。総計二十になったところで、はっきりとリィカは「限界」を感じたのだ。


『で、全部ちゃんと操れるのか?』

『……うーん』


 泰基の質問に、リィカは唸る。

 それが一番の問題だ。数だけ増やしても、操りきれないようでは意味がない。


 とりあえず、自らの周囲を回転させてみる。ゆっくりから徐々にスピードを上げて、さらにまたゆっくりに戻す。


『……とりあえず、全部一気に同じように動かすなら問題ない。個別にできるかは……なんか的ないかな……』


 何もないところに放っても、上手くいっているかどうか分からない。出来れば何かあった方が分かりやすいし、集中できる。

 そう思って周囲を見渡しても、荒野が広がるだけ。ある……ではなく、いるのは仲間たちだけ。


 アレクと目が合ったら、全力で逸らされた。


『嫌だぞ、俺は』

『やってやれよ、好きな女の頼みだろ』

『そういう問題かっ! リィカの魔法、受けたくなんかないぞ! お前が的になれ、バル! 図体デカいし、ちょうど良いだろう!』

『やなこった』

『二人でもいいけど』

『リィカは少し黙っててくれ!』


 リィカの口出しに、アレクは本気で泣きたくなりながら怒鳴り返す。一人が二人になろうと関係ない。浮いている二十の球が怖い。上手く避けられればいいが、そうならなかったときが怖い。


『もし当たっちゃったら、回復しますよ。よっぽど当たり所が悪くない限りは、即死することはないでしょうから』

『何の慰めにもなんねぇよ!』


 ユーリのからかう気満々の口調に、バルが怒鳴り返す。だが、それで大人しく引き下がるユーリではなく、後ろで他人の振りをしている暁斗にも視線を送る。


『何でしたら、アキトも含めて三人で的になったらどうですか?』

『なんでオレに話をふるのっ!?』

『えっ!? 三人とも的になってくれるのっ!?』

『なんでそんなに嬉しそうなの、リィカ!』

『任せた、アキト』

『そうだな。ここは勇者サマの出番だ』

『なんでっ! アレクとバルでやってよ!』

『ですから、三人で的をするという話ですよ?』

『『『いやだ!!!』』』


 こんな事をギャーギャー言い合っていたら、魔物が現れてしまったので、結局的はそちらになったのだが。


 結論を言えば、二十の球すべてを同時に、バラバラの動きをさせるのは無理。けれど、同じ場所を狙うだけなら、何も問題ない。



※ ※ ※




「いけぇっ!!」


 リィカのその声とともに、凝縮魔法が放たれる。

 最初の一個が、泰基に攻撃しようとしていた腕を弾く。そして、その弾かれた腕に、残った凝縮魔法が次から次へと当たっていった。


「ぐああぁっ!?」


 魔王が悲鳴を上げた。右腕から、鮮血が舞ったのが見える。それを確認しつつ、リィカは凝縮魔法を腕に叩き付けていく。

 そして……。


 ――ドォォンッ!!!

「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 今までで一番の悲鳴を、魔王が上げた。


 ――右腕が、ボトッと落ちた。

 肩から先を、リィカの魔法が吹き飛ばしたのだ。


 魔王が、左手で肩を押さえる。

 リィカは会心の笑みを浮かべて、力尽きてその場に崩れ落ちる。


「これで終わらせる」


 ずっと集中したまま動かなかった暁斗が、動いた。



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