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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十四章 魔国

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VS魔王ホルクス⑩

「《上回復ハイヒール》」


 暁斗が魔王との戦いに戻ったのを見送りながら、リィカはアレクの回復を始める。使用した回復魔法は、通常の《回復ヒール》の一段階上の魔法だ。


 光魔法の回復であれば、さらにこの上に《全快オールヒール》があったり、広範囲に回復できる《範囲回復エリアヒール》があるのだが、水魔法にはこれらの回復魔法はない。

 水魔法の回復魔法では、《上回復ハイヒール》が一番回復力の高い魔法だ。


 リィカは、ルバドール帝国を出発して地下道を移動中に、この魔法を使えるようになった。

 旅に出る前は、《回復ヒール》の発動すらできなかったのに、それよりも上の魔法を使えるようになったことに、リィカは妙な感慨を覚えたものだ。


「リィカに回復魔法を掛けてもらうのは、久しぶりだな」

「そうだね」


 戦いの真っ最中だが、アレクの言葉にリィカも笑顔を見せる。

 最初に出会った魔族、パールとの戦いでアレクはリィカを庇って致命傷を負った。その傷を治すために、リィカは初めて《回復ヒール》の発動に成功した。


 リィカがアレクに魔法をかけるのは、その時以来だ。

 回復能力の高い光魔法を使える仲間が二人もいるのだから、リィカがわざわざ回復魔法を使うことはなかったのだ。


 チラッとリィカは別の所に視線を送る。そっちにいるのは泰基とユーリだ。その視線に気付き、アレクも表情を曇らせる。


「ユーリは……」

「……分かんない。泰基、混成魔法を使ってる」


 魔法を使っているということは、死んでいるということはないはずだ。そこで感情的になって、無駄と知りつつ魔法を使う泰基じゃない。


 フウッと息を吐く。ユーリも問題だが、こっちの問題だ。


「傷、治んない……」

「出血だけ止めてくれ。それで十分だ」

「……うん」


 水魔法の回復は光のそれより効果が低いとはいっても、治りにくい。暁斗とかけた二重の回復は、ただの《回復ヒール》であってもかなり効果が高かったが、やはりそう上手くはいかないようだ。


「すごいな、アキトの奴。魔王の動きについていっている」


 アレクの言葉に、リィカも暁斗に視線を向ける。

 確かにすごい。攻撃がまったく当たる気配のなかった先ほどとは違い、リィカの目でも暁斗の剣が魔王を捉えていることが分かる。


 ふと、暁斗の剣が、不自然な動きをした。少なくとも、リィカにはそう見えた。

 だがその剣が、魔王の脇腹に命中した。


「やっ……!?」


 やった、と言いかけた瞬間、リィカの言葉が止まる。

 魔王の拳が、暁斗の腹部にめり込んだのが見えたからだ。


 尋常ではない魔力が、魔王の両手に集まる。それを察した瞬間、リィカはアレクの側を離れ、暁斗の前に飛びだしていた。


「小娘か。貴様が先に死ぬか?」


 魔王の言葉を聞きつつ、リィカは右手を前に出す。

 放たれた魔力の威力に、口の端を上げる。笑うしかないとは、こういうことなのだろうか。


 あの全方位に放たれた魔力の津波。あれを両腕から放つことで、その威力を集中させていることが分かる。あれだけでもすごい威力だったというのに、それを集中……凝縮させたこれは、どのくらいのものとなっているのか。


「《天変地異カタクリズム》!」


 対抗するべくリィカが放ったのは、最強の混成魔法だった。



※ ※ ※



(押されるっ……!)


 リィカが、苦しそうに顔を歪める。

 魔王は余裕の表情だ。


 《天変地異カタクリズム》に込められるだけの魔力を込める。最強の魔法だ。際限なく……というと言い過ぎだが、それでもリィカが一切の手加減なく魔力を込めても、何も問題ない。


 だから、リィカも魔力の残量など気にする事なく、魔力を込めた。まだ半分以上は魔力が残っているのだ。抑えることを考える必要もなかった。けれど……。


「…………っ……」


 リィカは、グッと唇を噛んだ。魔力が、そろそろなくなる。

 混成魔法は混成魔法でも、《天変地異カタクリズム》の魔力使用量は、他の混成魔法の倍以上だ。それを維持し続け、さらに魔力を込めているのだ。ガンガン魔力は削られていく。


 だというのに、魔王の魔力を破るどころか、押されっぱなしだ。


「ここまでだな、小娘」

「……………!」


 魔王の声とともに、さらにその威力が上がる。

 リィカが前に出していた右手が震えて……その瞬間、《天変地異カタクリズム》が消滅した。


 ――やられる。


 そう思った瞬間だった。


「リィカっ! 受け取ってっ!」


 かけられた声とともに、何かが投げられた。

 その声の主に、リィカは泣きそうになる気持ちを堪えて、投げられたものをキャッチした。


「ありがとっ、ユーリっ!」


 その声の主に応えて、同時に受け取ったものの蓋を開ける。

 それは、マジックポーションだった。


 一気にあおり、今度は左手を前に出す。


「まだ、もう一発っ! 《天変地異カタクリズム》!!」


 そして、再び最強の魔法を唱えた。



※ ※ ※



 二発目の《天変地異カタクリズム》は、今度こそ魔王の放った魔力と拮抗した。


「ぐぬっ」

「…………っ……」


 魔王が少し苦しそうな声をもらし、リィカは唇を噛みしめる。


(負けて、たまるか……!)


 勝てなくていい。引き分けでいい。

 魔王の膨大すぎる魔力が、この攻撃に注がれている。この攻撃が終われば、魔王に残る魔力は激減するはず。


 だから、この攻撃を自分一人で凌ぐことができれば、仲間の五人が一気に攻撃を畳みかけることができる。そうすれば、きっとこの戦いは、自分たちの勝ちだ。


 きっと、回復しているはずだ。自分が回復途中で放り出してしまったアレクも、魔王の攻撃をまともに受けてしまった暁斗も。回復して、攻撃のチャンスを、待っている。

 それを疑う理由など、どこにもない。


「……………」


 リィカは、キッと魔王を見据える。

 ここが正念場だ。ここさえ凌げば……。


『この魔方陣なら、日本に帰れるよ。少なくとも、どっちか一人はね』


 森の魔女と呼ばれていた香澄の言葉を思い出す。

 日本に帰れる。帰してあげられる。自分だったら、泰基も暁斗も、二人とも日本に帰してあげられる。


 だから……!


「いけぇっ!」


 残っている魔力を、全部ぶつける。一気に込める。爆発させるように。

 そして、リィカの《天変地異カタクリズム》が、大きく膨張した。


「なにっ!?」


 魔王が驚く声を上げる。《天変地異カタクリズム》が魔王の魔力に覆い被さる。まるで、飲み込むかのように。


 ――バアアアアァァァァァァァァァァァァァン!!


 そして、大きく爆発を起こした。

 相殺した、とリィカが思った瞬間だった。


「《太陽爆発ソーラー・フレア》!」


 唱えられた魔法は、光と火の混成魔法。――ユーリだ。

 魔王を中心に、大爆発を引き起こす。


 それを見届けながら、リィカは力尽きて床に座り込んだ。


(みんな、あとはお願い)


 その願いが、絶対に叶うことを信じて。



いつもお読み頂きありがとうございます。

年内の更新は、これで終わりとさせて頂きます。

新年は1/3(火)から更新する予定です。


それでは皆様、よいお年をお迎えください。


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