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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十四章 魔国

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VS魔王ホルクス⑧

 暁斗は、泰基の回復を受けながら、ホウッと息を吐く。


 一番重傷で回復に時間がかかる自分よりも、もっと早く回復が出来そうなアレクやバルから回復した方が良いんじゃないか、とも思う。思うのだが、これだけの傷を負いながら、父が二人の治療を優先させたら、それはそれでショックを受けそうだ。


 そんな考えを持ってしまう自分に、嫌気がさす暁斗だったが、その考えはユーリが殴り飛ばされたときに吹き飛んだ。


「……暁斗、悪い」

「いいよ。ユーリをお願い」


 まだ回復は途中だ。でも泰基が謝ることなどない。ユーリを助けられるのは、泰基だけだ。


 バルが、回復もそこそこに魔王の拳を受け止めた。

 暁斗は声を張り上げる。


「リィカ! こっち来て!」


 完全回復など望めない。でも、もう少しだけ回復したい。まともに魔王の攻撃を受けた。傷が深い。まだ血が止まらない。

 戦うために、勝つために、回復は必要だった。


「暁斗!」


 駆け寄ってくるリィカが持つ回復魔法は、水魔法だ。光魔法に比べると、回復能力は落ちる。でも、少しでも回復を早くするために、暁斗は思いついた事を提案した。


「ねぇ、リィカと二人で《回復ヒール》したら、回復早くならないかな」

「……そうね」


 暁斗の提案に、リィカは少し考えて、頷いた。

 暁斗も、水魔法の回復魔法は使える。だから、水魔法同士で掛け合わせたらいいんじゃないかと思ったのだ。


「やってみて。わたしが調整するから」

「うん。――《回復ヒール》」


 リィカの言葉に、暁斗は《回復ヒール》を使った。

 暁斗が思い出すのは、日本にいた時によく読んでいた小説なんかに出てくる、いわゆる「過剰回復」だ。行き過ぎた回復魔法は、逆に相手の体を壊してしまう。


 水魔法同士の掛け合わせなら、過剰なまでの回復にはならないと思ったから提案したのだが、リィカの「調整する」という言葉に、安心する。

 大丈夫、リィカに任せておけば、心配ない。


「《回復ヒール》」


 リィカも魔法を唱えた。暁斗の魔力の流れに合わせて、リィカの魔法が乗せられたのが分かる。


 こんな時なのに、暁斗は嬉しくて恥ずかしくなる。リィカが自分のすぐ近くにいる。自分に手を触れている。

 最初から諦めている恋だけど、でもやっぱり好きだと思う気持ちは、なくせない。


 暁斗はフウッと息を吐き出して、気持ちを魔法に切り替えた。


 光魔法の《回復ヒール》は、魔力そのものに回復の力を乗せる魔法であるのに対し、水魔法の《回復ヒール》は、本人の回復能力をアップさせる魔法だ。

 だから、回復魔法としての能力を考えると、光魔法の方が強いのだ。


 だが、水魔法と水魔法の《回復ヒール》が重なったとき、暁斗の体が強く青く輝いた。


 暁斗は息を詰めた。リィカが弾かれたように手を離す。

 効果は、すぐに分かった。これまでズキズキ痛みを発していた傷が、治っていく。


「これなら……!?」


 行ける、と思った暁斗だが、バルと魔王の戦いの様子に動きを止めた。

 バルが、魔王の懐に入り込んでいた。


「フォルテュード! 【獅子斬釘撃ししざんていげき】!」


 割り込む隙がない。

 だったら、待つだけだ。まだ体を覆う青い光は残っている。まだ回復途中だ。だったら、最後まで回復させてもらう。


 そう判断して、暁斗は待つ。こんなに静かにチャンスを待てる自分に驚きながら、聖剣を右手にもって暁斗は待った。


 そして、体を覆う青い光が消えた瞬間だった。

 魔王が一瞬にしてバルの目の前に移動した。その速さに暁斗も魔王を見失いそうになったが、離れた位置から見ていただけあって、たぶんバルよりは見えていた。


「【鯨波鬨声破ときこうせいは】!」


 水の剣技を放つ。その剣技は魔王の拳を逸らし、バルを救う。


「回復終了したよ、バル!」


 今度は、バルと一緒に二対一だ。



※ ※ ※



「残念だったね。せっかく傷を与えても、回復しちゃって」


 挑発するように、暁斗が魔王に言い放つ。

 バルが抑えていたおかげで、何の心配もなく回復できたのだ。数の暴力、といってしまえば、身も蓋もないが。


 リィカはアレクの回復に入り、泰基がユーリの回復をしている。回復をしているということは、ユーリは生きているという事だ。

 おそらく、泰基の使用している魔法は混成魔法だ。ということは、それだけユーリは重症だったのか。


 暁斗の言葉に、魔王は鼻で笑う。


「回復など、したくばいくらでもするが良い。何度回復しても、叩き潰せば良いだけのこと。貴様らとて、無限に回復できるわけではあるまい?」


 この言葉に暁斗は顔が引き攣った。挑発など、慣れないことはするものではなかったか。

 そうだ。無限に回復などできない。魔力量という限界が存在する。


「限界が来る前に倒せば、何も問題ねぇってことだ、アキト」

「う、うん、そうだね」


 バルのフォローに頷く。全くもってその通りだ。

 だが、剣を構えて魔王を見据え、暁斗は顔をしかめる。


 バルが大きく傷をつけたはずの胸部、すでにほとんど傷が治ってしまっている。先ほどの腹部と同様だ。ダメージを負わせているはずなのに、それが蓄積している様子が、まるでない。


「…………………」


 暁斗は魔王の魔力の流れを見る。仲間の中で一番魔力が多いリィカとでさえ、比べものにならないほどに、濃密な魔力だ。それが体に干渉しつつ、内側を流れている。


「魔力で、傷を治してる……?」

「ほぼ正解だ。だが、我が意識しているわけではない。気付けば、傷が勝手に治るようになっていた」


 なにそれ、と暁斗は文句を言いたい気分だった。そんなの不死身じゃないかと思う。そんな奴を、どう倒せというのか。


「だが、限界があんのはおれたちだけじゃねぇ。てめぇだってそうだろ。魔力がなくなりゃ、回復しねぇ」

「あ、そっか」


 バルの言った事は、当たり前と言われれば当たり前の話だ。暁斗の気の抜けた相づちに、バルはどこか呆れた風に笑う。


 そして次に魔王に向けた言葉は、挑発的だった。


「魔王さんよ、あんただって無敵じゃねぇ。さっき、おれの剣をわしづかみにしたとき、剣をへし折ろうとしただろう。あの余裕の表情からして、間違いなく折れると思っていたはずだ。残念だったな、出来なくて」


 何の話か、暁斗には分からなかった。きっと、自分が回復に専念している間の話だろう。だが、魔王が舌打ちせんばかりの表情をしたのは分かった。

 つまり、魔王が自分の思い通りになっていないことだってあるということだ。


 だったらもう、全力でぶつかって魔王の限界を超えるだけだ。


「《火の付与フレイム・エンチャント》!」


 エンチャントを唱え、さらに聖剣に魔力を流す。火が大きくなるのをさらに干渉し、聖剣に集約させる。

 リィカやユーリがやっている凝縮魔法の、エンチャント版だ。


「【火鳥炎斬かうえんざん】!」


 火の、横に薙ぐ剣技を発動させた。




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