表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十四章 魔国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

499/679

VS魔王ホルクス⑦

 バルは、ズキンズキンと痛みを発する怪我を押さえながら、魔王の放った凄まじい魔力の津波と、それを防ぐユーリの《結界バリア》を見ていた。見るしかできなかった。


 駆け寄ってきた泰基が、暁斗の治療を始めている。一番魔王に距離の近かった暁斗が、どう見ても傷が重い。その次に重いのがアレクで、バルはちょうど暁斗の影になったおかげで、二人よりは傷は少ない。

 それでも傷は深いのだろう。だから、痛みも強い。


 魔王とて傷を負っている。アレクの傷に重ねて、自分も攻撃を重ねて、さらに傷を深くした。かなりの傷のはずなのに、魔王の攻撃の威力は、そんなものを感じさせない。


(このままじゃ、やべぇよな)


 ユーリの《結界バリア》は、魔王の魔力を防いではいるが、明らかに押されている。そう長くは持たないだろう。


 防御を重ねられる泰基は、暁斗の治療に集中している。《結界バリア》を張った上で《回復ヒール》を使う事はできるが、魔王を相手に同時に二つのことをやったところで、どちらも中途半端になるだけ。


 だったら、この場は回復に専念してもらった方がいい。自分たちも回復しなければ戦えない。


 そうなると、あともう一人はリィカだ。

 見れば、フラッとしながらも立ち上がったところだ。その腹部にある出血の痕を見て、リィカも同じように魔王の攻撃を受けてしまったことを悟った。

 けれど、自分たちよりは軽傷だったのか、自分の《回復ヒール》で治したんだろう。


「……………!」


 そこでバルは気付いた。

 自分も《回復ヒール》を使えることに。無詠唱はできなくても、詠唱すれば自分も使える。使う機会がないから、忘れていた。


「『水よ。彼の者に癒す力を与えよ』――《回復ヒール》」

「バル……」


 詠唱して発動させる。アレクの驚いた声を聞きつつ、確かに水魔法の《回復ヒール》は発動してくれた。ズキンズキン痛む傷に手を触れる。


「《地獄の門(インフェルノ・ゲート)》!」


 リィカが魔法を使った。バルには、混成魔法だろうということくらいしか分からない。


(――ったく)


 バルは、自然に口の端が上がるのを感じた。リィカだって怪我をしている。まだまだ痛みがあるだろうに、自分には思いもつかない魔法を使ってのけるのだから。


 その時、ユーリの《結界バリア》が強く光った。どうしたと思う気持ちは、不安ではなく、今度は何をやらかす気だという呆れに近い。


「《太陽爆発ソーラー・フレア》!」


 魔王を中心に大爆発を引き起こす。何が起こっても驚くつもりはなかったが、やはりこの威力には驚く。


 だが、魔王はそれでも倒れなかった。


 ――ドオオオォォォォォォォオォン!!


 魔王がユーリの魔法を吹き飛ばす。そして、一瞬でユーリの前に移動した魔王が、ユーリ自身を殴り飛ばした。


「…………!!」


 次に魔王が狙うのは、リィカだ。


 腰を浮かせたアレクを、同じように浮かせていたバルが押さえる。アレクはまだ治療できていない。バルは、自らの魔法で止血くらいは済んでいる。


 飛び出したバルはリィカを突き飛ばし、魔剣フォルテュードに魔力を込める。

 ――ギリギリ、間に合った。


「ほう」

「リィカ! ユーリを!!」


 フォルテュードで魔王の拳を受け止め、楽しそうにつぶやく魔王を無視し、リィカに叫ぶ。どう考えてもユーリは重体だろう。生きているかどうかさえ、怪しい。

 回復は、自分みたいな前衛の人間が担うべきじゃない。


 去っていくリィカの気配に満足しながら、バルは魔剣に更なる魔力を込めていく。回復が終わるまでは、魔王と一対一だ。


「魔剣フォルテュードか。この魔剣を使い、アシュラは我に傷をつけた。さて、貴様はどうかな」

「はんっ! 傷で済みゃいいけど、なっ!」


 魔王の挑発に、バルは真っ向から受けて立つ。

 自分の持つ魔剣フォルテュードの前の持ち主であるアシュラが、この魔王に傷をつけたと言われたからには、彼から魔剣を譲り受けたバルとしては、受けないわけにはいかない。


 先ほど、バルも魔王に傷はつけたが、あれはアレクのつけた傷に重ねただけ。自分の力だけでつけた傷ではない。

 そこまで思い出して魔王の腹部を確認する。つけたはずの傷はその痕が残るのみで、完全に塞がっている。


 バルは、これまでの情報を整理する。

 魔王は、元々強靱な肉体の持ち主だった。そこにさらに、魔族の使う身体強化の術を使用し、肉体を強化している。


 身体強化の術は、魔力によるものだ。肉体を強化している魔力を越える魔力をぶつけなければ、破ることはできない。そして、身体強化を破ったとしても、魔王が元来持つ強靱な肉体が待っている。


 だが、腹部の傷の治りっぷりはどういうことなのか。魔法は使えないと言っていたから、それが嘘でない限り、魔法で治したということはないはずだ。

 であれば、魔力が何か関係しているのか。リィカたちなら何か分かるのかもしれないが、バルには分からない。分かるのは、ただ厄介だ、ということだけだ。


(ガッチガチの防御だな)


 バルはそう思うが、だがそれだけなら怖くない。身体強化によってスピードも速いし、力もある。拳で一発殴られただけで、致命傷に等しいダメージを負ってしまう。


「《土の付与(アース・エンチャント)》!」


 魔王の拳と付き合わせたまま、バルはエンチャントを唱える。自分の適性は、水と土。鋭さを求めるなら、水のエンチャントを使用するべきだ。

 だが、それでもバルは土のエンチャントを選んだ。自分がより得意な属性だ。


「おれの出来ること、一つずつぶつけてやる! ――【獅子斬釘撃ししざんていげき】!」


 密着したまま、土の直接攻撃の剣技を放つ。エンチャントと合わさり、土が膨張して爆発が大きくなる。

 魔王の拳を弾いた。だがそれだけだ。傷など一つもついていない。


 ――その瞬間、魔王の姿がバルの目の前から消えた。


「…………っ……!」


 ほとんど反射的に、バルは反対を向いて剣を突き出す。――その剣は、魔王の手の平に受け止められていた。


「よく我の動きについてきた」

「……ちっ」


 魔王は称賛とともに、その拳を繰り出す。それをバルは紙一重で躱しながら、フォルテュードに魔力を流す。


 魔王の動きについていけたのは、ただの偶然……というだけではない。

 子供の頃から、アレクと剣を合わせ続けてきたのだ。アレクの剣は、早い。目で動きを追うだけでは追いつけない。

 そんなアレクとどう戦っていくか。それをバルは直感的に身に付けてきた。それが今、魔王との戦いにおいて役に立ったのだ。


「はっ!」


 バルは剣を振るう。狙いは……その首だ。

 だが、魔王は余裕の表情だ。バルの振るった剣をわしづかみ(・・・・・)にした。


「……………!!」

「……………!?」


 より驚いたのは、どちらか。

 だが、立ち直りはバルの方が早かった。


 土のエンチャントに、水の魔力を付与していく。魔王がわしづかみにしている剣が、より鋭い刃に変わっていく。


「【天竜動斬破てんりゅうどうざんは】!」

「ちぃっ!?」


 そのまま、水の直接攻撃の剣技を発動させる。

 魔王の表情が変わったのが、バルの目に映った。あり得ないほどの強い力が、剣技を押しつぶそうとしてくる。


 だが、バルもさらに魔剣に魔力を込める。押しつぶそうとする力を、強引に押し返した。


 ――ドガァァンッ!

「ぐおっ!?」


 魔王の右手の辺りで爆発が起こる。魔王の悲鳴のような声は、初めてだ。

 バルは間をおかず、魔王の懐に飛び込んだ。


「フォルテュード! 【獅子斬釘撃ししざんていげき】!」


 フォルテュードは、魔力を流すことで、相手の剣をたたき折れるほどの強度を持つようになる。エンチャントをかけている状態でフォルテュードに魔力を流すと、剣だけではなく、エンチャントもその強度を増す。


 元々強度の高い土のエンチャントと合わせて使用すると、その強度はリィカの《水蒸気爆発スチームバースト》すら防ぐことが出来た。


 魔力を流せば、強度は増す。そして、そのを叫ぶとその出力が一時的に高まる。

 今、魔剣の強度を高め、その上で剣技を発動させた。


 もしこれで無傷なら、真っ向勝負でバルが魔王に傷をつけるのは無理だ。

 そう思いながら、油断せず魔王を見据える。


 やがて、爆発の余波が収まり、見えた魔王の胸部には……大きな傷があった。


(よしっ)


 傷をつけて見せた。だが、それが最終目標ではない。

 攻撃を畳みかけようと足に力を入れた瞬間、魔王の姿がバルの視界から一瞬消えた。


「…………なっ……」


 気付けば、バルのすぐ目の前に魔王がいた。その拳が、バルの顔面目掛けて繰り出される。

 が、完全に虚を突かれたバルは、全く動くことが出来なかった。


「【鯨波鬨声破ときこうせいは】!」


 剣技が放たれた。水の、縦に切り落とす剣技。

 魔王の横から放たれたその剣技は、バルのものではない。


「回復終了したよ、バル!」


 暁斗が、聖剣を構えて立っていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ