VS魔王ホルクス③
暁斗は、自分の口の端が上がっているのを感じた。魔王の力がすごくて怖すぎて、自分がおかしくなっているとしか思えない。
魔王から放たれた津波のような魔力。何なんだと思うしかできない。
魔法と言えばリィカだ。でも、魔王のこれは魔法じゃない。もっと原始的な何かだ。混じりっけのない純粋な力、と言えばいいんだろうか。
暁斗は、自分に語彙力などないのは知っている。それでも、それが一番近いような気がしていた。
「《氷柱の棺》!」
リィカが魔法を唱えた。水と土の混成魔法。
すごいと思う。魔王の放った魔力を閉じ込めた。でも分かる。ほんの少し時間を稼げるだけだ。
(グラム、やるよ)
『……仕方あるまい』
自らの持つ聖剣グラムに話しかける。あまり乗り気ではないようだが、そんな事を気にしてはいられない。
暁斗は聖剣に魔力を流す。かつて聖剣の言った「剣で魔法を斬ることもできる」事だけが、唯一の希望だ。
《氷柱の棺》が壊れた。アレクが、リィカを守るように一歩下がるのを捉えながら、暁斗は前に出た。
「父さんっ、お願い!」
詳細など言う必要はない。言わなくても分かってくれる。この魔力の津波を前に、無防備で前に出るつもりなどない。
「デフェンシオ!」
父の声が聞こえた。これで自分は、十秒間の無敵状態だ。
聖剣を横に振るう。魔力の津波とぶつかった。
「ぐっ!」
凄まじい圧力が聖剣に掛かる。それだけではなく、聖剣を越えて自分に魔力の渦がぶつかってくる。デフェンシオの効果がなかったら、きっとそれだけで大ダメージだった。
「ほう」
魔王の面白がっているのか、感心しているのか、よく分からない声が聞こえる。
暁斗は、聖剣に魔力を流し込んだ。流し込み続ける。
――残り五秒。
(4、3、2、1……!)
一をカウントした瞬間、聖剣の輝きが増す。
そして、聖剣を振り抜いた暁斗は、魔力の津波を真っ二つに切り裂いていた。さらに、それが衝撃波となり、魔王へと向かう。
魔王は驚いたのか、その目を見開くのが見えた。
右手を前に出す。
(まさか、右手一本で受け止める気!?)
だが、そのまさかだった。その衝撃波を、魔王は右の手の平で受け止める。そこに、尋常ではない魔力が集まっているのが分かって、暁斗は息を呑む。
「フンッ!」
気合いを入れるように魔王が声を出して、同時に衝撃波が相殺された。
その手の平には、傷一つついていない……。
(いや、うっすらだけど、傷はある)
アレクも傷つけたのだ。決して魔王は無敵じゃない。その防御を突破できれば勝ち目はある。
(だったら、それまで攻撃を続けるだけだ)
暁斗がそう決意し、さらなる攻撃を仕掛けようとしたときだった。魔王の左側に人影があった。
「《氷の竜巻》!」
放たれたのは、水に水を重ねた混成魔法。
――泰基だ。




