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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ

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34.第二王子 アレクシス④

魔法を使うリィカの姿に見とれた時から。

そして、魔物に貫かれる寸前のリィカを助けた、あの時から。

自分の気持ちが分からない。



リィカに魔法を習う、と出かけていくユーリが羨ましい。

リィカと対等に話をするアキトやタイキさんのことも、羨ましい。

俺と話す時にいちいち遠慮する様子を見せるのが、腹立たしい。



でも、リィカに近くにいて欲しかった。

リィカが、本当は王宮に来るのを嫌がっていたのは分かっていたが、強引に王宮への宿泊を提案した。

色々な気持ちが入り交じっていて、でもリィカが王宮にいる生活は嬉しかった。




旅に出る前に、一度魔物と戦っておこう、という話になった。


俺たちもそうだったから分かるが、訓練で戦うのと、実際に魔物と向かって戦うのでは、まったく違う。

初めて、ゴブリンと対峙した時の恐怖は、今でもはっきり覚えている。


しかし、アキトもタイキさんも、いざ戦ってみれば、結構戦えていた。タイキさんが比較的落ち着いていたというのもあったかも知れないが、これなら大丈夫かと思った時。


――アキトがその場で嘔吐した。


後から、血の匂いに慣れていない、倒すという行動に慣れていない、と教えられた。

そんな事は知らなかった。考えたことさえなかった。


それなのに、あの時「頑張ったね」と言って、アキトの背中をなで続けていたリィカは、なぜかアキトのその時の葛藤を理解していたように思えた。



父上と兄上から、旅立ちの前日に、勇者への激励パーティーをするという話を聞いた。

貴族達に押されて、父上も却下できなかったらしい。


アキトもタイキさんも、嫌そうな顔をしているが、父上に頭を下げられると、嫌だとは言えないらしい。


これまで勇者に媚びを売りそうな貴族連中は、一切近づけないようにしていたが、パーティーともなれば、そうはいかない。


二人とも、そんな対応は慣れていないだろうから、パーティー中はずっと誰かが側につくようにするそうだ。



慣れていないという意味では、リィカも変わらない。

どうするんだ、と思っていたら、王妃様と義姉上がリィカを連れ去っていった。


それを呆然と見送っていると、父上がため息交じりに言った。

「王妃が大変に張り切っていてな。リィカ嬢をどう着飾らせようかと、レーナニアまで巻き込んで大騒ぎだ」


「……レーナも喜んで巻き込まれていましたけどね。そういうわけで、アレク、お前リィカ嬢のエスコート役だからな」

何の脈絡もなく、兄上にそんな事を言われて、俺が理解できないでいると、


「アレク。お前、正装した女性を一人で歩かせる気か? 誰かエスコートが必要だろう。勇者様お二人は慣れていないし、バルムートとユーリッヒには婚約者がいる。お前が適任だ」


こうして、まったく拒否する余地もなく、俺がエスコート役をすることに決定。パーティー中は、側を離れるなと言われた。


婚約者もいない俺は、パーティーでの女性のエスコート経験はない。慣れていないという意味じゃ、アキト達と大して変わらない。兄上に、一から教えてもらった。



そして、パーティー当日。

自分の衣装は適当でいいやと思っていたら、しっかり王妃様たちに用意されていた。

リィカと衣装を合わせたらしい。


着替えが終わったと扉が開けられて見たリィカは……、どこの女神様かと思うくらいにきれいだった。


普段のリィカは、可愛いという言葉がよく似合う。

でも、今のリィカは、その可愛らしさに、大人っぽさが混ざり合っていて……、


「……その……きれいで、びっくりした」


意識せず、ポロッと口から零れた言葉。我に返ってから、とんでもなく恥ずかしかった。

それをごまかすように、教わった作法通りに手の甲にキスをしたら、慌てたリィカが後ろに倒れてしまった。


咄嗟に支えて……ドクンと心臓が大きく鼓動した。

自分の手が、リィカの腰に回っている。


――このまま抱きしめたい。


一瞬、そんな感情に支配されて……それで気付いた。

俺は、リィカのことが好きなのか、と。




俺はできるだけ腕の感覚を気にしないようにしながら、ゆっくり歩く。

リィカは、俺の腕にしがみついて、必死の形相で歩いているから、まったく気付いてないんだろう。


リィカの胸が、俺の腕に当たっている。

今さっき、好きだと気付いたばかりの状態で、この感触は毒だ。


そもそも、靴だって、もう少し歩きやすい靴もあるはずなのだ。

慣れていない人に、わざわざ歩きにくい靴を用意するなど、王妃様や義姉上らしくない。


となると、明らかにわざと、と言うことになるんだが……。

何のために、そんな事をしたのか。


そんなことを考えていたら、他の四人と合流して、控え室に入った。


ソファに座って飲み物を飲んで少し落ち着いたらしいリィカが、

「みんな、格好いいなぁ……」

なんて事を言い出した。


言いたいことは色々あるが、あえて一つだけ言わせてもらうなら、ここにいる俺も含めた男五人、皆リィカに比べると見劣りするからな。



「それよりも、リィカ。俺たちは明日から一緒に旅をするだろう?」

俺は、ずっとリィカに言いたかったことを、お願いすることにした。


「旅している途中、殿下とか様付けとかで呼ばれると困るんだ。――だから、今から、俺のことはアレクと呼んでくれ。敬語もいらないからな」


しばらく、ポカンとしていたリィカだが、ややしばらくして、

「…………………………ええ!? ま……待って下さい!」


その言葉を聞いたら、それまで必死に押さえ込んでいたものが、抜けたように感じた。

腕に抱き付かれて困っていた俺の気持ちを、少しは分かればいい。


「敬語禁止って言っただろう?」

そう言って、リィカの手を取って、手の甲にキスすれば、顔が真っ赤に染まった。


ついでに、助けを求めるように、周りを見たリィカに腹が立って、適当に理由をこじつけて、またキスをする。


「うぅ…………………。……………………………アレク」


真っ赤になりながら、名前を呼ばれたら、自分でも驚くくらいに嬉しかった。

これだけで満足だった。



パーティーは、大変だったのはやっぱり勇者二人の方だろう。


リィカにちょっかい掛けてきたのは、そんなに多くない。魔法師団が嫌みをぶつけてきたくらいか。


とにかく面倒だったパーティーで、一番衝撃だったのは、王妃様からコソッと言われた言葉だ。

「リィカさんにしがみつかれて、抱き付かれて、どうだった? 嬉しかったでしょ?」


そういたずらっぽく言われて、顔が赤くなったのが分かった。

歩きにくい靴を何で用意したのか、なんて知らない方が良かったかも知れない。



※ ※ ※



パーティー終了後、父上から呼び出しを受けた。

何だろうと思って行けば、そこには王妃様も兄上もいた。


「アレク。受け取れ」

そう父上が言って、俺に差し出してきたのは、一本の剣。


「……え?」

「早く受け取れ。重くてかなわん」

「あ、は、はい!」


不機嫌そうに言った父上に、慌てて剣を受け取れば、ズシリとした重みが、手に伝わった。


「大分前から作らせていたのだがな。……間に合って良かった」

「…………俺に?」

「当たり前だろう。他にだれがいる」


言われて、剣に目を落とす。柄に右手を添えれば、手に吸い付くような感覚を覚えて、そのまま剣を抜き放った。


「……………すごい、剣だ」


普段、俺が使っているのを同じ、両刃のロングソード。

でも、刀身に使われている金属も、魔石も、間違いなく一級品だ。

でも、それだけじゃない。

何よりも、手になじむ。


「気に入ってもらえたようだな」

父上が、ホッとしたようにつぶやいた。


「出来上がったと渡された時には、あまりにも重いからこんなの使えるのか、と思ったんだが。お前の様子を見ている限りじゃ、問題なさそうだな」


「……ありがとうございます、父上」


「ああ。……その剣が、少しでもお前の旅の助けになることを、願っておるよ」

うなずけば、今度は王妃様が、俺を抱きしめた。


「――アレク。行ってらっしゃい」

それだけ。でも、そんな中に、王妃様の色々な感情が込められているように感じた。


そして、

「アレク。――今までお前が使っていた剣、私にくれないか?」

兄上からの言葉は、意外だった。


「え? でも、どこにでもある普通の剣ですよ? 兄上なら、もっと良い剣だって……」


「私が良い剣を持ったってしょうがないだろう。だけど、お前が使っていた剣を使えば、私ももう少しマシに、剣が使えるようになるかもしれない」


それで剣の腕が上がるなら、誰も苦労しない。なんて言うのは、きっと違うんだろうな。

これまでずっと一緒だった俺たちの、兄上なりのけじめの付け方なんだろう。


剣を外して兄上に渡せば、大事そうに抱えられた。


「ありがとう、アレク。――旅から帰ってきたら、たくさん話を聞かせてくれ。約束だからな?」

「はい。兄上」



そして、俺たちは、長い旅に出ることになる。



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