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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ

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魔法の授業

 入学式からヒヤヒヤした学園生活だったが、始まってしまえば穏やかだった。同じクラスの生徒たちとも仲良くなり、リィカは学園での生活に少しずつ慣れていく。


 穏やかな学園生活に少し例外が生じたのは、そんなとき。初めての魔法の授業のときだった。



 学園への入学を要請(というか強制)されてから、入学までおよそ一ヶ月。リィカは兵士から「絶対に一人で魔法を使わないこと」を何度も念押しされた。


 それは当然のことだろう。一度リィカは魔力暴走を起こした。それまで魔法というものに触れたことがほとんどないのだから、当然魔力の制御など知りもしない。


 そんなリィカが下手に魔法を使おうとして制御に失敗して、また暴走されたらたまらない。今度も絶対に被害ゼロで収まる保証などない。


 よって、その注意は当然のことだ。それはリィカも分かる。分かるのだが、それでもどうしても我慢できないことというのは存在する。――つまりは、勝手に練習をしてしまったのだ。


 一応、理性は働いた。渚沙の記憶にあるような、必殺技みたいな魔法は諦めた。リィカが練習したのは、「生活魔法」と呼ばれる小さな火種を生み出す魔法。リィカが見たことがある魔法の、二つのうちの一つだ。


 いきなりは使えなかったが、それでも試行錯誤するうちに使えるようになった。初めて成功したときの感動は大きかった。そしてそこからさらに練習を重ねていったのだが、それが大騒ぎに繋がることなど、リィカは全く想像もしていなかった。



※ ※ ※



「《ファイア》」


 これが、小さな火種を出す魔法の名前だ。指先に小さな火が点る。


 学園にある魔法の練習場。

 初めての魔法の授業で、使える魔法を使ってみろという教師の言葉で、皆が一つずつ順番で魔法を使った。


 そして、リィカの順番が来たので唱えたのだが、教師は何も反応しない。ただリィカを凝視しているだけ。


「あの、先生……?」


 戸惑って声をかける。

 今いる教師は二人。一人はダスティン。もう一人は、ザビニーという魔法を専門に教えている教師だ。貴族出身の教師で、来た早々にダスティンや平民クラスの生徒たちを見下してきて、リィカが苦手意識を持つのも早かった。


 それでも、教えるのは真面目にやってくれていた。他の生徒たちには何かしらの反応やコメントをしていたのに、今ザビニーはただ凝視しているだけ。


 ダスティンも同様だったが、それでもリィカの声に反応して、ゴホンと咳をした。


「リィカ、もう一回使ってみろ」

「……? はい」


 他の皆は一回だけだったのになぜだろうと思ったが、それでも言われた通りにもう一度魔法を唱えた。


「《ファイア》」


 先ほどと同じように、指先に火が点る。すると、今度はクラスメイトたちがざわついた。


「やっぱり?」

「え、ほんとに?」

「マジで?」


 などなど会話が聞こえて、視線を向ける。目が合ったら、一人が話しかけてきた。


「リィカ、詠唱は?」

「えいしょう?」

「そうだよ。魔法は詠唱して使うものだろ? いつ詠唱したんだ?」

「……え?」


 呆然としたリィカに、クラスのリーダー格になりかけているその男の子が説明した。


 魔法は、「詠唱をして」「魔法名を唱えて」発動させるのが、当たり前のことらしい。だというのに、リィカは詠唱せずに魔法名を唱えただけで、魔法を発動させた。そんなことが可能だというのは、聞いたこともないらしい。


「でも発動するよ?」

「だから、あり得ないんだって」

「でも発動するのに」

「だから、普通は発動しないんだよ」


 確かに他の皆は詠唱していた。リィカ自身も、初めて魔法の発動に成功したときは、詠唱しての発動だった。けれど練習した結果、詠唱しなくても発動できるようになった。そこに特別なことは何もない、とリィカは思っていた。


「あり得ません! いえ、そんなことがあってはいけません!! リィカ・クレールム、あなたは何をしでかしたんですか!!」


 突然ヒステリックに叫んだのは、ザビニーだ。目がつり上がっている。


「来なさい! 断じて許容できることではありません! 何をしたのか、尋問します!」

「……え?」


 何のことか分かっていないリィカの腕を、ザビニーは思い切り引っ張った。痛みに顔をしかめても、その力は緩まない。詠唱しないことの何が問題なのか、そう聞きたくても、怖くて口を開けない。


「ちょっ……、ザビニー先生、お待ち下さい。尋問はないでしょう。確かに驚きではありますが……」

「黙りなさい! 平民の教師ごときが! これがどれだけ大事おおごとなのか分からないんですか!」


 ダスティンの言いかけた言葉は途中で遮られた。言葉に詰まったのか、それ以上ダスティンは何も言えず、ザビニーは何もなかったかのようにリィカの腕を引っ張る。


「ダスティン先生……!」


 助けを求めるようにリィカが呼ぶと、ダスティンはハッとして口を開いた。


「平民も貴族も関係ありません。リィカは俺の生徒ですよ。生徒が何も悪いことをしていないのに、尋問されると聞かされて、黙っていられる教師はいません」


 だがその言葉に、ザビニーの表情はさらに歪んだ。


「まったく、これだから平民の教師は。悪いことをしていないはずがないでしょう。そんなのも分からないんですか。――いいから来なさい」


 ダスティンを馬鹿にするように言って、再びリィカは腕を引っ張られた。痛くて本気で泣きそうになったとき、練習場の外から穏やかな声が聞こえた。


「サビニー先生、どうされたんですか。――なぜ生徒の腕を引っ張っているんですか?」

「学園長!? なぜここに……!」


 ザビニーが驚いている。というか、リィカも驚いた。姿を見たのは入学式以来だが、そこにいたのは間違いなく、この学園のトップ、学園長だ。


「今日、平民クラスの初めての魔法の授業でしょう? まさしく、あなたが腕を引いている彼女、リィカを見に来たんですよ」

「……は? いや、なぜ学園長ともあろう方が、たかが平民を」


 ザビニーの言い方に腹が立ったリィカだが、言いたいことは分かる。なぜわざわざ見に来たのか。そもそも、顔と名前を覚えられていることに驚く。


「確かに平民ですが、たかがはないでしょう。魔力を暴走させながら、それをコントロールした少女ですよ。気にして当然です」

「いや学園長、それは……」

「それで、彼女がどうかしたのですか?」


 ザビニーが何か言いかけたのを学園長が遮り、問いかけたのはダスティンだった。


「その、リィカの使った魔法が常識外れで。それでザビニー先生がリィカに怒り、尋問すると……」


 学園長が眉をひそめた。


「ザビニー先生、腕を離しなさい。リィカ、その魔法を使って見せてくれますか?」

「あ……はい……」


 腕は離してもらえた。だがリィカは怖かった。何が駄目なのか、なぜ怒ったのか、その理由が分からないままだ。魔法を使おうとしても、手が震える。怖くて集中できない。

 だが、学園長の手が優しくリィカの頭にのせられた。そのまま撫でられる。


「怖がらないで。落ち着いて。ゆっくり深呼吸しなさい。――怒りませんから安心して」


 優しい手と言葉に、リィカの怖さが薄れた。言われた通りにゆっくり深呼吸して、人差し指を立てた。


「《ファイア》」


 魔法が発動した。立てた指先に、小さな火が点る。


「……なるほど、そういうことですか」


 一瞬の沈黙のあと、学園長がつぶやいた。それに身を乗り出したのはザビニーだった。


「学園長、これで分かりましたね? 今すぐにでも尋問して……!」

「必要ありませんよ、ザビニー先生。あなたの言い分は理解しましたが、私の考えはあなたとは違います。全員が同じ考えだと、思わない方がよろしいですよ」

「はあっ!? どういうことですか!!」

「それに、問題はそこではありません」


 ヒートアップするザビニーに、学園長はあくまで冷静だ。


「リィカ。普通、魔法というのは詠唱をして魔法名を唱えて、発動させるものです。ですので、詠唱せずに魔法が発動できるというのは、常識では考えられないことです」


 それは先ほどクラスメイトに言われたことと、同じ内容だ。さすがに言い返すことはできず、リィカは口をきつく結んだ。何を言われるんだろうと思うと、体が震えた。


「ですが、いいと思いますよ。詠唱せずに魔法を使えたらどんなにいいだろうかと、私も思ったことがありますしね。素晴らしい才能だと思います。これからも頑張りなさい」


 驚いて、目を見開いた。


「この学園にいる間は守ってあげられますが、卒業してしまえば、あなたを守るのはあなた自身です。三年間、懸命に学びなさい。魔法も知識も、守るための武器になりますから」


 唐突に感じて、リィカは首を傾げた。なぜいきなり守るという話になるのかが分からなかった。

 おそらくそんなリィカの疑問は分かっているのだろう。学園長はさらに話を続ける。


「なぜザビニー先生が怒ったのか、その理由も学びなさい。程度の差こそあれ、ザビニー先生のような考えを持つ人は多いですから」

「えー……」


 さすがに不満が出た。なぜ怒られたのか、その理由は教えてくれないらしい。というか、なぜ怒る人がいる一方、学園長のように認めてくれる人もいるのか。その差は一体何なのかと思う。


 だが、学園長は穏やかに笑うだけだ。


「学びなさい。自分で学んでこそ、価値がある。大丈夫、まだ始まったばかりです。一人で行き詰まったときは言いなさい。ダスティン先生も私も、力を貸しますよ」


 その言葉に、リィカは不満を持つことをやめた。


「――はい」


 分からないことだらけだと思う。学園長の話も、きちんと理解しているのかも自信がない。けれど、せっかく魔力があることが分かり、魔法も使えるようになった。


 小さな村出身に過ぎないリィカが、王都に来て国立の学園に入学して学ぶなどという、奇跡のような機会が飛び込んできた。言われたとおりに、学べるだけ学びたいと素直にそう思ったのだ。


「ですがリィカ。なぜあなたは魔法を使えるのですか?」

「え?」


 決意を新たにしたところで、言われた学園長の言葉に、疑問が浮かぶ。


「魔力暴走を起こす前から、魔法を使えていたのでしょうか?」

「え、いえ、その前はまったく…………」


 言いかけて、学園長が言いたいことに気付いた。


「あなたを対応した兵士からの報告では、あなたに決して一人では魔法を練習するなと念押しして、あなた自身も頷いたとありましたが、なぜ使えるのでしょう?」


 全くもってその通りで、リィカは魔法を使えては駄目だったのだ。言われたことを破って一人で勝手に練習した。そして、言われていたことをすっかり忘れて、この場で見せてしまった。


「…………」


 リィカは無言のまま顔を逸らせた。その反応が答えになってしまうとは思っても、それ以外にできる反応がない。何よりも、先ほどまでは安心できた学園長の笑顔が、今は同じ笑顔なのに怖くて見られない。


「来なさい。少し説教です」

「怒らないって、言った……!」

「それとこれとは話が別です。――ザビニー先生、ダスティン先生。授業を続けて下さい」


 リィカがザビニーを見ると、睨んでいて咄嗟に目を逸らす。ダスティンは諦めたように笑って、手をヒラヒラ振った。


「行って怒られてこい」

「先生ひどいっ」

「行きますよ、リィカ」


 ダスティンにあっさり手の平を返されて文句を言ったが、学園長に怖い顔で促されれば素直に従う以外の道はない。



 トボトボと従って、学園長室で説教された。しかし説教だけでは終わらずに、美味しいお菓子をごちそうしてくれた。


「素晴らしい才能だから、これから頑張りなさい」


 そう言われて、リィカが学園長室を出たときは、やる気で一杯だった。

 そしてそれは、中間期テストの魔法の実技試験で、一位を取ってしまうほどになったのだった。


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