4.リィカ④ー入学式
こちらも、割り込みで投稿です。
校舎が、貴族用と平民用の二つに分けられているのには、意味がある。
平民の生徒を守るため、らしい。
詳しい事は知らないけれど、過去に権力に物を言わせて、無理矢理平民を従わせようとした貴族がいたらしい。
以来、平民の情報は、貴族には伏せられるようになった。ごく一部の例外を除いて、貴族と平民は分けられるのだ。
だからなのか、平民クラスの先生も、平民だった。
「ダスティン・アルール、という。よろしく頼む」
入ってきた先生が、砕けた態度で挨拶した。
わたしもだけど、他の人も浮かべていた緊張が、少し和らいでる。
話しやすそうな先生だ。
この先生だったら、もしかして何とかしてくれるだろうか。
そんな希望を抱いた。
ちなみに、平民は姓を持たない。持つのは、貴族だけだ。
名乗る時の姓は、その人の出身地だ。
わたしが住んでいた村はクレールム村だから、わたしが名乗る時はリィカ・クレールムになる。
先生のアルール、とはこのアルカトル王国の王都の事だから、先生の出身は王都だということだ。
※ ※ ※
貴族と平民が一緒になる、数少ない例外の一つが、この入学式のような式典だ。
お偉いさん方が挨拶するのに、わざわざ二度も……というか、数少ない平民だけのために挨拶してくれるはずもない。
ということで、貴族用の校舎に足を踏み入れていた。
入学式は、一言で言えば退屈だ。
日本のそれと、さほど変わらない。
学園長の挨拶の時は、眠かった。
国王陛下の挨拶の時には、眠気が吹き飛んだ。
そして、最大の問題が発覚したのは、この後だった。
「新入生代表挨拶。――アークバルト・フォン・アルカトル。前へ」
「はい!」
アルカトル、とは国名と一緒だ。つまりは、もしかして王族なのか。
王族が同年代にいるのか、と考えて、見た姿に愕然とした。
その人は、わたしが貴族校舎に入り込んだときに声を掛けてくれた人。わたしが、目の前で逃げ出した人物が、そこにいた。
「やっぱり、王太子殿下が主席だったのね」
「当然よ。殿下に敵う方なんて、いないわよ」
一瞬、ザワッとして聞こえた会話に、血の気が引いた。
貴族じゃなく王族だった、と言うことだけでも衝撃だったのに、まさかの王太子……?
そこから先は、ほとんど頭に入らなかった。
※ ※ ※
その後、ダスティン先生に話した。
怖くて、黙っていることなどできなかった。
「……なぜ逃げたんだ。お礼の一つでも言えば、良かったんじゃないのか」
先生には呆れられた。
全くもってその通りだ。相手が同じ平民なら、当たり前に言えたんだろうけど。
「……その、下手に会話して、無礼者、とか怒られたら、どうしようかなって……」
何せ相手は貴族だ。
自分のどんな言葉が、相手を刺激するかが分からない。
そう思うと、会話することさえ、怖いのだ。
「…………………………そうか、分かった」
少し長めの沈黙の後、先生の言葉は、どこか優しい気がした。
「先方の先生に、話はしておこう。だがまあ心配するな。きっと、王太子殿下なら大丈夫だろう」
何を根拠に大丈夫と言うのか。
けれど、王太子殿下から呼び出されるような事態は何もなく、ホッと胸をなで下ろしたのだった。