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【改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ

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魔法を使えるまで

 暁斗の魔法が成功したことで、一気に明るい雰囲気になる。けれど、それに水を差す者がこの場にはいた。


「あり得ない! 神に見放された者が、魔法を使うなど!」


 魔法師団長のレイズクルス。口出しはしてこなかったが、ずっとこの場にいたのだ。後ろにいる二人も「その通り!」などと一緒になって叫んでいる。


 リィカと暁斗の肩が、ほとんど同時にビクッとなった。アレクが厳しい表情を作った。


「魔法が使えるようになったというのに、何があり得ないんだ?」

「魔力の拒否反応を起こす者が、魔法を使えるなど、あるはずがないのです!」

「実際に使えた。それを否定することに、何の意味がある?」


 わざわざレイズクルスがここに来たのは、暁斗が魔法を使えるようにならなかったという“事実”を確認するためだろう。平民であるリィカを王宮にまで招くという無駄なことまでやっていたと、糾弾するためだ。


 だというのに、そのリィカが教えた結果、魔法を使えてしまった。レイズクルスの、勇者の指導係という立場が、平民によって崩された。それに焦りを覚えて、糾弾している。それを分かった上で、アレクは突きつけた。


「自らを指導係というのなら、どうしたら魔法を使えるようになるのか、一緒に考えるべきだったのではないのか?」


 使えるようになるはずがないと、さっさと見放したのはレイズクルス自身だ。そう言ってやると、レイズクルスの表情が歪んだ。


「私は代々魔法師団長を務めているレイズクルス公爵ですぞ。殿下といえども、魔法について口を出すのはいただけませんな」


 権威を持ち出してきた。普段であれば言い返すのは難しいのだが、今は「レイズクルスが見放した暁斗が魔法を使えるようになった」という事実がある。


「関係ないな」


 だから、こうしてバッサリ切って捨てるのも簡単だ。


「昨日からの、勇者様であるアキトへの言動、および本日の勇者様への罵倒は、国王陛下へ報告する。――貴様の指導係としての能力が疑わしいとな」

「わ、私がいなくなれば、勇者様へ教えられる者はいませんぞ」


 どの口がそれを言うのか、と笑いたくなるのを堪えて、アレクは言った。


「他にもいるから、困らないな」

「後悔しても知りませんからな!」


 言い捨てて去っていく。二人も慌てて後を追う。それを見送って、アレクは表情を緩ませた。レイズクルス相手の勝利は、何とも言えない快感だ。だが、暁斗とリィカを見て、喜んでいる場合ではないことを思い出す。


「アキト、リィカ、すまなかった」


 頭を下げた。レイズクルスは政敵だ。だが、暁斗やリィカからしたら、そんなことは関係ない。身内のしたことは、謝らなければならなかった。


「なんでアレクが謝るの? 必要ないじゃん」


 暁斗が笑って言った。


「オレたちを守ってくれたんじゃん。カッコ良くて王子様だーって、ビックリした」

「……俺は一応でも王子だし、男に格好いいと言われても嬉しくないぞ」

「ええー? じゃあリィカからならいいの?」

「…………」


 名前を出されたリィカが「え」と小さく呻く。アレクも分かりやすく固まったが、すぐに何かをごまかすように「ゴホン」と咳をした。


「……誰からでも変わらない。俺は俺のするべきことをしただけだからな」

「ふーん、そうなんだ?」


 そういう暁斗は、不思議そうにした。男では嬉しくないなら女の子からならいいんじゃないかと思っただけなのだが、アレクの反応が思ったものとは違ったからだ。だがそれ以上は聞かず、立ち上がると頭を下げた。


「ありがとう、アレク。すっごく怖かったから助かった」

「あ、ああ……」


 それを見て、リィカも慌てて頭を下げた。


「あの、わたしも、ありがとうございましたっ」

「……ああ」


 短い返事。見ると、アレクの顔はリィカから逸らされている。それを見てリィカは俯いた。もしかしたら、平民の自分が言うのは失礼なのだろうか。失敗だったのだろうか。


 何とか普通に話すことはできているが、やはり難しい。どうしていいか分からなくなる。学園にいた頃のように、逃げられるなら逃げたいと思ってしまうのだった。



(――やれやれ)


 一方、そんな様子を見ていたユーリはため息をつきたかった。隣にいるバルを見ると、視線がかち合う。どうやら、お互いに同じことを思っているようだった。


「ところでアレク、今後の指導係はどうするんですか?」

「リィカが教えてくれるんじゃないの?」


 ユーリの質問に、暁斗がそれが当たり前であるかのように言ってきた。リィカが「え」と小さく言うが、アレクがうなずいた。


「それが一番いいだろうな。父上には俺から伝えておく」

「えっと……」


 困ったのは、意見を聞かれることなく決定事項になってしまったリィカだ。決して教えるのが嫌なわけではないのだが、問題が一つ。


「教えるのって、この王宮で、ですよね。わたしが毎日、王宮へ通うってことですか……?」


 それこそあり得ない。平民の身で、勇者へ魔法を教えるために、王宮へ毎日通う。これが日本での言葉遊びなら面白いが、現実となるとまったく笑えない。


「ああ、そうか。それだと大変だよな。だったら、リィカも王宮に泊まるか。それなら通う必要はなくなる」

(そ、そうじゃないっ……!)


 アレクが大真面目に言っているだけに、その叫びは口には出せなかった。通うという行為自体が大変なわけではないのだ。


 平民の身で、勇者に魔法を教えるために、王宮で寝泊まりする。そんなことできないと伝えるにはどうしたらいいのか。悩んだリィカだが、その時間は短かった。


「それいいね! ね、リィカ、そうしようよ!」


 キラキラに輝いた目をした暁斗に、そう言われてしまったからだ。渚沙の気持ちがあっさりと陥落したのが分かって、はね除けることができない。


 そしてその瞬間、不本意であっても、王宮での宿泊が決定したのだった。



(まったく、しょうがねえ奴だ)


 バルは心の中で苦笑する。その視線の先には、アレクがいる。リィカに感謝の言葉を言われて、明らかに照れていた。そして今は、そのリィカの宿泊が決まって嬉しそうにしている。


 本人はその気持ちがどこから来るのか、まったく気付いていないようだが、近くで見ていると丸分かりだ。


 ユーリと視線がかち合う。してやったと言わんばかりにニヤッと笑っている。指導係の話題を出したユーリの意図は、やはりそこかと思う。バルは肩をすくめたのだった。



※ ※ ※



「じゃあリィカ、もっと魔法を教えてよ! あ、さっきの無詠唱教えて!」


 暁斗が身を乗り出した。ようやく魔法を使えるようになったことで、期待してはしゃいでいる。リィカもその気持ちは分かるが、王宮に泊まることを考えると、胃が痛い。


「アキト、リィカ。悪いが一度席を外す。父上にリィカの宿泊と、レイズクルスの話をしてくるから」


 そう言って去っていったのはアレクだ。アレクの父親、つまりは国王だ。リィカの宿泊は国王の許可が取れているわけではない、ということは、もしかして泊まらなくて済む可能性もあるんだろうかと、ほんの少しリィカは期待する。


「アレク、いちいち家に帰るの面倒なので、僕も王宮に泊まらせてもらえませんか?」

「ああ、そうだな。おれも頼む」

「分かった、父上に言っておく」


 ユーリとバルの要望に、アレクは振り返りもせず、片手をサラリと振って去っていく。あまりにも軽い「王宮に泊まる」という発言にリィカが驚いていると、ユーリがにっこり笑った。


「リィカも安心していいですよ。宿泊が却下されることはありませんから」

「え、あ、はい……」


 そこは却下してもらって全然いいと思うものの、やはり口に出しては言えない。


「ほらリィカ! 早く早く!」


 待ちきれないといった様子で暁斗に急かされて、リィカは苦笑した。今は自分のことは後回しだ。


「じゃあ暁斗、まずは普通に詠唱してみて」

「えー、無詠唱じゃないの?」

「いきなりはできないから。まずは詠唱して」

「……はーい」


 不満そうだったが、それでも素直にうなずいた。そして詠唱を始めるが、すぐにおかしいことに気付く。


「…………が……ゆ、びさ……き、に……」


 詠唱がたどたどしいまま。気持ち悪そうな様子も見せていて、リィカは慌てた。


「暁斗、ストップ! どうしたの、大丈夫?」

「……うん、ごめん」


 俯く暁斗は落ち込んでいるが、それもそうだろう。詠唱ができないままなのだ。


「暁斗、イメージして魔法を使ってみてもらっていい?」


 先ほどは、これで魔法を使えたのだ。もしもこれでも使えなければ、話は振り出しに戻ってしまう。


「『火よ。我が指先に点れ』――《ファイア》」


 そんな心配を余所に、イメージし出した暁斗はあっさり魔法を唱えて、発動させた。


「うーん……」


 リィカは唸った。少なくとも、この方法なら魔法は発動するらしい。普通に詠唱しようとすると駄目になるということなのだろうか。


(そんなことってあるのかな)


 リィカはそう思って、次の瞬間には他人ひとをとやかく言えないことに気付いた。リィカ自身も似たようなことをやっている。


(わたしも人に教えてばっかりじゃダメだ)


 攻撃魔法はともかく、苦手な支援魔法を何とかしなければいけない。だが今は暁斗のことだ。イメージでしか魔法が発動しないなら、それで練習していくしかない。


「暁斗、もう一回イメージして魔法を唱えて。今度は、詠唱するときに体の中で動く魔力を感じてほしいの」


 うなずいた暁斗は、イメージに入る。そして、その数秒後には魔法を唱えた。たった三度目で早すぎる。やっぱり才能はありそうだと思いながら、確認する。


「どうだった?」

「うん、何か動いた。これが魔力なのかな」


 魔力を感じることもできている。そこまでできて、なぜ普通に詠唱できないのかが、逆に不思議だ。もしかして、詠唱して気分が悪くなってしまうことがトラウマになってしまったとか、そういうことなんだろうか。


「無詠唱を使うためには、その動く魔力の流れを覚えて、自分で動かせるようにならないといけないの。だから……」


 そこまで言いかけて、止めた。暁斗が人差し指を立てたからだ。


「自分で動かす……こんな感じ……? あ、分かった! 《ファイア》!」

「――ウソっ!?」


 思わずリィカは叫んでしまった。暁斗の人差し指の上には、火が点っている。つまり、いとも簡単に、無詠唱を成功させてしまったのだ。


 勇者に言っていい言葉ではないが、リィカに気にする余裕はなかったし、この場にいたバルやユーリもそれは同様だった。


「できた、リィカ! できたよ!」


 三人の驚きなどまるで意に介さずに、暁斗は喜んでいる。


「あり得ないでしょう……」

「ああ……」


 ユーリとバルが呆然とつぶやくが、暁斗はまるで気にしていない。


 普通に詠唱して魔法を使えないのに、あっさりと無詠唱で魔法を成功させた。つまり、勇者という存在は規格外らしいと、リィカは呆然とした頭で思ったのだった。


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