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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ

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夕食からの手合わせ

「…………い…………ろ……!」

「……そ…………だ…………あきと……!」


 眠っていた暁斗は、自分の名前に反応して、わずかに意識が浮上する。


「そろそろ…………おき……!」

「もう……夕飯……!!」

(夕飯……?)


 状況が分からず混乱する。そもそもいつ眠ってしまったのか。


(…………って、あ、そうだ!)


 ようやく記憶が繋がって飛び起きた。夕飯まで少しだけ休もうと思っていたのだが、どうやら爆睡してしまったらしい。


「……やっと起きたか、暁斗」

「そろそろ夕飯だぞ、アキト」


 側にいるのは泰基とアレクだ。どうやら二人が頑張って起こしてくれたらしい。


「うわぁごめん、グッスリ寝ちゃった」

「それは言われなくても分かる。まったく、少し休むだけにしろと言っただろ。これで夜眠れなくなったら、立派な時差ぼけだぞ」

「……そんなこと言ったって」


 泰基の言うことも分かるが、疲れて眠かったのだから仕方がない。大体、海外旅行をしたわけでもないのに、なぜ時差ぼけする羽目になるのか、文句を言いたい。


「アキト、夕飯は食べられるか?」

「うん、食べる」


 泰基と暁斗のやり取りに苦笑していたアレクの質問に、暁斗は即答する。寝起きだろうと関係ない。お腹は空くのだ。


「そうか。タイキさんは食欲がないらしくて、部屋で軽く食べるだけにするそうだ。アキトはどうする?」

「――えっ!? 父さん、具合悪いの?」

「ああ、まぁちょっとな……」


 曖昧に笑う父親に、暁斗は表情を曇らせた。


「治療の話はどうなったの? いつから始まるの?」

「明日からだ。神官長がきちんと見てくれた。治療期間は二週間くらいだと言っていたな。今あるガンは全部消せると言われた。だから心配するな」


 暁斗は大きく目を見開いた。


「全部消せるって、治るってこと?」

「ああ、そう言われた。魔法ってのは本当にすごいな」

「……そっか。治るんだ」


 暁斗が嬉しそうに笑った。半々の確率と言われていたのが「治る」と言われれば、当然嬉しい。だがそれを見た泰基が、一瞬だけばつの悪そうな顔をしたのだが、それに暁斗は気付かない。


「ほら、いいから食事しに行ってこい。アレクに迷惑かけるなよ」

「はーい」

「じゃあ行くか。ところで、父上や兄上が良かったら一緒に食事をって言ってるんだが、どうだ?」

「え……。それって、断っちゃダメな奴?」


 アレクの言葉に、暁斗の顔が引き攣った。アレクの父や兄とは、つまり国王や王太子だ。嫌な人ではないのだろうが、「偉い人」であることに変わりはない。そんな人たちと一緒の食事など、疲れるだけだ。


 それを言ってしまうと、アレクは「第二王子」という偉い人なのだが、そこは敬語抜きで気楽に話ができるという、絶対的なアドバンテージがある。


「断ってもいいぞ」

「うん。じゃあ今度そういう大変そうなお食事会は、元気になった父さんを誘ってくださいって言っといて」

「……お前な」


 押しつける気満々の暁斗に、泰基は低い声が出る。アレクが苦笑している。


「別に、本当にただ食事をするだけだけどな。俺と二人になるが、いいか?」

「いいけど、バルとユーリは?」

「二人とも帰ったよ」

「あ、そうか。二人はお城に住んでるわけじゃないんだもんね」


 貴族というのは、城の外に家があるものだ。家といって自分の家を思い出した暁斗だが、きっと比べものにならないくらいに大きいんだろうなと思う。どんな感じか見てみたいと思うが、そもそもこの城すらどんな外観か知らない。


 どこかで見るタイミングくらいはあるだろうと思いつつ、暁斗はふと気になったことを口にした。


「……アレクは国王様たちと食事したい?」


 暁斗にとっては「偉い人」だが、アレクにとっては家族だ。もしそうなら断るのは悪いと思った暁斗だが、アレクからの返答は軽かった。


「いや、別に」

「……ホントに?」

「ああ。父上も兄上も忙しいんだ。ゆっくり食事している余裕なんかないはずなのに、『一緒に食事を』なんて言いだした。言えと言われたから言ったが、正直なところ断ってくれて安心した」


 暁斗はムッとした。それはきっとあちらの誠意なのだろうが、それでも腹は立つ。


「無理して気遣ってくれなくていいよ。そう言っといて」

「分かった、ありがとう。……ああ、俺は忙しくないから、気にしなくていいぞ」

「それもどうかなぁと思うけど」

「いや、しかしだな……」


 アレクが視線を逸らす。書類仕事は役に立たないと、兄である王太子が言っていたなと思う。


 暁斗は何となく自分のことを思い返した。剣道では好成績を残す暁斗に、教師は褒めてくれるものの、必ず「勉強ももう少し頑張れよ」とも言われる。それに対して、暁斗は曖昧に笑って終わりにしてしまうのだが、今のアレクがそんな自分と重なる。


(もしかして似てるかも)


 暁斗はそう思うが、その思考を泰基が知ったとしたら、顔をしかめて「似なくていいから勉強しろ」と言っただろう。



※ ※ ※



 案内された食事場所は、昼食のときより狭い場所だった。そして、周囲にいる侍女たちは食事だけ並べるとすぐにいなくなる。そのことに暁斗はホッとした。


「そういえば、えっと、リィカさんだっけ? 会ってきたの?」


 旅のメンバーに、と考えている人。暁斗が休む前に「これから話をしてくる」と言っていた。一緒に行った方がいいか聞いたら、断られて休むように言われたのだ。


「ああ、行ってきた。二日後に返事をもらうことになっている」

「二日って早くない?」

「どうなんだろうな。何せこんなことは初めてだからな。ただ、リィカが駄目なら他を探したいから、あまり時間もとれない」

「……ダメなら、魔法師団の人を連れていくんじゃないの?」


 あれはそういう話じゃなかったんだろうかと暁斗が思うと、アレクはあからさまに顔をしかめた。


「絶対にごめんだ。何としても他を探す」

「そんなにヤなんだ……」


 暁斗自身も別に良い印象があるわけではないのだが、それでもアレクほどの抵抗はない。おそらくまだ聞いてないところで色々あるのだろう。それを聞きたい気もするが、聞くのが怖い気もする。


「――そうだ、明日のアキトとタイキさんの予定なんだが」

「うん」


 唐突に話が変わったが、重要な話だ。


「まずは魔法の適正や魔力量を見る。それが終わったら、タイキさんは治療開始。アキトは剣の指導になる。どの程度できるのか実際に見させてもらうことになるが、いいか?」

「それはいいけど、あんまり期待しないでね。たぶん、たいしたことないから」


 小説なんかの主人公たちのように、チートだの無双だの、そんなものができるとは思っていない。泰基には「小説と一緒にするな」と言われるが、それは暁斗も分かっている。


 この世界は現実だ。魔物だ魔王だと言っているような世界で、日本の剣道がそうそう通じるとは思えなかった。


 だからと釘を刺した暁斗に、気にした様子もなくアレクは頷いている。


「体の動きを見れば、大体の実力は分かるからな」

「――えっ、ホントにっ!?」


 それは本当にフィクションだ。暁斗も、向かい合えば何となく感じるものはあるが、動きを見ただけでは何も分からない。そんなことが現実にあるのかと驚く。


「……あの、ちなみにそれで、どう見てるの?」


 どの程度の実力と判断しているのか。恐る恐る問いかける暁斗に、アレクはニヤッと笑った。


「それは明日のお楽しみだ」

「えー」

「いいから、今日はゆっくり休めよ」

「……眠れる気がしない」


 言われて気付いたが、今の暁斗は眠気が完全に吹き飛んでいる。スマホもゲームも何もないわけだから、後は本当に寝るしかないのだろうが、こんな状態で眠れるのか自信がない。


「それなら少し体を動かすか?」

「え?」

「付き合うから、手合わせしよう」

「ええっ!?」


 アレクの提案に、暁斗は悲鳴を上げた。


「それは明日するんでしょっ!? お楽しみとか言ったくせに!」

「アキトが寝られるように、軽く運動するだけだ。実力を見るつもりはない」

「ええー……」


 そう言ったところで、剣を合わせれば分かってしまう。けれど、どうせ明日には分かることだし、このままだと本当に眠れる自信がない。


「じゃあ、お願いします」


 ここは素直に甘えようと暁斗が告げると、アレクは笑ったのだった。



※ ※ ※



 手合わせのため連れてこられた場所は、城の外だった。といっても、城門のようなものを通ったわけではない。ただ普通に扉を開けたら、外だったのだ。


「ここは騎士団の訓練場だ」


 言いながら、アレクが壁に向かっていく。そして手が触れたと思ったら、明るいライトがついた。


「えっ!?」

「《ライト》の魔法が込められた魔石だ。触れればこうして明かりがつくんだよ」

「へぇ」


 やはり魔法の世界、色々便利アイテムがあるのだろうか。けれど、このくらいならただの電気のスイッチだ。それに明かりがついたのは、アレクが触れた壁のところだけ。日本だったら、もっと明るくなるのになと思う。


「これでいいか?」


 そんなことを考えていたら、アレクが何かを差し出してきた。見ると、それは木剣だ。


「うん、大丈夫」


 そういって受け取る。さすがに普段使っている竹刀はないだろう。木剣なだけまだマシだった。


 あまり深く考えていなかったが、受け取った聖剣は、人を斬ることができる本物の剣だ。今後はそれを使わなければいけないことを考えると、怖くなる。近いうちに覚悟を決めなければならないだろうが、今はまだいい。


 フーと息を吐く。受け取った木剣を構えて振ってみる。普段と感じがまったく違うが、何とかなるだろう……というか、何とかするしかないのだが。


 暁斗はアレクに向き合い、いつものように中段に構える。対するアレクは、右手に剣を持って自然に腕を垂らしている。普通に立っているようにしか見えないのに、隙がない。


「いいぞ、かかってこい」

(そんなこと言われても)


 だったらもう少し隙を見せてほしい。試合でこんな人と当たったら、戦う前に降参してしまうかもしれないレベルだ。


 しかしこれは試合でも何でもない。単なる運動だ。である以上、一撃でノックアウトはされないだろうと判断し、アレクへ向かっていったのだった。



※ ※ ※



 はぁはぁはぁはぁはぁ


 暁斗が荒く呼吸する。立っているのもやっとだ。全身が痛い。座り込みたい気持ちを抑えて、何とか木剣を構える。

 すると、アレクが困った顔をした。


「……なぁ。もういいんじゃないか?」

「まだ! 一回くらい攻撃当てないと気が済まない!」

「……いや、これはそんな真剣なものじゃないはずだ。ただ寝られるように軽い運動をというだけで……」

「行くよ!」

「……お前、負けず嫌いだな」


 呆れながら、アレクは暁斗の剣を受け止めて簡単に弾く。そして、空いた胴に一撃を入れる。


「――ぐっ!」


 普段であれば、防具でしっかり守られている場所。しかし、今はそんなものはないから、普通に痛みが発生し、うめき声が出た。


 はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ


 さらに呼吸が荒くなる。さすがに限界を感じて、暁斗は地面に大の字になって寝転んだ。


「おい、気が済んだか?」

「済んでないけど、これ以上はムリ」

「……あのな」


 暁斗をのぞき込むアレクは、まったく息を切らしていない。呆れつつも、暁斗へ手を差し出す。


「だが、これで寝られるな?」

「……そうだね」


 それだけは確かだと、暁斗も思ったのだった。



 そして夜、グッスリ寝た。

 目をつぶったと思ったら、もう朝だった。


「お風呂?」


 部屋に来た侍女のノックで目が覚めた暁斗は、言葉を繰り返す。


「はい。アレクシス殿下より、昨晩体を動かしたのにそのまま寝てしまわれた、と話を伺いました。ですので、まずはご入浴されては如何いかがでしょうか」


 確かにその通りだ。昨晩は風呂など考えもせずに、とにかく休みたかった。


(っていうか、お風呂あるんだ)


 果たしてどんなお風呂なのか。興味が湧いたので入らせてもらうことにした。そして想像以上だった。シャワーがないのは不便だったが、それでもほとんど日本と風呂と変わりがなかった。



 入浴後は、朝食ができていると言われて案内される。行くと、そこにはアレクと泰基のほか、バルとユーリもいた。


「眠れたか、アキト?」

「うん、もうぐっすり。昨日はごめんね。ついムキになっちゃって」


 声をかけてきたアレクにそう返すと、バルが話に乗ってきた。


「ああ、アレクとやり合ったんだって? そんな面白ぇことすんだったら、おれもいれば良かった」

「……やり合ったって言えるほどじゃないよ」


 憮然としてバルに返す。


「《回復ヒール》しますか、アキト?」

「ううん、大丈夫。打ち身くらいで怪我したわけじゃないから」


 ユーリに聞かれたが、断る。実際、痛いところはもうない。あれだけ打ち込まれてもこの程度ということは、アレクが絶妙な力加減をしてくれた結果だろう。


 やはりこの世界での実力はたいしたことなさそうだと思いながら、用意された朝食に手を伸ばしたのだった。


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