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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ

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魔法師団長の話

「あのさ、あのレイズクルスってどんな人?」


 一気に態度が軟化した暁斗が身を乗り出した。先ほどまであった緊張感がゼロになっているのは、良いのか悪いのかどっちなのか、と泰基は考えてしまう。


「みんなが嫌ってるのは分かったけどさ、でも一番偉いのって国王様なんだよね? その割には威張ってる気がする」


「あいつは公爵家といって、貴族で一番上の身分なんだ。代々魔法師団長を務めている家で、レイズクルス自身もそうだし、魔力量も国のトップだ。あいつがいないと魔法師団の力が落ちるから父上も強く出られないし、それをいいことにあいつもやりたい放題になる、というわけだ」


「うわ~」


 アレクの説明に、暁斗はしかめっ面をした。泰基もため息をついた。「結構な権力者」という予想が当たっていたようだ。


 貴族のトップであり、さらに軍事力も握っているなら、国王も配慮が必要なのだろう。その配慮があだとなって、勝手な行動を許してしまっているというところか。


「親父が言うには、魔力量はあっても魔法自体はたいしたことねぇって話だが。最近は現場にも出てこねえし」

「今、現場は副師団長たちばかりのようですからね。でも、その方が騎士団としてはやりやすいんでしょうけど」


 バルの言う「親父」とは、応接間に来ていたミラー侯爵と名乗っていた騎士団長だろう。副師団長は、魔法の指導云々の話のときに少し出てきていた。


「副師団長は、師団長の補佐とか組織のナンバー2とか、そういうんじゃないのか?」

「騎士団の副団長のほうはそんな感じなんだが、魔法師団は師団長と副師団長の派閥に完全に分かれているんだ」


 泰基の質問に、アレクが解説する。


「師団長派はレイズクルスを筆頭に、上級貴族が集まっている。副師団長は伯爵家出身で、派閥にいるのは子爵や男爵といった下級貴族がほとんどだ。そのせいで、現場の大変な仕事を押しつけられても拒否できないんだよ」


「そのくせ、そこで手柄を上げると魔法師団全体のものとして取り上げられて、最終的に師団長の功績になっちまう」


「国王陛下も当然実情は知っているんですけどね。師団長の権力が強すぎるせいで下手なこともできず、認めざるを得ない状況なんです」


 話を聞けば聞くほど、暁斗の顔が引き攣っていく。


「……オレ、そんな人に魔法を教わらなきゃいけないの?」

「それは本当に申し訳ない。何か言ってきても俺が対応するから、アキトは無視してくれていい」

「……無視って言われても」


 暁斗の困った顔に、泰基が口を出した。


「アレクじゃないと駄目なのか? バルやユーリは?」


 泰基が初めて口にした三人の呼び名は、思ったより抵抗がなく、自然に言うことができた。


「おれのところは侯爵。つまり師団長の一つ下だ」

「僕は伯爵ですから。家格が及ばないんです。そうなると、何を言っても無駄です」

「親父もそれで苦労してるんだ。何か言おうもんなら、無礼だとか言われて終わるからな」


 なるほどと思う。話を聞いていると、王族すら抑制の効果がどれほどあるのか怪しいが、それ以外だと全く効果がないどころか、逆効果になりかねないようだ。

 だが、それはそれで疑問が出てくる。


「バルのところが騎士団だよな。名前からして剣を使って戦うのか?」

「ああ、そうだが」

「騎士団と魔法師団って、何かあったときには双方が協力して戦うんじゃないのか?」

「一応、そういうことになってんな」

「……協力するのか?」

「するわけねぇ」


 バルが顔をしかめた。


「おれも親父から話を聞くだけだが、本当に好き勝手してるらしいぞ。言いたいこと言って、やりたいことだけやって、何か起これば全部騎士団の責任にされる。師団長が現場に出てこなくなって、騎士団全体が喜んでる」

「……なるほど」


 片方の話だけ聞いて判断するべきではないのかもしれないが、謁見の間でのレイズクルスの様子を見ていると、納得できてしまう話だ。問題は、そんな人物が推薦した人物は、信頼できるのかどうかだ。


「魔法使いをメンバーに入れるという話だが、ユーリはその魔法使いじゃないのか?」


 神官と紹介されていたが、魔法の使い手ではあるようだ。それが魔法使いと違うのか同じなのか、判断がつかない。


「魔法使いは、火・水・風・土の四属性を扱う者のことをいいます。神官というのは、教会に属する、光魔法を扱う者のことです。魔法を使うという意味では同じですが、扱う属性が違うんです」

「へぇー」


 魔法の話になったら、暁斗が興味津々になった。


「オレや父さんも魔法を使えるの?」

「ええ。おそらくは、四属性のいずれかを使うことになると思います。明日、適正を見ると思いますよ」

「そうなんだ。四つのうちのどれか一つってこと?」

「いえ、攻撃魔法を使えるくらい魔力がある人は、大抵二つ以上の属性を持っています。アレクは火と風、バルは水と土を持っていますから」

「そうなんだー。うわぁ見てみたい!」


 暁斗が目に見えてワクワクしている。気持ちは分かると泰基は思って、その思考にため息をつきたくなった。年を重ねてもファンタジー好きが変わっていない自分が、何となく悲しい。


「言っておくと、俺はそんなに魔法は使わないからな」

「おれもだな。魔法より剣の方が早え」

「えー、そうなの?」


 アレクとバルの言葉に、暁斗が不満そうにした。それに泰基は苦笑し、気になったところを問いかける。


「光魔法というのは、一つしか使えないのか?」


 魔法の使い手というのだから、おそらくユーリの魔力はアレクやバルより多いのではないかと推測できる。だが、ユーリは自身の適性を言っていない。


「ええ。光魔法を使えるようになるためには、教会で祝福を受ける必要があるんです。そして祝福を受けると、生まれ持った四属性の適性がなくなります」


 もっとも、親が光魔法を使えると、子どもは生まれたときから光の適性を持っていることもあるらしい。ユーリも祝福ではなく、生まれつきだそうだ。どちらにしても、光の適性を持つ者は、それ一つしか適性がないらしい。


「光魔法は攻撃はもちろん、回復や防御もできます。ですが、それら全てを僕一人で対応するのは大変なので、魔法使いはいてほしいのですが……正直、あれはいらないですね」

「……あれ」


 思わず言葉を繰り返してしまった。ユーリの目が据わっている。人を「あれ」呼ばわりしてはいけないと思うものの、分かっていて言っているような気もする。


「回復や防御は、他の魔法ではできないのか?」


 結局「あれ」発言は聞き流すことにして、魔法の質問をした。実際に気になる点でもあるからだ。


「回復は水魔法でも可能ですが、効果は光の方が強いですね。防御は土魔法でも可能で、こちらはたいした差はありません」


 なるほどと思う。確かに魔法使いがいた方がいいのだろう。強力な回復の使い手がユーリなのであれば、攻撃は別の人が担当した方がいい。もう一人も神官でもいいのかもしれないが、多彩な攻撃手段があったほうがいいはずだ。ゲーム的な感覚からすれば、だが。


「お前たちが言っていたリィカという子は、適性は何を持っているんだ?」


 その質問に、三人が顔を見合わせた。すぐ誰かしら答えるだろうと思ったので、その反応が意外だった。


「――何を使っていた?」

「風に火、氷も使ってたから水もだな。土はどうだった?」

「使ってましたよ。空飛ぶ魔物を《重力操作グラビティ・コントロール》で落としていたじゃないですか。そもそも《防御シールド》を使ってましたし」

「そうだったな。…………四属性、全部持ってるのか」

「――ちょっと待った」


 今さらじゃないかと思える会話に、泰基がタンマをかけた。


「その子と知り合いじゃないのか?」

「知り合いと言えば知り合いだが、まともに話したのは昨日が初めてなんだ」


 アレクが困った様子を見せる。


「それまではせいぜい顔と名前を知っていた程度だ。だから、知らないことも多い」

「……それでも、その子に一緒に来てほしいと思うのか?」

「ああ」


 今度は力強く頷いた。


「リィカがいい。彼女じゃなければ嫌だと、本気で思うんだよ」


 そのアレクの、切なく何かを求めるかのような表情に息を呑んだのは、バルとユーリだった。


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