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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ

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呼び名

 その部屋は現代日本人の目から見ると、五人で食事をするには広すぎる部屋だった。そこには豪華なテーブルと椅子があり、周囲にはたくさんの召使いのような人たち。


(こんなところで、見られながら食べるの?)


 暁斗の顔が引き攣った。勧められた椅子に座り、目の前に料理が並べられていく。説明をしてくれるが、全く頭に入らない。


 ついでに言うと、ナイフやフォークは置かれているものの、箸はない。これが日本なら頼めば持ってきてくれるだろうが、こんな異世界でそれは望めない。


「皆ご苦労。終わったら下がってくれ」


 料理を配り終わった時点で、アレクシスがそう口にした。


「しかし、それではご用が……」

「用があれば呼ぶ。だから下がってくれ」


 言いかけた召使いの一人にアレクシスが重ねて命じると、全員が一礼して部屋を出て行った。

 五人だけになると、暁斗は大きく息を吐いて、椅子にもたれ掛かった。


「良かったー」

「申し訳ない。最初から待機させるべきではありませんでした」

「あ、ううん……えっと……ありがとうございます。ぶっちゃけ、助かりました」


 アレクシスの謝罪に、暁斗はたどたどしいが感謝を伝える。それにアレクシスは少し笑い、食事を勧めた。


「どうぞ召し上がって下さい。フォークやナイフは使えますか?」

「……使えないわけじゃないけど」


 暁斗がボソボソと答えるのに、泰基が苦笑した。


「あまり使い慣れていないので、下手な使い方をしても気にしないでもらえると助かります」

「俺も堅苦しいのは苦手ですし、そんなことは気にしなくていいですよ。では、食べましょうか」


 その言葉で、皆が食事に手を伸ばした。


「――あ、美味しい」


 思っていたよりは口に合うと思いながら、暁斗は食べる。気にするなと言ってくれたので、遠慮なくほとんどフォークだけで食べさせてもらった。



「ところで、お二方は平民の出身ですか?」


 ある程度食事が進んだところで、アレクシスがそう口にした。暁斗は口に食べ物が入っているので、モゴモゴしながら頷いている。答えたのは泰基だ。


「ええ、そうです。あちらには貴族という身分はありませんから。皇族はいますが、後はみんな一般人……平民ですね」

「そうなんです!」


 口の中の食べ物を飲み込んだ暁斗が、何かを宣言するかのように大きな声を出した。


「だから、様をつけられたり敬語を使われたりとか慣れてないから、呼び捨てでいいし普通にしゃべってほしいです! ついでに、オレも敬語なんかいらないって言ってくれると、助かるんですけど!」

「……暁斗」


 泰基が額を抑えながら、やや低い声を出した。


「様付けはいらないというのはともかく、お前は敬語くらい使え。大体、今までだって敬語らしい敬語を使ってないだろう」

「そんなことない! がんばって使ってるし!」

「……どこがだ」


 多少丁寧に話しているときもあったが、それだけだ。あれで「がんばって使ってる」と言われても、とてもじゃないが頷けない。アレクシスが平民なのかと思ったのも、暁斗の言葉遣いからの予想だろう。


「ブッ……!」


 アレクシスが吹き出して、バルムートやユーリッヒが面白そうにしているのが分かっても、泰基は文句も言えない。彼らもきっと、泰基と同じことを思っているだろう。


「敬語はなくていいから、アレクと呼んでくれ。アキト、それにタイキさんも」

「え?」


 笑った顔のままのアレクシスの言葉に、暁斗がキョトンとして泰基も驚く。


「もう少し親しくなったら、こっちから頼もうと思っていたから、ちょうど良かった」

「おれのことはバルでいいぞ」

「僕はユーリと呼んで下さい。ああ、この話し方は癖みたいなものなので、気にしないでくださいね」


 言葉だけではなく、態度もどことなく崩れている。その様子に、暁斗が怖々と問いかけた。


「……でも、三人とも偉い人じゃないの?」

「最初に言い出したのはアキトじゃないか。何を今さら」

「……そ、そうだけど」


 アレクシスの言葉に、暁斗がモゴモゴする。その横からバルムートが口を出した。


「本当に気にすんなって。おれたち三人は、ずっとこんな感じだしな」

「ええ。ですので、アキトたちもそうしてくれると、僕たちもやりやすいんですよ」


 ユーリッヒも笑顔で頷く。それで暁斗も納得したのか、その顔がパッと明るくなった。


「うん! じゃあよろしく! アレク、バル、ユーリ!」


 笑顔でそう言ったのだった。


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