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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第六章 王都テルフレイラ

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VSサイクロプス、カークス②

話の最初に、前々話の暁斗のバトルの続きが入ります。

その後、前話の続き、リィカ、アレク、泰基のバトルです。

暁斗は、息を吸って吐く。

気持ちを落ち着かせる。

これから少しの間は、勝つことではなく、固い体の理由を探るための時間だ。



魔力の流れを見る。

できるようになっておいて、本当に良かった。


狙うのは、魔力の流れが乱れて薄くなっている部分だ。


「――【隼一閃しゅんいっせん】!」


狙いを定めて、剣技を放つ。

普通なら効かない。余裕で防がれるだろう。


だが、ヘイストの顔に焦りが浮かんだ。

「…………!!」


かわされる。しかし、もう一度。


「【隼一閃しゅんいっせん】!」


同じ剣技を放つ。

左腕に命中し……その腕を切断した。


「あああああ!」

ヘイストが、腕を押さえて悲鳴をあげた。



※ ※ ※



近づくアレクに、サイクロプスがこん棒を振り下ろした。

それを余裕で避けて、右腕を切り付けた。


「ぐ……が……」

サイクロプスが小さく呻く。


(このまま勝負を決めてやる)

剣に魔力を纏わせ、剣技の発動に入る。


「――ぐがああっ!」

サイクロプスがこん棒を横から振り回してきた。


「――ちっ!」

舌打ちしつつ、間一髪避けたが、サイクロプスの一つ目が血走る。

こん棒を無茶苦茶に振り回し始めた。


(……これじゃあ、攻撃できない!)

歯噛みしつつ、かわすことに専念する。


サイクロプスが息切れするのを待つしかないか。

そうアレクが思った瞬間。


「《風防御ウインディ・シールド》!」


リィカが魔法を唱えた。

風の檻が現れる。そこに攻撃したサイクロプスに檻が絡まる。


「がああああ!?」

絡まってなお暴れたせいで、サイクロプスの全身に風の檻が絡まり、サイクロプスが身動きできなくなった。


「アレク、今だよ!」

「……あ、ああ」


アレクは、目の前の光景にため息をついた。

魔法に突っ込みたい気持ちでいっぱいだが、諦めた方がいい気もする。


「よし!」

気を取り直す。気合いを入れた。



『無詠唱も魔力付与も、突き詰めればイメージをどれだけできるかだから』

以前、リィカにそう言われた。

それから何度練習しても、一度も成功していない。


(――尖れ! 鋭くなれ!)

ただひたすらに念じた。


体から剣に何かが流れていく感じがして、驚きに動きを止めそうになる。

しかし、それも一瞬ですぐに意識を戻す。


「【冠鷹飛鉤閃かんようひくうせん】!」

剣技を発動させた。


その先が、細く鋭く尖る。

サイクロプスの腹に吸い込まれるように突き刺さり、大きな穴を空けた。



※ ※ ※



カークスの前に立った泰基は、体が震えた。

モルタナでカークスに体を鷲掴みにされ、感じた死の恐怖。


泰基は暁斗が戦っているのを目の端で捉える。

暁斗は魔族と一対一で戦っている。こんな所で自分が負けるわけにいかなかった。



カークスが炎を吐いた。

三つの首がただ同時に撃つだけの炎だ。


「《水塊アクアブロック》!」

水の中級魔法を炎にぶつける。

相殺した。



(――よし、やれる)

モルタナで戦ったほどの強さは感じない。


「ぐわあああ!」

カークスが怒ったように吠える。


再び炎を吐く。

泰基はまた《水塊アクアブロック》で相殺しようとして……かわす方を選んだ。



カークスは、炎を吐き続けていた。

泰基がかわしても、すぐ追いかけてくる。


水塊アクアブロック》は一発限りの魔法だ。連続では防げない。

どう対抗すべきか思い付かずにいると、リィカの声がした。


「《火防御フレイム・シールド》!」


現れた炎の壁がカークスの炎を受け止めて、膨張していく。

膨れ上がった炎の壁が、カークスを巻き込んで爆発した。


「後はよろしく!」

リィカを見れば、アレクの方に視線を向けていた。


(――別にいいけどな)

さっき水の防御を見たばかりだ。そして今度は火の防御。


視界の端に、アレクを守る風の檻が見えた。

(あれは、もしかして風の防御か?)


いちいち驚くのも疲れてきた。きっとこの先も次々に魔法を編み出していくんだろう。



爆発が収まる。カークスの顔は一つは焼けただれている。

上半身も、大火傷を追っていた。


「《水の付与(アクア・エンチャント)》!」


この間は、水のエンチャントに水の剣技を重ねた。

自分の使える魔法は、水と光。


普通は、こんな属性を持つ人はいない。その二つを合わせることはできるのか、試すにはいい機会だ。

光の魔力を剣に纏わせた。



剣技は昔の勇者が作り出したもの。

作り出された剣技は、火・水・風・土の四属性のみだ。


だが、光属性を使う神官にも、剣を使う者はいる。

四属性の剣技を参考に、光の剣技はこの世界の人たちによって編み出された。



水の魔力が、内側から輝く。

幻想的とも言える美しさ。

鋭い水のエンチャントが、さらに鋭さを増す。



「【光輝突撃剣こうきとつげきけん!】


光の、突き技の剣技。

放たれたそれは、大火傷を負った腹を貫いた。



サイクロプスとカークス、倒れたのはほとんど同時だった。




アレクと泰基は、物問いたげにリィカを見る。

見られたリィカは首を傾げるだけだ。


「……あの風の檻、一体何だ?」

「炎の壁もだな」


アレクがため息交じりに質問すれば、泰基は諦め半分で口にした。

二人の様子に、リィカはますます不思議そうだ。


「別になにってこともないよ? 水と水の混成魔法ができるんだから、他の属性ができてもおかしくないでしょ?」


「…………………………」

無言で考え込んでしまったアレクを余所に、泰基は予想通りの返答に考えることをやめた。


正直、リィカがチート化しているなと思うが、リィカ自身の努力がないわけでもない。



魔道具作成。

Cランクの魔石での作成は、難易度が高い。より精密な魔力操作が必要になる。暁斗への魔道具を作りながら、泰基はそれをしみじみ感じていた。


リィカはBランクの魔石でも作っている。魔道具の作成が、そのまま魔法の練習にもなっているのだ。


(自分のやりたいことをやっているだけで、練習にもなるっていいよな)

そんな事を思いながら、深く考えずに思ったことをそのまま言った。


「……後は土の防御か」

水・火・風ときたのだから、後は土だけだ。そう思ったのだが、リィカの返答はいささか驚きだった。


「多分土の防御は無理」

「――何でだ?」

魔法に関して、無理という言葉が出るのは予想外だ。


「土の防御って、ようするに《防御シールド》なんだよね。混成魔法にしようとしても、結局は《防御シールド》になっちゃうと思う」

その理屈は分からなくはないが、なぜリィカはそう思ったのか。


(――混成魔法って、どうやったら使えるんだろうな?)

今さらの疑問が浮かぶ。


二つの魔法を同時に使う、という説明は受けたことはある。しかし、もっと踏み込んで考えると、不明点も多い。


リィカはすべて無詠唱で発動させているが、過去に混成魔法を編み出したという人も無詠唱を使えたのか。

唱える魔法の名前は、どう決めているのか。



気にはなるが、今気にするべきはそこではない。

結界に捕らわれた三人はまだ戦っている。


「……暁斗、どうなってる?」

泰基は恐る恐る問い掛ける。

一度目を離してしまったら、今度は見るのが怖くなった。


「がんばってるよ。お父さん、しっかり見て応援してあげないと」

「――分かってる」


リィカの笑みを含んだ声に絞り出すように答えて、暁斗に目を向ける。



「【隼一閃しゅんいっせん】!」

ちょうど剣技を放った所だった。


(――何を!?)

身を乗り出した。


「何やっている!? 剣技は……っ?」

アレクも同時に叫んで、途中で途切れた。顔に疑問が浮かぶ。

相手がこれ以上ないくらいに、慌ててかわしたからだ。


さらに、もう一度同じ剣技を暁斗が放ち、かわせなかった相手の左腕が吹き飛んだ。


「…………剣技が、効いた?」

アレクが呆然と呟いた。


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