炎の竜巻
「てんい、とは何だ?」
聞きとがめたアレクが質問するが、魔物の声が上がり、周りを確認する。
「――後で教えてくれ。まずは魔物を倒す。数が多すぎるから、いつもと編成を変えるぞ。リィカとユーリ、タイキさんは引き続き上級魔法を頼む。俺とバル、アキトは、魔法組を守るぞ」
「「「「「了解!」」」」」
魔法師団が上級魔法を放つしか能がない、とよく文句を言っているアレクたちだが、それでも、状況によってはその戦法が有効なのは確かだ。
多すぎる敵、密集している敵に対しては、効果範囲の広い上級魔法はこの上なく役に立つ。
「《閃光瞬爆》!」
「《輝きの氷》!」
ユーリ、泰基が、それぞれ上級魔法を発動させる。
リィカは、目を瞑る。集中する。
「《灼熱の業火》!」
唱えたのは、炎の上級魔法。《灼熱の業火》は長くその場に残って、敵を焼き尽くす魔法だ。だから、できる。
「《竜巻》!」
次に唱えたのは、風の中級魔法。
《竜巻》が、《灼熱の業火》と衝突する。
すると、《竜巻》によって炎が巻き上げられ、そのまま巻き込まれる。
見ていたアレクたちが、大きく目を見開いた。
(――できた!)
リィカが心の中でつぶやき、唱える。
「《炎の竜巻》!」
風と炎の混成魔法の完成だ。
※ ※ ※
「ごめんなさい……!」
リィカが、ユーリと泰基に頭を下げた。
「いえ、そんな別に」
「謝るようなことじゃないから」
頭を下げられた二人は、困ったように言った。
リィカの放った《炎の竜巻》は、その場を縦横無尽に動き回り、多くの魔物を焼き尽くした。
それは良かったのだが、《炎の竜巻》が動き回るおかげで、ユーリと泰基が上級魔法を撃ちにくくなってしまったのだ。
《炎の竜巻》の動きを見て、その邪魔にならないような所に撃ったりはしたが、途中からは中級魔法に切り替えていた。
いかに強力な魔法でも、それで味方の邪魔をしてしまっては意味がない。
だからこそのリィカの謝罪だったのだが、謝罪されても困る事柄でもある。
千に近い魔物を短時間で倒しきったのは、リィカの魔法のおかげだ。
普通に上級魔法を使い続けていたら、倒しきる前に魔力が切れていた。
ユーリは、父にもらったマジックポーションの出番か、と考えていたくらいだ。
「気にしなくていいですから」
その言葉にリィカを頷かせる方が、魔物を倒すよりも大変だったかも知れない。
※ ※ ※
「《回復》」
魔法をかけられ、アルテミは息を吐き出す。
痛みが少し和らいできた。
「――本当、とんでもない威力だわ」
言葉が零れる。
自分が今生き残っているのは、自分たちの前に大量に魔物がいたからだ。
まともに食らっていたら、いくら《防御》を張っていても、間違いなくやられていた。
「そうだな。それでも……ジャダーカ様の方が上だろう?」
「――ええ、そうね」
リーダーの言葉に、アルテミも頷く。
肝心な事を思い出した。
「……一目惚れって本当?」
「ああ」
アルテミが顔を覆う。
「魔法が恋人だとかほざいていたジャダーカ様が、まさかねぇ。あの方に春が来るなんて思いもしなかったわ」
「散々な言いようだ……と言いたいところだが、同感だ」
「カストル様も驚かれていたらしいな。オルフも、興味は持つだろうと思っていたが、さすがにそう来るとは思わなかった、と言っていたな」
メルクリウスもリーダーも、言いたい放題だ。
だが、いつまでもふざけていられない。真剣な表情に変わる。
リーダーが切り出した。
「さて、今後についてだ。魔物どもはいるが、それで勇者達を倒せるとは考えない方がいいだろう。どうする?」
「そうだな。――魔物の気配がとんでもない勢いで消えている。一体だれが何をしているのかは分からぬが、Cランク程度では相手にならぬな」
「そうとなると、Bランクの用意も必要か? それで足止めになれば良いが。まあいい。用意するまで、アルテミの回復もできるしな」
魔族達は、次の手の準備を始めていた。




