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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第五章 デトナ王国までの旅路

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小声の会話×2

歩き始めた一行の中で、アレクは異様に機嫌が良かった。

一方で、リィカは不機嫌だ。


泰基に声をかけられた。

「(嫌なら嫌だと言えばいいだろうに)」

前置きも何もないが、泰基が何を言いたいのかは分かる。


リィカは思い返してみる。

同じ事をサルマにも言われたし、アレク自身にも言われた。それをさらに泰基にも言われてしまった。


「(……嫌じゃないの。ものすごく困るけど)」

アレクに言った言葉と同じ事を泰基に返せば、泰基は少し目を見開いた。


「(……なによ?)」

「(いいや。俺が凪沙にプロポーズしたときの凪沙の返事、覚えてるか?)」

「(……は?)」

唐突すぎでしょ、と思いながら、凪沙の記憶を思い返してみた。




プロポーズされたのは、大学三年の始まりの頃だ。

大学を卒業したら、結婚してほしいと言われた。

その時、果たしてなんと答えたのか。


『わたし、就職したいの。結婚が嫌なわけじゃないけど、すぐは困る』

確か、そう答えた。それなのに、結局卒業と同時に結婚してるけど。



って、いやいや。

嫌じゃないけど困る、という部分だけ取り上げれば、確かに似た言葉だけど、状況が全然違う。


「(同じにしないでよ)」

文句を言うが、泰基には笑われた。


「(嫌じゃないんだろ? 同じじゃないか。凪沙は、嫌なものは嫌だと言っていた。お前だってそうじゃないか)」

確かに、いつだったか泰基は嫌だと言った。王太子なんか、絶対にごめんだ。

しかし、嫌じゃないと好きとの間には、深い溝があると思う。


前を歩くアレクの姿を見る。

自分の気持ちが分からない。

嫌じゃないのは確かだ。もっと正確に言えば、何をされても結局アレクの側が一番安心できてしまう。安心できるから、嫌だとはどうしても言えない。


このままでは、いつか本人が言ったように、アレクの行動はどんどんエスカレートしていくだろう。

(どうしたら、いいのかな)

考えたところで答えが出るものでもないけれど。




泰基は、ぼんやりとアレクを見ているリィカに苦笑していた。

凪沙は、嫌じゃないものに関しては、最終的には受け入れてしまっていた。

だから、きっとリィカも嫌じゃないなら、このままアレクに捕まるしかないだろう。

その未来が、想像できてしまった。





一方、ご機嫌のアレクは、後ろでリィカと泰基が話をしているのに気付き、少しムッとなりかけたところで、頭をガツンと叩かれた。


「った……! 何をするんだ、バル!」

叩いてきた張本人は、真剣な顔をしていて、アレクも自ずと気が引き締まる。


「(……お前が何をどうしようと、基本的には味方でいるつもりだがな。やり過ぎて嫌われても知らねぇぞ)」

しかし、その内容はアレクには意味が分からなかった。眉をひそめると、バルに冷たい目で見られる。


「(リィカのことだ。最近、ちょっとばかし行き過ぎだろ?)」

ああ、と口の中だけでつぶやく。理解した。

確かに、場所を選ばず、周りに誰がいようと関係なしに、リィカに迫っている自覚はある。


「(気にしないで、見ない振りをしていろ。何も問題ないさ)」

「(……本当に、どうなっても知らねぇぞ)」


バルの言葉に、割の本気の心配が混じっているのを感じる。それが分かっても、アレクは大丈夫だと言える自信はあった。あれだけ色々やっているのに、結局碌な抵抗をしないのだから。


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