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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第四章 モントルビアの王宮

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魔族の男

「アハハハハハハハハハハハ!」

突然、魔族の男が狂ったように笑い出した。


「やるねぇ。さすが、勇者のご一行? まさか気付かれてるなんて!」

またアハハハと笑い出す男に、アレクは喉に食い込むかと言うくらいに剣を突きつけた。


「答えてもらおうか。モルタナにいる理由。そして、あの魔物の卵とやらが何なのか」

「さあ。知らない。オレは頭悪いって言ったの、あんたでしょぉ? だから、もう一人に任せっきり」

突きつけられている剣など全く気にしていないようだ。身を前に乗り出してくる魔族の男に、逆にアレクが剣を引いてしまう。


「でも確か、この国は上にいるのが駄目人間だから、崩せんなら崩せって言われたっけ。ただ勇者が現れたから、実験の成果を見るついでに実力も見せてもらえ、って話だったな」

いきなりベラベラとしゃべり出した男に、逆に警戒が高まる。


「駄目人間とは、どういうことだ! 無礼だぞ!」

「我々は神に選ばれた存在だぞ! それを……」

高まる警戒を全く無視する、王太子とベネット公爵の言葉に、ルイス公爵は額を押さえる。


「黙らせろ」

騎士団員に指示を出せば、猿ぐつわをかまされた。

フガフガ言っているが、この二人に口出しされると話が進まない。


「アハハハ! 面白いねぇ、駄目人間の代表。人間って面倒だよねぇ。魔族は簡単だよ? 女をどうにかしたかったら、力でねじ伏せればいい。戦って勝てば言うことを聞かせられる。ね、簡単でしょ?」

「……………実験とは何だ?」

同意を求められたアレクだが、それには答えずに質問する。


魔族の男は、つまらなそうにした。

「……何だよ、同意してよぉ。寂しいじゃないか。実験の中身なんか、オレ知らないかんね」

「では、この国を、如何にして崩すつもりだった?」

近づいてきて質問をしたのは、ルイス公爵だった。


アレクが警告する。

「公爵、相手は魔族です。何をするか分かりません。もっと離れて下さい」

「……それもそうですね」

警告を受けて素直に後ろに下がる。その上で、ルイス公爵は魔族を見据えた。


「えぇ? 話をするんなら、もっと近寄ろうよ。そんな離れてちゃ、話できないよぉ?」

「別に話は求めていない。質問に答えろ」

冷淡にルイス公爵が返す。


「冷たいなぁ。でも、どうやってって言われてもなぁ。もう一人がやたらと慎重でさぁ。色々調べてからだって言って、詳しく調べてたみたいだよ?」

魔族の男が腕を組む。

アレクの剣に当たるが、まるで気にしない。痛がる様子も怪我をした様子もない。


「そうしたら、国の上部に駄目じゃない人間がいる。国を崩す前に、まずそいつとそいつの息子を殺してからだ、なんて話をしてたら勇者が来ちゃったんだよねぇ。だから、何にもしてないんじゃない?」

ルイス公爵が目を細める。息を呑んだのはジェラードか。


否定しても意味がない。駄目じゃない人間、とは間違いなく自分たちのことだろう。

気付かぬ間に魔族に命を狙われていた、と聞かされて、恐怖が沸いてくる。

無意識に後方に下がる。


「その、もう一人とやらはどこへ行った?」

「知らなぁい。サイクロプスが倒れた時点で、勇者たちに捕まったら嫌だぁ、って行っちゃった。――ああ、もしかして、オレが今その立場?」

相変わらずアハハと笑って、内容の割に悲壮感はゼロだ。


「………さっきから色々情報をしゃべってくれているが、何を考えている?」

「……………………へ?」

魔族の男は、意表を突かれたような顔をする。

首を横に曲げる。


それを見て、アレクは悟った。

「正真正銘の馬鹿なわけか」

何も考えず、自分の知っている事をしゃべっただけなんだろう。

馬鹿ってひどいなぁ、とつぶやく魔族を見ながら、後方に声をかける。


「――ルイス公爵、他に聞きたいことは?」

「生かして捕らえる事はできないか?」

すぐに返事がある。アレクの返答は否定だ。


「できるかもしれませんが、お勧めはしません。どんな能力があるのか、俺たちも分かっていない。人間用の拘束具が、絶対に効果があるとは言えません」

捕らえたつもりでも拘束が全く効果がなく、自由に暴れられてしまえば、この国で対処などできない。ルイス公爵は、そう判断を下す。


「なになに、オレのこと殺すの? ムリだと思うよぉ? 解放した方がいいと思うけどなぁ」

馬鹿にしている風はない。当たり前に当たり前の事を言っている。魔族の口調は、そういう口調だ。


だが、ルイス公爵はそこは触れず、質問を続けた。

「王太子らと接触して、何を企んだ?」

「実験の成果を見るって言わなかったっけ? それと勇者たちの力試し。駄目人間って簡単に言うこと聞くから、面白かったなぁ。脅したら女の子言うこと聞くんじゃないの、って言ったら、その気になるし」

視線がリィカに向く。口元は笑っているが、その目は意外と真剣だった。


「人間にしちゃ魔力多いからさぁ、興味あったんだよねぇ。混成魔法まで使うなんて、予想以上だよ、あんた。駄目人間が何したってムダだね。

 多分、あんたジャダーカ様に目を付けられるよ? 今からもっと魔法の腕磨いとけばぁ? 気に入られれば、生き延びられるかもよ?」


「……ジャダーカ?」

「うん。魔王様の配下、四天王の一人だよぉ。すっごい魔法の使い手でねぇ。

 ……っとと、内情はしゃべるなって言われてたんだっけ。失敗失敗。確かにオレって馬鹿だなぁ。えぇっと、こういう場合は……そっか、皆殺しにしちゃえば問題解決だね」


あまりにも軽く言われて、誰もが一瞬理解をし損ねた。

ほとんど反射的に突き出したアレクの剣は、簡単に弾き飛ばされた。

魔族の男の魔力が高まる。


「泰基!」

「タイキさん!」

「《結界バリア》!」

悲鳴のようなリィカとユーリの叫びと同時に、泰基が唱えた《結界バリア》が魔族の男と六人を包む。


「《灼熱の業火(フレイムヘル)》!」

その瞬間、魔族の男は炎の上級魔法を放った。

街中というのを全く考慮されず放たれた魔法は、ギリギリ《結界バリア》で防がれる。


しかし、魔物と対戦したときよりもかなり狭い《結界バリア》の空間。その中で上級魔法が放たれたせいで、逃げ場がない。

「《濁流マディストリーム》!」

「《結界バリア》!」


リィカとユーリの対応も早かった。

リィカの魔法で炎は消えて、さらに味方も巻き込みそうだったが、ユーリの《結界バリア》で守られる。


「へえぇ。女の子だけじゃなくて、男の方もいい反応だねぇ。でも、光一つしか使えないんでしょお? それじゃジャダーカ様は興味持たないだろうなぁ」

のんきに魔族の男がつぶやく。


アレクが一気に距離を詰めた。剣が輝く。

「んーと、剣技、だっけ? それだとオレは倒せない……」

「【冠鷹飛鉤閃かんようひくうせん】!」

風の、突きの剣技を放った。

倒せないなど分かっている。それでも。


――やり方など分からない。

ただ、尖れと思った。細く、鋭くなれ、と。

そうしたら、その通りに切っ先が変わった。

細く鋭く尖った切っ先は、その魔族の男の体を貫いた。


「……………あ……れ……?」

なんで。

そう言いたげな顔をして、魔族の男は事切れた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔族が人間社会の情報に詳しいですね。諜報活動しているのかな?反対に人間の方が魔族のことを全然知りませんね。この情報量の差は、結構大きいかもしれない( ̄0 ̄; [一言] Bランクの魔物に…
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