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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第四章 モントルビアの王宮

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謝罪

泰基は、アレクに付いて走っていた。

どれだけ走ったのか、前に人がたくさんいるのが見える。


「あの奥だ」

言ったアレクは、容赦なく人混みをかき分けていく。

その後ろに続いた泰基は、暁斗とリィカの姿を見つけた。



アレクが「あっ!」と叫ぶのを、引き留める。リィカが暁斗の頭を撫でている姿を見れば、邪魔はして欲しくない。


「恋愛感情があるわけじゃないから、少しくらい許してくれ」

非常に不満そうな顔だったが、それでも何か思うところはあったのか、アレクはそのまま静かにしてくれた。


暁斗の声が聞こえた。

「リィカが母さんみたいだな、って思うんだ。母さんが、リィカみたいな人だったらいいなって思う。いつも優しくて、暖かくて、側にいるとほっとする」


息を呑んだ。リィカも驚いたのか、その手が止まる。が、暁斗に文句を言われてすぐに動かし始めた。

自分の思い込みかも知れない。でも、泰基には、リィカの目が動揺しているように見えた。


暁斗を見る。リィカにしがみついているから、顔は見えない。

(全く。馬鹿なくせに、勘ばかりいいな)

お前がそう思った相手は、間違いなくお前の母さんだよ、と言ってやりたかった。



※ ※ ※



母さんみたいだと言われて、リィカは動揺した。

もしも、暁斗に本当のことを話したら、どう思うんだろうか。



(……そろそろ、限界かも)

暁斗の望むままに頭をなで続けてきたが、元々痛みを押して無理に動かしていたのだ。

かなり辛くなってきた。


「暁斗、そろそろいいかな?」

嫌だと言われたら、根性で続けるしかない。

そう覚悟を決めたが、幸いその必要はなかった。


「……うん。ありがと、リィカ」

いつかのように、暁斗は照れたように笑った。


「よし、じゃあもういいな。離れろ、アキト」

掛けられた声の方を見れば、いつの間にいたのか、アレクと泰基がそこにいた。

泰基は苦笑し、アレクはツカツカと寄ってきて、アキトの襟首を掴んで引っ張る。


「なにすんの、アレク!」

「うるさい。離れろと言っただろう」

「別にそんな怒んなくたって……」

言いかけて暁斗が言葉を止める。アレクをマジマジと見た。


「……もしかして、アレクってリィカのこと、好きなの?」

「…………お前は、何でそういう事を言うんだよ!?」

一瞬で真っ赤になったアレクは、暁斗の肩を掴んで、ガクガク揺さぶる。


「あ、ごめん、つい。……告白、これから? 言っちゃマズかった?」

「それはもう済んだ! が、そういう問題じゃない!!」

「えっ!? 告白したの? うそ、いつ? 全然気付かなかった! それで、どうなったの?」

「――だから! そういうことを言うなと言っているんだ!」


会話の内容に赤くなるよりも、暁斗がアレクの気持ちに気付いたことに、リィカは感動を覚えつつ、二人のやり取りを見つめる。


「リィカ、大丈夫か?」

泰基が寄ってきた。頷く。その目の心配具合がかなり強い気がして、みんなはどこまで事情を知っているんだろうか、と思う。


「あ、タイキさん! リィカに近づくな!」

「……面倒くさいぞ、アレク」

つい先ほどまで暁斗と言い合いをしていたと思っていたら、今度はこっちに寄ってきた。

確かに面倒かも、と泰基の言葉に内心で同意してしまう。


「……リィカ、その、悪かった」

座り込んでいるリィカに、アレクが片膝をついて、頭を下げた。

が、リィカは意味が分からない。


「……なにが?」

「最初に、ベネット公爵に声を掛けられた時。俺はリィカを無視した。いないものとして扱った。――すまなかった」


えーと、と考える。

あの時は動揺していた。話は聞こえていたが、あまり深くは考えていなかった。

考える前に兵士に攻撃されて、それどころじゃなかった、とも言える。


王子であるはずのアレクでさえ、あそこまで馬鹿にされていたのだ。自分なんかが一緒に行っていたら、どうなっていたか分からない。

一緒に行かなくても最悪な状況には陥ったわけだが、それは結果論だ。

沈痛な面持ちのアレクには悪いが、別に気にすることではなかった。


「別にお城に行きたくなかったし、気にしてないよ? 一緒に行こうと言われたら、絶対に拒否したと思う」

それに笑ったのが泰基だ。


「ほら、言っただろ、アレク。リィカならそう言うって」

「――でも、一人で残したせいで、リィカが危険な目にあったのは確かだろう」

「それはまた別の問題だ。俺たちの誰のせいでもない。アレクが責任を感じる必要はないさ」

「………………そうだな」


アレクがつぶやいて、視線を後方に向ける。

どうしたんだろう、と思えば、そこに荷物を抱えたバルとユーリが来ていて、リィカは笑う。

二人も、ホッとしたように笑う。


「もうここにいる必要もないな。リィカ、立てる……」

正面からアレクが顔を合わせて、手を差し伸べてきた。が、途中で言葉を切って、みるみるうちに表情が強張る。


「……どうしたの、アレク?」

「リィカ、きちんと食事していたか!?」

「……………えっ」


隠し通そうと決めていたことを、まさか言い当てられて、ギクッとしてしまう。

しかしその反応は、肯定しているようなものだと気付いたときには遅い。


「正直に答えろ。最後に食事をしたのは、いつだ?」

アレクの声が低い。その声には、反駁を許さない強さがある。


「………………なんで……」

「俺は、答えろと言ったはずだ」

ごまかされてくれるつもりは、まるでないらしい。

諦めて、リィカは答えを口にした。


「モルタナに入る前。保存食を食べたのが最後だよ」

その答えに、アレクが辛そうな顔をした。

仲間たちが、「え?」とつぶやくのが分かる。


「地下牢にいたんだろう。食事くらい出たはずだ」

「……その、色々あって、わたしには出なくって」

地下牢にいたことも知っているのか、と思いつつ、答える。

詳細はあまり答えたくなくて、言葉を濁す。


「……色々ね」

が、つぶやくアレクは、それを許してくれるかどうか。

「とりあえず、今はそれでいい。ここから出よう。行くぞ、リィカ」

言うや否や、アレクはリィカの背中と膝裏に手を当てて、そのまま横抱きに抱き上げる。


「――えっ!? 待って! 自分で歩くから!」

「二日も食事してない奴が文句を言うな。大人しくしていろ。――手首のあざは、何だ?」

色々目ざといアレクにリィカは視線を逸らすが、残念ながら、これは他に証人がいた。


「オレが来たとき、後ろ手に手錠で拘束されてた。リィカが自分で壊しちゃったけど。いつでも破壊できるから、そのままにしてた、って」

暁斗がわざわざ壊した手錠を見せて解説する。

そんな事しなくていい、と叫びたかったが、叫んだらさらに状況が悪くなりそうなので、黙っておく。


「どのくらいの期間、そのままにしていたのか気になるな。後で、ゆっくり話を聞かせてもらうぞ」

リィカは遠い目をした。

どの程度、隠し事をできるのか。

王太子の目的なんか言ったら絶対に怒るよね、言いたくないな、と思いつつも、全部を白状させられそうな気しかしなかった。


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