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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第四章 モントルビアの王宮

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状況把握

晩餐は、控えめに言っても最悪だった。

暁斗は途中で気分が悪くなり、それに気付いた泰基が強引に退席させた。


香のキツい香水をまとい、肌を大きく露出させた女性が、両脇に侍ったのだ。

女性の苦手な暁斗は明らかに怯んだのに、それをどう思ったのか、女性たちはさらに距離を詰めた。

暁斗の側に行こうにも、泰基にも、そしてアレクたち三人にも、同じように女性が張り付いている。


結局、泰基は強行突破で暁斗を退席させ、さすがにアレクたちだけをこの場に残すことに躊躇いを感じて、泰基はこの場に残った。

暁斗に近寄るなと釘を刺すことだけは忘れなかった。



「暁斗、大丈夫か?」

晩餐が終わって、というか、泰基が強引に切り上げて、アレクたちと部屋に戻る。

暁斗はベッドに横になっていた。


「――ダメ。最悪。なんなの、あれ」

答える暁斗は、泣き声だった。

泰基の腕を掴み、それに縋る。


「父さん、オレ、リィカに会いたいよ」

その声に、力はなかった。



※ ※ ※



アルカトルの大使邸。

チャドが暗い顔をしながら、報告をしていた。

それを受けるマルティンの表情は、険しい。


「……リィカ嬢は、兵士に捕らえられていたか。しかも、罪状が勇者様と王子殿下を誑かしたこと、とはな」

「如何なさいますか」

マルティンは一瞬考え、すぐに結論を出す。


「リィカ嬢が城の地下牢にいるのならば、まだいい。だが、もし別の場所に連れて行かれたら、厄介だ。――ルイス公爵に連絡を取る」

「かしこまりました。それと、アレクシス殿下方には……」


「……伝えぬ訳にはいくまい。だが、明日にする。一晩で、可能な限り情報を集める」

普段は温厚なマルティンだが、今この時ばかりは激昂していた。



※ ※ ※



食事が配られているが、やはりリィカの所には来ない。

外が見えないので時間も分からないが、牢屋に入れられた時間から考えれば、今は夕飯だろうか。


あの、王太子たちの襲来。

とんでもなく怖かったし、今でも体が震えてしまうが、それでも頭は冷えた。

状況の把握には十分だった。

むしろ、わざわざ教えてくれた王太子たちに感謝したい気分だ。


目を瞑る。

思い出すのは、アルカライズ学園での歴史の授業だ。


かつて、牢番が、捕らえられている犯罪者に暴行を加える事件が多発した。

犯罪者なのだから問題ない、と誰もが見て見ぬ振りをした。暗黙の了解となっていた。


ところが、ある時暴行を加えられた者が、後から無実であることが分かり、牢番の暴行が表面化。以降、いずれの国例外なく、地下牢にいる者たちに暴行を加えた者は、罪に問われることが決定された。


そこまで真面目な顔で講義していたダスティン先生が、表情を崩す。

『だから、お前らがもし悪いことして捕まっても、牢の中にいる限りは安全だぞ。ただ、たまに権力者あたりが、わざと場所を牢から移動させて、暴行を加える事もあるらしいから、そこは注意が必要だな』


はい、と平民クラスのリーダー格の生徒が手を上げる。

リィカが魔物を怖がっても、何度も誘ってくれた生徒だ。


『先生、リィカみたいに魔法が使えたら、牢屋壊して脱走、とかできちゃうんじゃないですか?』

『残念だが、魔法使える奴には、魔封じの枷、ってのが付けられるんだ。それを付けられると、リィカでも魔法使えなくなるから注意しろよ。ついでに言うと、脱走は重犯罪だ』

リィカはむくれて、教室中で笑いが起こった。



リィカは、口元でクスッと笑う。

あの頃は本当に何気ない日常を送っていたのだ。

先生の、冗談みたいな言葉が役に立つときが来るなんて、思ってもいなかった。


ここは地下牢だ。それは間違いない。

だから、ここにいる限りは例え王太子といえども直接手は出せない。

そのうち、どこか別の場所に移されるだろう。気をつけるとしたら、その後からだ。


手を動かすと、ガシャッと手錠の鳴る音が聞こえた。

魔封じの枷とやらが、どんなものかまでは分からない。


リィカは集中して、ほんの少しだけ魔力を手錠に飛ばしてみる。

手応えはあった。

これはただの手錠だ。壊そうと思えばいつでも壊せる。


考えてみれば、自分は一度も魔法を使っていない。

兵士に囲まれたときも動揺していて、そこに意識が思い至らなかったが、おかげで平民が魔法を使えるなどと、思いもしなかったんだろう。


――魔法は、切り札だ。

魔法を封じられてしまえば、自分に打てる手は何もない。それだけは、絶対に避けなければならなかった。

失敗すれば、あの男たちの好きにされるだけだ。


こっそりと《アクア》を唱えて、口の中に直接水を出現させる。

今までは指先に水を出すしかできなかったのに、こんな芸当ができるようになったのは、魔道具作りのおかげだった。


(暁斗、大丈夫かな)

王太子は、勇者に女をあてがうと言っていたが、そんな事をしたら逆効果どころじゃない。


泰基から暁斗の過去話を聞いてから、何度心の中で謝っただろうか。

そんなつもりはなかった。凪沙は暁斗を助けるために、行動しただけだ。

それなのに、結果として、今も暁斗は苦しんでしまっている。


思い出すのは、暁斗が「頭を撫でて」と言ってきた時のこと。

サルマと一緒にお風呂に入ったときに、聞かれた。

「あれは、一体何だったの?」と。


聞かれてもリィカにだって分からない。やってほしいと請われて、受けてあげただけ。あの行為に違和感すらなかったのは、きっと凪沙の記憶があるからだ。


あの時の暁斗は、嬉しそうな顔をしていた。

そこで初めて、女性が苦手なはずの暁斗が、自分に対してそうした様子を全く見せていない事に気付いた。


(ごめんね)

暁斗が、みんなが足止めを食らっているのなら、それは自分のせいだ。

あの王太子が、自分の欲望のためだけにみんなを足止めしている。


王太子は、明日の夜目的を果たした後は自分をどうするんだろう。みんなが自分の状況を知っているとは考えにくい。であれば、口止めでもされた上で、勇者の出発に合わせて解放されるのだろうか。


みんなに余計な心配をかけたくないし、王太子たちの思う通りになってやるつもりもない。



怖くて震えそうになる体を、唇を噛みしめて堪える。

(絶対に、切り抜けてやる)

リィカは改めて決意を固めた。


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