牢屋にて
こっちにいたい、という暁斗を何とか引き剥がし、一行は王宮に帰還した。
幾人か大使が面会を申し込んできている、と話を聞いて、それに対応。
それなりに説明時間も掛かり、途中、軽い昼食を摂りながら、大使との面会が続いた。
夕食は、国王を始めとする重鎮たちとの晩餐になると聞かされた。
五人だけの場になった所で、嫌な顔をしながらお互いに不満を言い合ったのは、まあしょうがないだろう。
※ ※ ※
リィカは唇を噛みしめていた。
嫌な予感しかしない。
先ほど食事が配られていた。
だと言うのに、自分の所には何も配られない。
両手を後ろで拘束されているから、食べるにしても犬食いをするしかないのだが、何もなしというのは辛い。
ふと視線を感じて、顔を上げる。
ニヤニヤ笑っている牢番の男と、目があった。
「残念だったな。お前に、メシは当たんねぇよ」
そう言われた。
「……なんで」
聞き返そうとして、ガヤガヤと人の声が聞こえて、黙る。
上から降りてきたのは、10代後半から20代くらいまでの、五人の男だ。
全員が派手で豪華な衣装を身に纏っている。
「お、王太子殿下。なぜ、このような場所に……!」
牢番の男の声に、思わずマジマジとその集団を見てしまう。
「例の、平民の小娘を見てみたくてな」
五人の、中央にいる男が応じて答える。
牢番は敬礼してリィカを示すと、五人の男が鉄格子の向こう側に立った。
「ほう。これがそうか。確かに、顔はなかなかだ。――おい、貴様、立て」
突然命令され、リィカが反応できないでいると、隣にいた男が鉄格子を思い切り蹴りつけた。
ガシャーン、と大きな音がなり、リィカが体をビクッとさせる。
「さっさと立て! 平民は、この程度の言葉も分からないのか!?」
命令され、怒鳴られ、さらに嘲笑され、息が詰まる。
後ろ手に拘束されて動きにくいが、それでも何とか立ち上がる。
すると、男たちの舐め回すような視線を感じて、体が震えた。
「――体つきは、大したことないな」
王太子が面白くなさそうに言うのが聞こえた。
「殿下の仰る通りで。こんな女に、勇者も王子も誑かされたとは情けない」
「全く。アルカトルの国王も何を考えて、こんな女を入れたのでしょうね。しかも、魔法使いと偽っているのでしょう?」
「案外、アルカトルの国王も、この女に誑かされたのでは?」
好き勝手に交わされる会話だが、リィカはその内容にハッとした。
(そうだ。最初、兵士もそんな事を言ってたじゃない)
だとしたら、この男たちの目的は……。
「ところで、殿下。勇者たちの出発は、明後日に?」
「ああ、父上が仰っていた。そこまで確実に伸ばしてやると。だからお前たち、お楽しみは明日の夜だ。いいな」
王太子の声に、男たちの下品な同意が響く。
もう一度、王太子の舐め回すような視線が、リィカに向けられる。
「女、喜べ。明日の夜、たっぷり遊んでやる。勇者たちには別の女をあてがうから、それで貴様はお役御免になるかもな」
そこで、王太子の愉悦に浸った顔が、醜く歪む。
「私は女を犯すとき、その前に一切の飲み食いを許さない。それで弱った女を犯す瞬間が、最高のひとときでな。平民の身で、私にその時間を提供できること、感謝するんだな」
アッハッハッハ、と笑いながら、去っていく。
男たちの姿が完全に見えなくなって、リィカは力尽きたように床に座り込んだ。




