1.リィカ①ー始まり
2021/11/15、大幅に改訂です。
リィカ①②の二話が、改訂して⑦までなります。
以降の話数もずれますので、ご承知下さい。
目の前に大量の魔物がいた。
それが何を意味するのか、考えるより先に、わたしは恐慌状態に陥った。
そんなわたしが、体の奥から噴き上げる何かに、気付くはずもなく……。
(危ない! ダメだよ!)
頭に響いた声に、ハッと我に返る。
そこからは、無我夢中だった。
気付けば、噴き上げてくる何かを魔物にぶつけていて、魔物の姿は跡形もなくなくなっていた。
※ ※ ※
「その、噴き上げてくる何か、とは、魔力と呼ばれるものです。あなたは魔力暴走を起こしたんですよ」
わたしの目の前にいるのは軍人さんだ。
聞かれるままに答えていったわたしに、軍人さんが言ったのだ。
最近、各地で起こっているらしい魔物の大量発生。
週一回、巡回に回ってくる軍人さんたちから注意を受けていたけれど、こんな小さな村に住むわたしにとっては、別世界の話だったのだ。つい先ほどまでは。
魔物の発生に備えて、軍の駐屯地があちこちにできたらしいけれど、それでも軍が駆け付けてくるまでには時間が掛かる。
だと言うのに、軍が到着してみれば、村には魔物の死体が大量にあるだけ。
村人たちに事情聴取が行われ、気付けばわたしは軍人さんの前に立っていた。
「リィカ・クレールムさん、あなたには国立の学園、アルカライズ学園に入学して頂きます。よろしいですね」
疑問形でもなく、確定した事項として言った軍人さんだけど、まだ混乱しているわたしの頭には入らない。
首を傾げたわたしに軍人さんは苦笑して、隣にいたお母さんに説明を始めていた。
※ ※ ※
魔力暴走とは、魔力を多く持っている人が、何か大きな感情の起伏があったときに起こすもの、らしい。
つまり、わたしは魔力を多く持っていて、それが大量の魔物を見たときに、大きな感情の起伏……つまりは恐怖によって、それを爆発させた。
魔力暴走の起こす被害は、ひどいときには街一つ滅ぼしてしまうほどになることもあるらしい。
だから、わたしは暴走を起こさないように、学園に行って、しっかり魔力の制御をできるようになりなさい、というのが、軍人さんの説明だった、らしい。
なぜ、“らしい”かというと、後からお母さんに聞かされた話だからだ。
軍人さんの説明なんか、全く聞いていなかった。
あの時の、わたしの混乱は、きっと周囲の想像以上だろう。
魔物や魔力暴走だけで、わたしは混乱していたわけではない。
もちろん、それも要因の一つだけど、もう一つ要因があったのだ。
それが、魔力が噴き上げてきたときに、わたしの頭に響いた声の事だ。
あの時突然、自分の頭に、自分とは違う人間の記憶が混ざってきた。
何のことだと思うかもしれないけれど、そうとしか表現ができない。
地球の、日本という国に住んでいた、鈴木凪沙という名の女性。
わたしの頭に混ざってきた記憶の主、そしておそらく、「危ない」と忠告をくれた声の女性。
他人の記憶なのか。
あるいは、その日本での記憶に照らし合わせるなら、前世とか生まれ変わりとか、そういったものの記憶になるのか。
その辺りははっきりしないけれど、とにかく突然の別人の記憶に、頭は大混乱だった。
よく軍人さんに説明ができたと思う。
だが、外からの情報を取り入れる余裕など全くなく、その結果、説明なんぞ聞ける余裕はなかったのだ。
「魔力……。魔法、かぁ……」
つぶやく。
つぶやいたら、ワクワクしてきた。
前世と思しき鈴木凪沙は、RPGとかのゲームが好きで、漫画も小説もアニメも、ファンタジーが大好きだった人だ。
結婚して子供までいたくせに……というか、旦那さんも大好きで二人で楽しんでたんだから、別に良いんだろうけど。
凪沙は魔法が大好きな人だった。
で、わたしは、と言えば、こんな小さな村で、魔法など碌な縁があったはずもない。
突然降って湧いた魔法という単語は、わたしを大いに高揚させたのだ。
(――あれ、でも、なんで凪沙は死んだんだろう?)
生まれ変わってるんだから、当然死んだはず。
凪沙の記憶にあるのは、若い頃の旦那と、まだ赤ん坊の子供だけ。
なぜ、と記憶を辿って、すぐ分かった。
凪沙の記憶の最期。
それは、自宅に押し入ってきた強盗に、赤ん坊の子供を守って刺された記憶だったからだ。