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7話 やらなければならないこと

◆綾斗視点


 翌日、半蔵は宣言通りキジを狩ることに成功し、綾斗はそれを解体した。

 夕方になる頃。

 そしていざ料理を始めようとしたとき、彼らに声がかかった。


「ほっほっほ。昨日のお礼を持ってきたぞい」

「お、ひょん爺か。お礼なんて別によかったのに。……って、裾がすげえ膨らんでるけど、どうしたんだ?」

「ほっほっほ、お礼じゃよ」


 ぬらりひょんが裾に手を入れた。


「ほれ、桃じゃ」


 すると火に枝を放り込んでいたサキと半蔵が桃を見て目を輝かせた。


「わあ! 桃なんて初めて見たの!」

「拙者も始めて見たでござる! これが桃でござるか……」

「ほっほっほ。たくさん持って来たからの。遠慮せず食べていいぞい」


 ぬらりひょんはサキと半蔵の反応に気をよくしたのか、次々と裾から桃を出す。

 その数は十を超えており、小さな山ができた。

 綾斗はそれを見て顔を引きつらせる。


(おいおい、いくらなんでも持って来すぎだろ。こんなの腐る前に食べ切れんのか? ……いや、待てよ?)


「半蔵、サキ、この桃の半分を俺がもらってもいいか? 料理に使いたいんだ」

「おお、それならば拙者の分も使ってかまわないでござる」

「あたしの分も使っていいの! 綾斗さんの料理ならどんなものでも美味しいの!」

「いや、ありがたいが、それは多すぎる。半分で十分だ」


 するとぬらりひょんが綾斗の言葉を聞いて興味を持ったらしい。


「ワシもご馳走になっていいかの? お前さんの料理をもう一度食べたいわい」

「元々そのつもりだったよ。ついでにひょん爺の同居人の分も作るから、良かったら持っていってくれ」

「本当かの? それは助かるわい。お前さんの料理は同居人達が騒ぐほどでな。実は今日もお土産を楽しみにしているといわれていたのじゃ」

「そうだったのか。喜んでくれてなによりだ」


 そういって綾斗は調理を始め、瞬く間に料理を完成させた。


「できたぞ。ローストチキン……いや、ローストキジか? まあいいや。これに桃のソース……汁をつけて食べてくれ。それと桃の甘煮だ」


 皿を皆が座っている真ん中に置く綾斗。

 すると彼を除いた全員の目が爛々と輝いた。

 それぞれがいただきます、と言って一斉に口に運び、食べ進める。

 その勢いは昨日の味噌炒めに勝るとも劣らない。

 そんな彼らの様子を眺めながら、綾斗はゆっくりと食べていた。


(美味いけど、ご飯が欲しくなるな)


 やがて全員が食べ終わった。


「綺麗に無くなったな」

「我を忘れて食べ過ぎたわい……。お土産が無くなってしもうた……」

「そんな悲しそうな顔をするなよ。心配せずともひょん爺のお土産の分は最初から別でとってるよ」


 綾斗は別の皿に選り分けていた料理をぬらりひょんの前に置いた。


「なんじゃ、そうじゃったのか。安心したわい。ありがとのう」

「なに、気にすんな」


 ぬらりひょんは裾から木箱を取り出し、それに料理を入れていく。

 すると綾斗は一度サキと半蔵と目を合わせてから彼に話しかけた。


「そういやひょん爺、この森に人食い妖怪が出るって言われてるんだが知っているか?」

「人食い妖怪じゃって? そんな奴おらんよ。妖怪にとって人間は遊び相手みたいなものじゃからの。もしおっても600年程前にいた凄腕陰陽師が全て滅しておる」

「そうなのか。てっきり俺らはひょん爺かあんたの同居人が人食い妖怪なのかと思ったよ」

「ワシらが? ありえんわい! ワシは美味いものが食べれればそれでいいんじゃ。それに同居人達は一癖も二癖もある奴らじゃが、そんな野蛮なことはせんわい」


 ぬらりひょんの声には不思議と信じられる力があった。

 サキと半蔵の中にあった疑う心も小さくなってゆく。

 半蔵が口を開いた。


「そういえばひょん爺が妖怪たちを率いていたのを見たでござる。あの妖怪たちがひょん爺の同居人でござるか?」

「ふむ、百鬼夜行を見たんじゃな。あやつらの中に同居人はいたが、殆どは違うわい。いうなれば……配下じゃな!」

「なぬ!? あれだけの数の妖怪たちが配下なのでござるか!?」

「そうじゃ! なんせワシは百鬼夜行の総大将じゃからな!」


 ぬらりひょんは胸を張って得意げにそういった。

 サキが首をかしげる。


「ひゃっきやこう、ってなんなの?」

「む? お嬢ちゃんは知らんのか。百鬼夜行っていうのは全国の妖怪たちが一同に集まって、ワシを先頭に! いろいろな場所を練り歩くことなんじゃよ」

「ひょん爺が先頭なの? すごいの!」

「ほっほっほ。分かってくれて嬉しいぞい」


 サキの言葉にぬらりひょんは満足そうに笑う。

 するとサキが首をかしげた。


「でも何でそんなことをするの?」

「ふむ。実はこの辺りには九尾の狐という大妖怪がおるんじゃ。そやつは600年ほど前にこの国にやってきて、人間や妖怪に関係なく悪さをしとったんじゃ」


 木箱に料理を入れ終わったぬらりひょんは裾から取り出した桃を取り出し、皮をむいてかぶりついた。

 綾斗達も同じように桃を口にする。


「しかし九尾の狐は凄まじい力を持つ一人の陰陽師に負けてこの辺りに逃げたのじゃ。当然陰陽師もそれを追った。じゃがどういうわけかその陰陽師は峠を越えた辺りで姿を消してしもうたのじゃ」


 そういってぬらりひょんは峠があった方に指をさす。

 それを見た綾斗は顔色を僅かに変えた。


(峠だと? あの方向にある峠は……)


 ぬらりひょんはサキに説明を続ける。


「その陰陽師が消えてしもうたら、また九尾の狐が暴れだしてしまうわい。そこでワシら妖怪は集まって百鬼夜行をすることにしたんじゃ。全妖怪達と戦いたくなかったら大人しくするんじゃーって言いながらの。まあ最近では皆慣れてしもうて祭りみたいな感覚でやっとるわい。ほっほっほ」


 そして百鬼夜行を始めてから一度も九尾の狐が悪さをしたことはないらしい。

 すると再び半蔵が質問した。


「その陰陽師というのは誰なのでござる?」


 ぬらりひょんは桃にかぶりつきながら答えた。


「安部清明という青年じゃよ」

「なんだと!?」


 思わぬ人物の名が出てきて驚く綾斗。


「うお!? 驚いたわい! 桃を落としとるし、大声を出してどうしたんじゃ?」

「……いや、何でもない。すまなかった」

「まあ、いいわい。それより桃を洗ってきたらどうじゃ?」

「ああ、そうするよ」


 綾斗は川に行き桃を洗う。


(安部清明が消えたっていう峠。方角からして姫越峠しかありえない。そして俺があの峠を越えたとき、視界にノイズが走った。あれが気のせいじゃなかったとしたら、恐らくあの時タイムスリップしたんだ)


 桃についていた土は既に取れている。

 しかし綾斗はそれに気づかず洗い続ける。


(あの峠をもう一度越えたら元の時代に帰れるかもしれない。だがそれは今じゃない。この時代で埋蔵金を見つけてからだ。過去である今の方がまだ誰にも見つかっていない可能性が高いからな。あの人のためにも必ず見つけ出す)


 桃を洗い終わって帰ってくると話題が変わっていた。


「なぬっ!? この森は九尾の狐とひょん爺たちの縄張りの境界なのでござるか!?」

「なんじゃ、知らんかったのか? どうりで行く場所が無いからってこんな場所に住むと言うわけじゃわい。ちょうどこの川の向こう側が九尾の狐の縄張りで、こちら側がワシらの縄張りなんじゃ」


 その会話を聞きながら同じ場所に座る。

 するとそのタイミングを見計らってか、ぬらりひょんが話を変えた。


「そうじゃ。お前さんら、行く場所がないんじゃろ? それならワシの館で住んだらどうじゃ? 皆気のいい奴らじゃし、慣れれば怖くないぞい」


 そう言われサキと半蔵は迷いを見せる。

 だが綾斗の決断は早かった。


「悪いが俺は断るよ」

「む? そうかの? ここは九尾の狐とワシらの縄張りの境界じゃぞ? 600年間争いは無かったが、一度争いが起きればここは戦場になるんじゃぞ?」

「そいつは恐ろしいな。だけどそれでも行かない。俺にはここでやらなければならないことがあるからな」

「ほう、やらなければならないことかの? 一体何なんじゃ?」


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