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54話 衝撃

 綱吉が帰って早くも五ヶ月が経った。

 季節は冬から春へと移り変わり、麗らかな陽光が地上を優しく照らしている。

 森や山、そして峠の至る所で色とりどりの花が見られる。

 里では元村人達が草原を耕し穀物や野菜などを作り、海から採れた魚を干物などにしている。

 さらに漬物を食べながら、お茶を片手に笑顔で談笑している。

 最近では彼らは綾斗の力を借りずとも生活しており、いきいきと過ごしている。


 一方で綾斗とサキはツツジを探していた。

 この季節はツツジの開花時期であるためツツジの木を見分けやすい。


「樹木解析……違うな」


 とはいっても樹齢500年を越えた白の花を咲かせるツツジはそう簡単に見つからない。

 これまで何回もツツジ探しを行ってきた綾斗ではあるが、その条件に合致するツツジは数えるほどしか見つけられなかった。

 加えて言えば峠に来てからはそのようなツツジは見つかっていない。

 サキが口を開く。


「なかなか見つからないなの」

「そうだな。だがこの峠のどこかにあるはずなんだ」


 そうは言ったものの、綾斗は険しい顔をしている。

 そこには自分の言葉に対する自信の揺らぎのようなものが感じられた。

 サキは眉尻を下げて心配そうな顔をする。

 そんな彼女を見た綾斗はその空気を払拭するように口を開いた。


「とりあえず今日はこの辺りで終わりにするか。朝からずっと探しっぱなしだったしな」

「わかったなの」



 ツバキはぬりかべに新しく作ってもらった家にサキとウメ、ハナ、勘衛門と一緒に住んでいる。

 そして今、家の中にはツバキとウメしかいない。

 ツバキは悩みを打ち明けるようにウメに話しかけた。


「ウメさん、どうしましょうか……」


 そんな彼女にウメはため息を吐きながら答えた。


「はあ。気持ちは分かるけど、あんたは悩みすぎさね」

「ですがあれは易々と他人の手に渡してはならないものですよ? それはウメさんもご存知でしょう?」


 ツバキがそう聞くとウメは頷いた。


「もちろんさね。でも綾斗が悪い奴じゃないということは、とうに理解しているだろう?」


 今度はツバキが力強く頷く。


「それはもちろんです。なにせ私だけでなく、サキの命まで助けていただいたのですから」

「なら一度綾斗に聞いてみたらどうだい? 埋蔵金を手に入れてどうするつもりだ、ってねえ」

「そうですね……」


 ツバキは悩んでいる顔をしたままそう答えた。



 綾斗とサキが里に帰ってくると清明が近寄ってきた。

 彼はなにやら巻物と手紙を持っている。

 すると彼は綾斗に声をかけた。


「綾斗君、君宛に巻物が来てるよ」

「巻物? 俺にか? この里にまで?」


 綾斗は思いもよらないことを言われて混乱した。

 この里を囲んでいる森には滅多に人は足を踏み込まない。

 そして近くにも人が住んでいる村は存在しないため、ここまで手紙が運ばれてくることはありえない。

 更に言えば綾斗が巻物を誰かに頼んだ覚えも、送ってくれるような知り合いも森の外にはいない。

 そのため怪訝な顔をした綾斗だが、そんな彼に向かって清明は得意げに答えた。


「差出人は綱吉君だよ。実は彼が帰った後、式紙を飛ばしてね。もし今度別の事件が起こって里が襲われるようなことがあったら、すぐに教えてもらえるように時々文通していたんだ」

「そうだったのか」


 綾斗は眉を上げて驚く。

 すると清明は持っていた巻物と手紙を彼に差し出した。


「はい、どうぞ。確かに渡したからね」

「ああ、ありがとな」


 そうして清明は去っていった。

 綾斗は手紙を開いて中身を読む。


「……読めん」


 しかしすぐに閉じて諦めた。

 するとサキが彼に話しかける。


「あたしに貸してなの!」

「サキ、お前まだ文字読めないだろ?」

「う、そうだったなの……」


 シュンと落ち込むサキ。

 綾斗はそんな彼女の頭を撫でる。


「気にするな。これから学んでいけば良いんだからな。それよりひょん爺を探そうか」


 彼らはぬらりひょんを探し、手紙と巻物を読んでもらう。

 するとぬらりひょんは声を上げて驚いた。


「おお、なんと言うことじゃ! 綾斗、これはお主にとって朗報じゃぞ!」

「なんだ? 何が書かれてあったんだ?」


 珍しくしきりに興奮しているぬらりひょんに綾斗は面食らう。

 ぬらりひょんは興奮したまま言葉を続けた。


「この巻物には平家の姫が埋蔵金を隠した場所が書かれておるんじゃ。そして手紙にはこの巻物をお前さんに送ったいきさつが書かれておる。どうやら清明からお前さんが埋蔵金を探していることを知った綱吉が独自に調べたらしいのう」

「そうだったのか……」


 綾斗は思っても見ない事実を聞かされて驚いた。

 そしてかすれた声で言葉を発する。


「それで、どこにあるって書いてあったんだ?」

「埋蔵金を隠した平家の姫が残した句があっての。『朝日さす 夕日輝くつつじの下に 小判千両 後の世のため』とあるわい」


 それを聞いた綾斗はぶつぶつと呟きながら考え込む。


「朝日がさして、夕日が輝く場所に生えているツツジの下に埋めたってことか? 輝くってのは目立って美しく見えるってことだな。なら峠の辺りにあるのは間違いない。それに加えて白の花を咲かせるツツジ……」


 そして力強い目で顔を上げた。


「今からもう一度峠に行って探してくるよ。ひょん爺、ありがとうな」


 その言葉を聞いたぬらりひょんは驚いた顔をした。

 そして心配そうに口を開く。


「また行くのかの? さっき帰ってきたばかりなんじゃから、また明日にしたらどうじゃ?」

「そう言ってくれるのはありがたいが、じっとしてられないんだ。一刻も早く見つけたくてな」

「そうなのかの? じゃが無理は禁物じゃぞい」

「ああ、わかってる」


 そう言って綾斗はもう一度ダイキチの下に行く。

 それにサキは着いて行った。


「あたしも行くなの!」

「でも疲れてるだろ? 無理しなくて良い」

「大丈夫なの!」


 サキは両拳をあげてまだまだ動けるアピールをする。

 それをみた綾斗はサキに笑顔を向けた。


「ありがとうな」

「うん!」



 だが、それでも綾斗はツツジを見つけることができなかった。


 夜になった。

 綾斗はツツジ探しを終えてからずっと焦っている。


(何故見つからないんだ? 峠の辺りはもう五ヶ月も探しているって言うのに、全く見つからない。あそこにあるってのは確定してるってのに……)


 この五ヶ月間、ツツジを探し続けても見つからない事実は綾斗にストレスを与えていた。

 それと同時に不安もある。


(もしかしてもう誰かが既に持って行ったとかか? それともツツジが枯れてしまって無くなったとか……)


 今まで考えないようにしていたが、その可能性もまた十分にある。

 しかし綾斗はそれを考えないことにした。

 叔父との約束は彼にとって何がなんでも果たしたいものであるためだ。


(あと少しだってのに……くそ!)


 ギリ、と奥歯を噛み締めた。



 その頃、家に帰ったサキはツバキと二人で布団に入って会話をしていた。

 ウメ達は別の部屋で寝ているため、この空間には彼女達二人しかいない。

 そのため心置き無く喋ることが出来た。

 ツバキが口を開く。


「綱吉様から綾斗さんに巻物が?」

「そうなの!」

「へえ、そうなんですか。どのような内容が書かれていたんでしょう?」

「お宝の場所が書かれてあったなの!」


 サキの言葉を聞いたツバキは目を見開いて驚いた。


「なんですって!?」


 そして恐ろしい剣幕でサキに詰め寄る。


「サキ、それについて詳しく教えてください!」


 そんな彼女の様子を前にして、サキはしどろもどろになりながら説明する。


「え、えっと、綾斗さんが言うには……」


 なんとかサキが説明を終えると、それを聞いたツバキは険しい顔をして考え込む。


(たしかにそれはご先祖様が残した句で間違いありません。しかしそれでも隠し場所はおろか、ツツジさえ見つけることは出来ないでしょう。いえ、この里には妖怪の方々や、清明さんがいるのですから、もしかしたら……)


 そこでツバキはサキが自分のことを不安そうな目で見ていることに気が付いた。

 ツバキは慌てて表情を元に戻した。

 するとサキはホッと安堵の息を吐いて口を開く。


「お母さん、どうしたなの? なんだか凄く恐い顔をしていたなの」


 最愛の娘にそう言われたツバキはややショックを受けた。


「そ、そんなに恐い顔をしていましたか。すいません……」


 そして気を引き締めなおしたように口を開く。


「それよりも、サキ。明日出かけますから、綾斗さんには付いていかずに、そのつもりでいてください」

「わかったなの! だけどどこに行くなの?」


 サキは首を傾げてそう聞いた。

 それに対してツバキは微笑みながら口を開く。



 翌朝、朝ごはんを食べ終えると綾斗は真っ先にダイキチのところに足を運ぶ。

 その途中で彼は不安そうな顔をしたツバキに声をかけられた。


「綾斗さん、今お時間よろしいですか?」

「ああ、構わないが、どうしたんだ? 何かあったか?」

「いえ、少し聞きたいことがありまして」


 ツバキはそう言うと、不安を和らげるように深呼吸をした。

 そして何かを決意したように言葉を発する。


「綾斗さんは、埋蔵金を探してどうするおつもりなのですか?」


 そう言われた綾斗は過去を思い出したのか、悲しい顔をして答えた。


「別に何もしない。ただ、ある人の墓にお供えして、その人に見つけたって報告するだけだ」


 ツバキは綾斗の顔を見て、嘘をついている様子はない、と判断した。

 だがそれだけでは彼女の中にある不安は拭いきれない。

 そのため更に深く聞くことにした。


「そのお話を詳しくお聞かせ願えますか?」

「構わないが、楽しい話じゃないぞ」


 そう前置きした綾斗は叔父に憧れていたのこと、叔父が死んだこと、叔父と約束したことなどを語りだす。

 それを聞き終わった後、ツバキは悲痛な顔をしたと同時に、安心した表情も見せた。

 最後に綾斗はスマートバンドからホログラムを展開させる。

 それを見たツバキは目を見開いた。


「そ、それは!?」

「ああ、ツバキさんはホログラムを見たのは初めてだったか?」

「いえ、そうではなく、この家紋は……」


 ツバキはそれ以上言葉を続けることなく口を開いている。

 綾斗はホログラムとして展開された家紋について説明した。


「これはウチの家紋なんだ。代々言い伝えとしてウチには……って、そんなに呆けてどうしたんだ?」


 綾斗がそう聞くも、ツバキは答えず、話を聞かせてもらった礼を言って去っていった。


「なんだったんだ? ……まあ、いいか」


 綾斗は頭を切り替えてダイキチの下に足を運ぶ。



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