48話 綱吉の目覚め
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綱吉の目が覚めたのはその日の夕方だった。
夕日が窓から差し込み、綱吉の顔を照らしている。
「どこだ、ここは……?」
体を起こした綱吉は辺りを見回してそう呟く。
そこは見たこともない部屋だった。
木造の部屋であることには変わりないのだが、彼の知らない作りをしている。
ガラスでできた窓があり、出入り口は襖や障子ではない取っ手がついた板が嵌められている。
しかし変わったところはそれだけである。
床は畳で、自分はその上に敷かれたごく普通の布団にいる。
酷くちぐはくな印象を受けた。
「一体何なんだ……?」
困惑しながらも、綱吉は最後の記憶を思い出す。
(たしか妖怪達の里を滅ぼすために森の中に入り、綾斗を討つ後一歩のところで邪魔が入って……)
そこで綱吉は自分が百姓の男と戦っている途中に突如空中に投げられたことを思い出した。
そしてそこから記憶が無い。
「まさか、俺は妖怪達に捕まったのか!?」
そのことに気づいた瞬間、綱吉は布団を跳ね除けて立ち上がった。
そして取っ手が付いた板、ドアに向かい、襖や障子と同じように横にスライドさせようとする。
「む!? 開かない!?」
何度も何度も横にスライドさせようとする綱吉。
しかしそのドアは取っ手を下げて手前に引かなければ開かないタイプである。
当然開かない。
だがそれを知らない綱吉は焦った。
「やはり俺は捕まったのか!」
綱吉はドアを蹴破ろうと助走をつける。
そしてそれに向かって飛び蹴りをした。
しかしドアはびくともしない。
むしろ綱吉が着地に失敗して怪我をした。
「うぐっ……。な、なんて頑丈な……」
建築の達人であるぬりかべが木材の厳選し、加工したのだから当たり前である。
だがそれを知らない綱吉は次の行動を起こした。
「おい! ここから出せ! 俺をここから出すんだ!」
ドアを叩き、外に向かってそう叫ぶ。
すると外から足音が聞こえてきた。
そしてドアが勢い良く開かれる。
ドアの前に立っていた綱吉は迫り来るそれに激突した。
「ぐあ!」
「む? そんなところにいたでござるか」
やってきたのは半蔵だった。
彼は部屋の中に入ると綱吉の様子を見る。
「大丈夫でござるか?」
するとその瞬間、綱吉は半蔵の鼻頭めがけて拳を繰り出した。
「隙あり! ぐあ!?」
しかしその鋭い動きは半蔵に届く遥か手前で止まった。
綱吉は体に電流が走ったように痙攣する。
そしてドサリ、と畳の上に倒れた。
そんな彼に向かって半蔵がもう一度声をかける。
「大丈夫でござるか?」
「う……くっ……」
「清明殿の術が上手く効いているようでござるな。安心でござる」
半蔵はそう呟くと清明に話しかける。
「目覚めたのなら、拙者は飯を持ってくるでござる。少しここで待ってるでござるよ」
半蔵は出て行った。
綱吉はそんな彼の後ろ姿を見ながら呻くことしかできなかった。
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既に里の住人達は全員夕食を食べた後である。
綱吉の部屋を後にした半蔵は、調理場で調理器具を洗っている綾斗に話しかけた。
「綾斗殿、綱吉殿が目覚めたでござるよ」
「そうか。中々起きないから心配していたんだが、良かったよ。それならそこにおいてある夕食を持っていってくれないか」
「了解したでござる」
半蔵は綾斗に言われた通りにお盆に載っている夕食を持つ。
そして綾斗に質問した。
「綾斗殿は後片付けが終わると綱吉殿のところにいくつもりでござるか?」
「ああ、そのつもだ。でも何でそんなことを聞くんだ?」
「綱吉殿が拙者達に対してあまりにも敵意を抱いているからでござる。捕まっていると理解してもなお、拙者に攻撃しようとしてきたでござるからな。せめて少し落ち着いてから……そうでござるな、明日にしたらどうでござるか? そしたら少しは落ち着いて話ができるやも知れぬでござる」
そう言われて綾斗は少し考えた。
そして口を開く。
「分かった。なら、そうするよ」




