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46話 迎撃

 綱吉は巨大なイタチが降り立った場所の近くに来ると、怪しい場所がないか兵達に尋ねまわった。


「濃い霧があるだと?」

「はい。その霧に足を踏み入れると、何故か踏み入れる場所に戻ってきちまうんです」


 それを聞いた綱吉はすぐさま命令を下した。


「ならばそれは妖怪の仕業だ! その先に妖怪達の住む里があるに違いない! 火矢を放て! 霧を消し、奴らを炙り出すんだ!」


 そうして放たれた命令はすぐさま兵達に伝わり、彼らは霧に向かって火を次々と放った。



 綾斗は清明に声をかけた。


「清明! 火が燃えることによって結界は消えるのか!?」

「うん。温かいと霧は消えるからね。結界は念を入れて相当厚く張ったけど、あれを見る限り長くはもたないね」

「なら他の結界を張ることはできるか!?」

「できるけど少し時間がかかる。濃霧結界が一番早く張れるんだ。式紙に今結界がどれだけ破られているか見させてるけど、今の調子だと濃霧結界を張り直すのにも間に合わなさそうだ」


 それを聞いた綾斗は焦った表情を浮かべた。

 再び清明に問いかける。


「なら森の手前に濃霧結界を張りなおしてくれるか? 火はこっちでなんとかする」

「それはいいけど、僕も火を消すのを手伝わなくていいのかい?」

「いや、結界を張ることに集中してくれ。片手間でやるよりそっちの方が早く張れるだろ?」

「そうだね。ならそうさせてもらうよ」


 清明はそう言うと、鳥の式紙を飛ばし始めた。

 濃霧結界を再び張る準備をしているのだろう。

 次に綾斗は周りの者達に声をかける。


「かぱ蔵は川の水を、ダイキチは風を操って消火してくれ」

「わかったんだな!」

「任せろ!」


 河童とダイキチは綾斗の言葉を聞くとすぐさま走り出した。

 綾斗は次の指示を出す。


「シッポちゃんは幻影で、半蔵はまきびしで敵をかく乱してくれ!」

「分かったのじゃ! 後、わちきは九尾の狐なのじゃ!」

「了解でござる!」


 九尾の狐はすぐさま幻影を作り、半蔵は家に忍具を取りに戻った。

 綾斗は他の者にも指示を出す。


「戦えない奴は俺の家に避難しといてくれ! 戦えるやつは万が一に備えてシャベルや鍬を持っていてくれ!」


 その言葉に従い、各々動きだした。



 轟々と燃える木々を前にして、兵達は次々に火矢を放っていた。

 それを前にして兵達は話をする。


「霧が大分なくなってきたな」

「ああ。だが奥のほうにはまだ濃い霧が漂ってるぞ」

「あれがなくなれば、その先は妖怪達の住む里だな」


 一人の兵士がそういうと、それを聞いた周りの兵達は息を呑んだ。

 緊張が辺りを満たす。

 すると突然霧の向こうから水柱が上がった。

 その水柱はまるで蛇のように形を変化させ、彼らの目の前に着地する。

 そして地面を這い回り、炎を次々と呑み込んでいった。


「な、なんだありゃあ!?」

「食われるぞおおおお!」

「逃げろおおおお!」


 それを見た兵達はたまらず逃げ出した。



 別の場所にいる兵達もまた妖怪を恐れていた。


「な、なあ。さっきの巨大なイタチって何かの見間違いとかじゃ、ないよな?」

「そんなわけないだろ。あれは紛れも無く妖怪だった」


 その言葉に頷く兵達。

 彼らの脳裏には真っ黒な姿をした妖怪が浮かんでいる。

 すると一人の兵士が空を指差した。


「お、おい! あれ!」


 それにつられて他の兵達もそちらを見る。


「あれって、さっきの妖怪じゃねえか!?」


 誰かがそう叫んだ。

 その瞬間、すさまじい轟音と共に暴風が吹き荒れる。

 木々は倒れ、炎は消え失せる。

 それを間近で目にした兵達は恐怖を顔に浮かべながら逃げた。

 後に残ったのは焦げて倒れた木々と宙に浮かぶ黒の巨大なイタチだけだった。



 兵達は逃げた。

 誰一人死んでいないものの、背後に起こっている恐ろしい怪異から逃れるためだ。

 しかしそこに別の怪異が襲った。

 突然彼らの背後に炎柱が立ち上がり、それが瞬く間に巨大な狐に変化したのだ。


「うわああああ!」


 兵達はもはや言葉にならない悲鳴を上げて走り続ける。

 そんな彼らをせきたてるように狐は彼らのすぐ背後の地面を叩きつけた。

 それによって火の粉が舞い上がり、兵達の背中に降りかかる。


「ぎゃああああ!」


 兵達はさらに悲鳴を上げて逃げていった。



 綱吉がいるところは霧が出ている場所から少し離れている。

 しかしそこからでも異常が起き、兵達が逃げていることは見えていた。

 綱吉は即座に口を開く。


「妖怪が現れたぞ! これから里に押し入り、滅ぼす!」


 綱吉は先陣を切って森に入る。

 当然森の中で馬を駆るのは危険なため、自らの足で走っている。

 それに続いて勇敢な家臣達も走っていった。


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