表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/55

45話 過去

 綾斗の下に矢が届く直前、彼を囲むように突風が吹いた。

 それによって矢が綾斗を避けるように地面に突き刺さる。

 同時に怒号が響き渡った。


「てめえら! 綾斗に何しやがんだ!」


 烈風が吹く。

 それによって兵達は腰を抜かし、武器を取り落とした。


「ひ、ひぃ!」

「妖怪だ! 本物の妖怪がでたあ!」


 ダイキチは烈風を吹かして兵達の動きを抑え込みながら、綾斗に声をかける。


「おい、綾斗! 生きてるか!?」

「あ、ああ。なんとかな。すぐに来てくれて助かった……よ……」


 そこで綾斗は気を失い、地面に倒れた。

 サキが綾斗を抱きしめながら叫ぶ。


「綾斗さん! 綾斗さん!」

「おい、嬢ちゃん! 速く馬車に乗れ! 綾斗はまだ息をしてるから急いで里に戻るぞ! キチなら治せるはずだ!」


 その言葉にサキはハッとして、頷いた。

 サキが馬車に乗り、続いてダイキチが綾斗を乗せる。

 そしてすぐに彼らはその場を去った。



 綱吉は空を飛ぶ黒い影を見つけた。

 そちらに目を向けると、巨大なイタチが空中を凄まじい速さで駆けている。

 それをみた綱吉はすぐさま馬に乗り、後を追った。


「見ろ! 妖怪だ! 向こうに行ったということは、そこに妖怪達の里があるはずだ! 皆の者、俺に続け!」


 妖怪を見た家臣達は綱吉の言っていたことは本当だったのか、と驚きながら声を上げる。

 そして彼に従って馬を走らせた。



 暗い世界の中、綾斗は昔のことを思い出す。



 綾斗は冒険者である叔父が大好きだった。

 色々な国を巡り、さまざまな宝を発見し、世界中で話題になるような人だったのだ。

 そんな彼を綾斗は幼い頃から尊敬し、彼のようになりたいと思うようになっていた。

 その叔父がある日、中学生だった綾斗に言った。


「家にはある言い伝えがあってね。三重に平家の落人が残した埋蔵金があるらしいんだよ。丁度今は夏休みだし、一緒に行かないかい?」


 その言葉に対して綾斗は目を輝かせながら首を縦に振った。

 だが、それが叔父の最後の冒険となった。

 二人が三重の山奥に行ったとき、戦争が起こったのだ。

 不穏な噂のある某国からの突然の攻撃だった。

 それによって叔父は死に、綾斗は生き残った。


(いや、違うな。叔父さんが俺を生かしてくれたんだ)


 叔父は瀕死になりながらも、綾斗に全ての道具を託した。

 それを使って生き延びろ、と言葉を残した。

 そんな叔父に対して、綾斗は言った。


「絶対に俺が埋蔵金を探し出すから!」


 その言葉を聞いた叔父は嬉しそうな笑みを浮かべ……死んだ。


(そう、だから俺は何としても埋蔵金を見つけなきゃならないんだ。こんなところで死ぬわけにはいかないんだ!)



 すると突然、暗い世界が弾ける様な閃光が瞬いた。



「があっ!?」


 目を開くと視界がちかちかする。

 それと同時に声がかけられた。


「綾斗さん! 目が覚めたなの!」

「おお、本当じゃわい!」

「よかったでござる!」


 サキ、ぬらりひょん、半蔵がうつ伏せになっている綾斗の視界に映る。

 すると視界の外から別の声がかけられた。


「ふぅ。安心したよ」

「危なかったぜ!」

「間に合ってよかったです」

「綾斗さん、今薬を塗りますからね」


 清明、ダイキチ、ツバキ、キチの声だ。

 今はどうやら家の前にいるらしい。

 他にも周りに住人達が自分のことを心配そうに見守っている。

 綾斗がそう認識すると、彼の体から鋭い痛みが急速に引いていった。

 キチが口を開く。


「これでもう大丈夫です。綾斗さん、動けますか?」

「あ、ああ……」


 綾斗は手を動かし、そして体を起こした。

 痛みはない。

 すると涙を浮かべたサキが飛びついてきた。


「綾斗さん! 生きていて本当に良かったなの!」

「ああ、俺もそう思うよ」


 綾斗はサキの背中を優しく叩き、落ち着かせる。

 そしてそのままの体勢でキチとダイキチに向かって礼を言った。


「二人ともありがとうな。おかげで助かった」


 次に周りにいる全員に向かって口を開いた。


「心配かけて悪かったな」


 綾斗はそう言って頭を下げる。

 すると周りにいる者達は口々に返答した。

 それから綾斗はぬらりひょんに声をかける。


「状況はどうなってるんだ? 綱吉が攻めて来たってのは把握している」

「その通りじゃよ。この里のすぐ近くまで兵達がやって来とるわい。じゃが清明のおかげで問題はないがの」


 そう言ってぬらりひょんは森の方を指さし、綾斗に濃霧結界の説明をする。

 それを聞いた綾斗は感心したように口を開いた。


「へえ、すごいな。式紙だけじゃなくて、そんなこともできるんだな」


 その言葉を受けて、清明は頭をかいた。

 どうやら照れているようだ。


「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」


 しかし次の瞬間、清明の肩に鳥の形をした式紙がとまった。

 清明の顔が険しくなる。

 一瞬で空気が張り詰めたものに変わった。

 泣き止んだサキを離した綾斗が声をかける。


「どうしたんだ?」

「森が、燃やされている」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ