45話 過去
綾斗の下に矢が届く直前、彼を囲むように突風が吹いた。
それによって矢が綾斗を避けるように地面に突き刺さる。
同時に怒号が響き渡った。
「てめえら! 綾斗に何しやがんだ!」
烈風が吹く。
それによって兵達は腰を抜かし、武器を取り落とした。
「ひ、ひぃ!」
「妖怪だ! 本物の妖怪がでたあ!」
ダイキチは烈風を吹かして兵達の動きを抑え込みながら、綾斗に声をかける。
「おい、綾斗! 生きてるか!?」
「あ、ああ。なんとかな。すぐに来てくれて助かった……よ……」
そこで綾斗は気を失い、地面に倒れた。
サキが綾斗を抱きしめながら叫ぶ。
「綾斗さん! 綾斗さん!」
「おい、嬢ちゃん! 速く馬車に乗れ! 綾斗はまだ息をしてるから急いで里に戻るぞ! キチなら治せるはずだ!」
その言葉にサキはハッとして、頷いた。
サキが馬車に乗り、続いてダイキチが綾斗を乗せる。
そしてすぐに彼らはその場を去った。
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綱吉は空を飛ぶ黒い影を見つけた。
そちらに目を向けると、巨大なイタチが空中を凄まじい速さで駆けている。
それをみた綱吉はすぐさま馬に乗り、後を追った。
「見ろ! 妖怪だ! 向こうに行ったということは、そこに妖怪達の里があるはずだ! 皆の者、俺に続け!」
妖怪を見た家臣達は綱吉の言っていたことは本当だったのか、と驚きながら声を上げる。
そして彼に従って馬を走らせた。
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◆
暗い世界の中、綾斗は昔のことを思い出す。
綾斗は冒険者である叔父が大好きだった。
色々な国を巡り、さまざまな宝を発見し、世界中で話題になるような人だったのだ。
そんな彼を綾斗は幼い頃から尊敬し、彼のようになりたいと思うようになっていた。
その叔父がある日、中学生だった綾斗に言った。
「家にはある言い伝えがあってね。三重に平家の落人が残した埋蔵金があるらしいんだよ。丁度今は夏休みだし、一緒に行かないかい?」
その言葉に対して綾斗は目を輝かせながら首を縦に振った。
だが、それが叔父の最後の冒険となった。
二人が三重の山奥に行ったとき、戦争が起こったのだ。
不穏な噂のある某国からの突然の攻撃だった。
それによって叔父は死に、綾斗は生き残った。
(いや、違うな。叔父さんが俺を生かしてくれたんだ)
叔父は瀕死になりながらも、綾斗に全ての道具を託した。
それを使って生き延びろ、と言葉を残した。
そんな叔父に対して、綾斗は言った。
「絶対に俺が埋蔵金を探し出すから!」
その言葉を聞いた叔父は嬉しそうな笑みを浮かべ……死んだ。
(そう、だから俺は何としても埋蔵金を見つけなきゃならないんだ。こんなところで死ぬわけにはいかないんだ!)
すると突然、暗い世界が弾ける様な閃光が瞬いた。
◆
「があっ!?」
目を開くと視界がちかちかする。
それと同時に声がかけられた。
「綾斗さん! 目が覚めたなの!」
「おお、本当じゃわい!」
「よかったでござる!」
サキ、ぬらりひょん、半蔵がうつ伏せになっている綾斗の視界に映る。
すると視界の外から別の声がかけられた。
「ふぅ。安心したよ」
「危なかったぜ!」
「間に合ってよかったです」
「綾斗さん、今薬を塗りますからね」
清明、ダイキチ、ツバキ、キチの声だ。
今はどうやら家の前にいるらしい。
他にも周りに住人達が自分のことを心配そうに見守っている。
綾斗がそう認識すると、彼の体から鋭い痛みが急速に引いていった。
キチが口を開く。
「これでもう大丈夫です。綾斗さん、動けますか?」
「あ、ああ……」
綾斗は手を動かし、そして体を起こした。
痛みはない。
すると涙を浮かべたサキが飛びついてきた。
「綾斗さん! 生きていて本当に良かったなの!」
「ああ、俺もそう思うよ」
綾斗はサキの背中を優しく叩き、落ち着かせる。
そしてそのままの体勢でキチとダイキチに向かって礼を言った。
「二人ともありがとうな。おかげで助かった」
次に周りにいる全員に向かって口を開いた。
「心配かけて悪かったな」
綾斗はそう言って頭を下げる。
すると周りにいる者達は口々に返答した。
それから綾斗はぬらりひょんに声をかける。
「状況はどうなってるんだ? 綱吉が攻めて来たってのは把握している」
「その通りじゃよ。この里のすぐ近くまで兵達がやって来とるわい。じゃが清明のおかげで問題はないがの」
そう言ってぬらりひょんは森の方を指さし、綾斗に濃霧結界の説明をする。
それを聞いた綾斗は感心したように口を開いた。
「へえ、すごいな。式紙だけじゃなくて、そんなこともできるんだな」
その言葉を受けて、清明は頭をかいた。
どうやら照れているようだ。
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」
しかし次の瞬間、清明の肩に鳥の形をした式紙がとまった。
清明の顔が険しくなる。
一瞬で空気が張り詰めたものに変わった。
泣き止んだサキを離した綾斗が声をかける。
「どうしたんだ?」
「森が、燃やされている」




