40話 新たな情報
ぬらりひょんに里を案内してもらった後、安部清明と捨て人達は綾斗の家に住むことになった。
捨て人の中にはサキがいた村の者もおり、彼らは家族との再会を喜んだ。
そんな中、ツバキは久しぶりに出会ったウメと会話をしている。
「ウメさん、お久しぶりです」
「久しぶりだねえ。元気そうでなによりだよ」
そう言ってウメは眦に涙を浮かべた。
ツバキとウメは親戚で遠い血族である。
同じ村に住んでいたため、両家の仲は良い。
それからしばらくの間会話をしていると、ウメが小声で口を開いた。
「綾斗がね、埋蔵金を探しているんだよ」
それを聞いた瞬間、ツバキの眉がピクリと動いた。
そして周りを見て誰もいないことを確認すると口を開く。
「それは本当ですか? もしそうなら綾斗さんに気を許すことは避けなければなりませんね」
「そうでもないさね。綾斗は口調は悪いが人は良いからねえ。埋蔵金を探している理由は聞けてないが、きっとろくでもない理由じゃないはずさ」
「そうですか……」
「綾斗に教えたのも白いツツジの下ってだけだし、絶対に見つけられないから安心するさね」
その言葉を聞きながらもツバキは眉を寄せて考える仕草をする。
するとウメが彼女の肩に手を乗せた。
「ま、最終的に決断するのはあんただから、任せるよ。でも何か聞きたいことや協力して欲しいことがあれば力を貸すから、遠慮なく言うんだよ」
◆
丁度九尾の狐が清明に里を案内し終えた後、夕食の時間になった。
住人達は全員綾斗の家に集まり、いつも通り食事を開始する。
他の者達は一心不乱に食べている中、清明の声が響き渡った。
「うまーーーーい!」
そして彼もバクバクと食べ進める。
そんな中、綾斗は一人顔を青くして疲れきった顔をしていた。
夕食を食べ終わった後、ぬらりひょんが彼に声をかける。
「どうしたんじゃ、綾斗? そんなにぐったりとして、珍しいのう」
「……そりゃあ、ぐったりするさ。何せ料理ができるやつに手伝ってもらったとはいえ、五十人分近くの食事を殆ど一人で作ったんだからな……」
そう言って綾斗はゆっくりとした動作で箸を進める。
そして呪詛のように呟いた。
「これからまだ後片付けがある。これからまた後片付けがある。これからまだ後片付けがある……」
五十人分の料理を作るとなると、調理器具や食器は膨大なものとなる。
手伝いがいるとはいえ、一時間以上はかかるだろう。
それを理解しているため、綾斗はさらにげっそりとした様子で箸を進めた。
するとぬらりひょんが口を開く。
「ああ、その心配はいらんぞい。各自で後片付けをするようにここを案内したときに言ったからのう」
その言葉を聞いた綾斗は洗い場に目を向ける。
そこではぬらりひょんの言った通り、住人達が使った食器を洗っていた。
思わず感動する綾斗。
「おお、おお!」
「な、涙を流す程なのかのう?」
するとそこに清明がやってきた。
「綾斗君に話が……って、何で泣いてるの?」
ぬらりひょんが口を開く。
「少し感動しておるだけじゃ。それよりどうしたんじゃ?」
「少し綾斗君に話が合ってね。……今話しかけてもいいのかな?」
清明は綾斗の様子を見て小声でぬらりひょんにそう聞く。
そんな彼に対して、ぬらりひょんは首を縦に振った。
清明が綾斗に話しかける。
「綾斗君、君は元の時代に戻りたくないかい?」
その言葉を聞いた綾斗は即座に清明に顔を向けた。
「今は戻りたくない。だがいつかは戻るつもりだ。だから戻る方法は知っておきたい。その口調からして、戻る方法を知っているのか?」
「うん。知ってるよ。この時代に迷い込んだならそう思っているだろうと思って話しかけたんだけど、正解だったよ」
綾斗は箸を止め、ごくりと唾を飲み込む。
「……教えてくれ」
「分かった。元の時代に戻るには僕が倒れていた峠を越えるだけで良い。といってもただ単に越えるだけじゃだめなんだ」
それを聞いた綾斗は同意するように頷いた。
「それは分かっている。この時代に来てから何度か峠を越えたことがあったからな。加えてあそこを調べてみたけど、何もなかった」
「そうだと思うよ。あそこには見えない小さな時空の歪があってね。その歪みは不規則に大きくなるんだけど、それが大きくなった時に入れば、時間跳躍することができるんだ」
つまり大きさが変化する穴があり、入れる大きさになったときに入れば時間跳躍ができるというわけである。
「そうだったのか……。よく知っているな」
「陰陽術でそういう目に見えない歪みを見る術があってね。それを使って調べたんだ。まあ、それを調べていた時に急に時空の歪が大きくなって巻き込まれてしまったんだけどね。だけど実は歪みが大きくなった時に入るだけでは時間跳躍はできないんだよ」
ここが重要だとばかりに清明は指を立てた。
「そうなのか?」
「うん。その歪みに入れる条件ってのがあってね。何でも良いから、強い思いを抱いてないとだめなんだ。その思いの力と時空の歪が干渉して時間跳躍現象が起こるからね」
清明がそう説明すると、綾斗は考え込んだ。
「強い思い、か」
「例えば僕で言えば食欲だね。普通の人より僕は遥かに食欲が強いから」
清明は苦笑する。
そして次の例をだした。
「半蔵君にこの話しをしたら普通の百姓のような生活をしたいという思いだって言ってたよ」
「そういえばそんなこと言ってたな」
綾斗は半蔵と埋蔵金探しをしたことを思い出しながらそう言った。
そして自身の強い思いが何なのか見つけた。
「なら俺は、埋蔵金を見つけて墓にお供えしたいって思いだな」
それを聞いた清明が疑問を浮かべた。
「埋蔵金? なんだいそれは?」
「この地に眠る、平家の埋蔵金だ」
綾斗は清明に彼が生きていた後の平家の行く末と一緒に埋蔵金のことを語る。
「そうなんだ。まさか平家の末路がそんなものになるとは……」
「それで聞きたいんだが、清明がこの地に来たときに生えてたツツジがどこにあるか分かるか?」
綾斗がそう聞くと、清明は眉を寄せながら目を瞑った。
思い出しているのだろう。
「……たしか峠の辺りにはたくさん生えていたと思う。でもそれ以上は詳しく思い出せないや。ごめんね」
「いや、構わない。それだけ聞けただけでも大きな進歩だ。ありがとう」
そこで彼らは話を終えた。
清明が立ち去った後、箸を進めながら綾斗は考えを巡らせる。
(峠の辺りか。あそこはここから遠いから、まだ調べて無かったんだよな)
峠はサキがいた村の近くにある。
つまりこの里から数日歩いた場所にあるため、頻繁にいける場所ではない。
この間綾斗が峠を調べた時はダイキチの馬車で送ってもらったため日帰りで行けただけであり、その時はツツジの木を調べなかった。
(でもあの辺りにあるなら絶対に調べる必要があるな)




