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38話 行き倒れ

 綾斗達が捨て人達を連れて江戸から帰っている途中、サキがツバキを紹介した。

 それを聞いた綾斗は驚いた。


「まさかあんたがサキの母親だったなんてな。驚きだよ」

「私も驚きました。まさかあの時に倉之助の店に来たあなたが娘を助けてくれたなんて……。それも村の皆さんまで……。ありがとうございます」


 これまでのいきさつを聞いたツバキは涙ながらに礼を言う。

 そうして綾斗達は捨て人達と話していると、姫越峠を目前にして突如馬車の速度が落ちた。

 ダイキチが声を上げる。


「おい! 人が倒れてるぜ! 服装からして多分綾斗と半蔵と同じような奴だ!」

「俺と半蔵と同じ……? つまり違う時代から来た奴ってことか?」

「そうだ! 綾斗の事だから助けるんだろ!?」

「さすが、良く分かってるな。当然だ」


 ダイキチは綾斗の返事を聞くとさらに速度を落とし、峠近くの地面に降り立った。

 綾斗が馬車から降りると平安装束を身にまとった男が倒れている。


「おい、大丈夫か!?」


 綾斗はその男に呼びかけながら近づく。

 男は完璧すぎるほど顔立ちが整っている高身長の美青年だ。

 しかしその顔色は悪く、返事は無い。

 代わりにうめき声が僅かに聞こえるくらいだ。


「……す……た」


 何かを言っているようだが聞き取れない。

 綾斗は焦りながら、その男の肩に手を回して上体を起こした。


「もう少しもってくれよ。キチに見てもらえば一発で良くなるからな」


 そう言って綾斗は男の足を引きずるようにして立ち上がった。

 遅れてぬらりひょんも綾斗の反対側に回り、男の肩を担ぐ。

 その時、男が先程よりかすかにはっきりとした言葉を発した。


「お腹空いた……」



 綱吉の家臣は綱吉に言われたとおり、津藩の藩主と話をつけてきた。

 それを聞いた綱吉はよくやった、とほめるでもなく厳しい顔をしながら口を開く。


「そうか。ならばこれで兵を津藩の中に入れることができる。もちろん道中の藩主達にも通行許可は取ってきただろうな?」


 綱吉は家臣に向かって鋭い声でそう言った。

 するとその家臣は怯えを見せながらも言葉を発する。


「も、もちろんでございます。いつでも通行できるよう許可を貰いました」

「ならば兵をかき集めろ! 今から津藩の山奥にある、妖怪達の里を滅ぼしに行くぞ!」


 綱吉がそう言うと、家臣達はやや迷いを見せながらも腰を上げた。



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