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34話 命の危機


 ツバキは倉之助に預けられた荷物を持ち、できるだけ早く歩きながら先程サキと交わした会話を思い出す。



 サキを抱きとめたツバキは笑顔を浮かべながら口を開いた


「サキ、もう一度会えて嬉しいです。でもどうして? それにその着物……まさかあなたも捨てられてここへ……?」

「違うの! 一度捨てられたけど、今は森の中にある里で綾斗さん達と一緒に暮らしているの! 今日は綾斗さん達を一緒に来たなの!」

「あやと、さん? 村にそんな方いましたっけ?」


 ツバキは首を傾げて村にいたころの記憶を探る。

 しかしそれどころではないことに気がついた。


「サキ、ここにいてはいけません! すぐに帰りなさい! 倉之助の手の者にこの場を見られると、酷い目に会う恐れがあります!」


 鬼気迫る表情でそう言うツバキだが、サキは困ったように眉を下げた。


「でも迷子になっちゃったから、綾斗さん達のところに戻れないの……」

「そんな……」


 どうしようか頭を働かせるツバキ。

 すると倉之助が大通りに繋がる道の曲がり角から姿を現した。

 ツバキは慌ててサキを物置の中に押し込んだ。


「サキ、私が出てくるまで、ここで大人しくしているんですよ!」


 そう言ってツバキは物置の扉を閉め、倉之助の方に向き直った。

 だが涙を流したことにより、目がはれていることに気が付く。

 彼女は咄嗟に顔を俯けて倉之助を迎えた。



 荷物を倉之助の部屋に置いたツバキは、店の裏口に再びやって来た。

 彼女は倉之助と彼の配下が周囲にいないことを注意深く確認し、物置の扉を開く。


「……サキ?」


 だがそこにサキの姿は無く、ツバキは呆然とした。



 綱吉から逃れた綾斗は人ごみに紛れながら走る。


(何故俺が狙われているか知らねえが、このままだとサキを探すのは無理だ。一旦半蔵達の下に帰らねえと)


 遥か前方にはダイキチの黒い巨体が見える。

 それを目印に綾斗は駆ける。

 するとそこには半蔵とぬらりひょんもいた。

 ぬらりひょんが綾斗に声をかける。


「おお、綾斗。丁度良かったわい。ワシが聞き込みしていたらサキちゃんの行方が分かったから、呼びに行こうと思っておったところじゃ」

「本当か!? どこにいったんだ!?」

「倉之助の店じゃよ。それも表ではなく裏口から連れ込まれて行ったらしいぞい」

「嘘だろ!?」



 倉之助は店の地下に存在する牢獄の中に向かって、サキを乱暴に放り投げた。


「痛っ!」


 サキは床に尻餅をつく。

 牢獄の中には他に彼女と同じような赤い着物を着たやつれた人々がいる。

 彼らはサキに興味が無いのか、はたまた動くだけの気力がないのか、ピクリとも動かない。

 そんな彼らを横目に、倉之助はサキに向かって口を開いた。


「一体どうやってここから出やがったんだ?」


 倉之助はサキを脅すように低く、重い声でそう言う。

 そんな彼にサキは怯えた表情を向け、僅かに後ずざった。

 すると倉之助がサキのことを見て違和感を抱いた。


「ん? 他の捨て人達より気色がいいな。だがその赤の着物は俺が作らせた奴で間違いない。しかしこんな奴、俺の店にはいなかったよな……」


 倉之助は独り言のように呟きながら、考えを巡らせる。

 すると彼の中に一つの仮説が浮かび上がった。

 今一度サキに質問する。


「おい、お前はどこから来た? 元からこの店にいたわけじゃねえだろ?」

「……」


 サキは口を噤んで答えず、その顔には怯えが見える。

 しかし彼女はそれ以上に目の前の人物が悪人である倉之助だと理解したため、その質問に答えるつもりは毛頭ない。

 倉之助がいらだったように口を開く。


「もう一度聞くぞ。お前はどこから来た」


 先ほどと同じように倉之助は脅すような声を出した。

 それを聞いたサキは恐怖からか涙目になるものの、やはり答えない。

 そんな彼女を前にして、倉之助は更に苛立ちを募らせた。

 彼は後ろに控えさせていた護衛の侍達の内、一人に向かって声をかける。


「やれ」


 侍はその言葉に対して眉を顰めながらも、倉之助には逆らうことが出来ないのか、刀を抜き、振り下ろした。



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