27話 五平の悪事
●綾斗視点
綾斗が戸を叩くと、さほど間を空けずに五平が戸を開いた。
彼は綾斗の姿を見ると、貼り付けたような笑顔を浮かべる。
「おや、綾斗さんですか。どうしたんですか?」
「少し年貢のことで話があってな」
綾斗がそう言うと、五平はピクリと眉を動かした。
しかし彼は依然として笑顔のままだ。
「年貢のことですか。綾斗さんの言いたいことは察しがつきますが、こればかりは私の力ではどうにもなりません」
「そこをどうにかしてほしいから来たんだ。このままでは村人達はいなくなる一方だぞ」
「そうは言われましてもねえ」
五平は困ったような顔をする。
するとぬらりひょんが五平の家の中を覗いて素っ頓狂な声を上げた。
「ん!? ハチ、そこで何をしておるんじゃ!?」
綾斗と半蔵、そして五平も家の中に目を向ける。
そこにはハチが何か書かれた紙を咥えていた。
それをみた五平は顔色を変え、ハチに飛び掛る。
「返せ! この犬が!」
「わう!」
しかしハチは上に高く飛ぶことで軽やかにそれをかわし、次に五平の頭を蹴って綾斗の前に着地した。
「うがっ!」
頭を蹴られた五平は飛び掛った勢いもあり、もんどりうって床に倒れる。
その間にハチは綾斗に咥えている物を渡し、どこかに行った。
「なんだこれ? ……読めん」
江戸時代に書かれている文字は同じ日本語でも、綾斗がいた時代と表記や字の崩れ方が違う。
そのため綾斗はすぐにそれらをぬらりひょんに渡した。
「ひょん爺、頼んだ」
「しょうがないのう」
ぬらりひょんは手紙を広げ、人外の速さでそれを読み終える。
そして口を開いた。
「ふむ。五平といったか? お前さん、なかなか悪どいことをしておったようじゃのう」
その言葉が気になり、半蔵がぬらりひょんに問いかける。
「何がかかれていたでござるか?」
「年貢を多めに徴収すること、そして人身売買の商品にするために村人を捨てることじゃな。驚いたことに全て倉之助の指示みたいじゃ。それに従う代わりに大金を受け取っておったみたいじゃぞ」
綾斗の目が釣りあがった。
それを前にして、五平は弁明しよう口を開く。
「ち、ちが……」
だがそれを遮るようにぬらりひょんが口を開いた。
「詳しく説明するとじゃな、年貢を多めに徴収しておったのは村人達を困窮させることらしいぞい。そうして弱らせた村人を捨てることで、そやつらを回収するのを速やかに行えるようにしたらしいわい。恐らくこやつが太っているのは、奇病ではなく、余った年貢を食っていたからじゃろうな」
五平の顔が見る見るうちに青くなる。
しかしぬらりひょんは口を閉ざさない。
「本来は百姓代や組頭といった村役人が名主を監視したりするらしいのう。じゃが倉之助は代官を買い込んで五平がそいつらを捨てることを見逃さしていたみたいじゃ。安心して事にあたれと書かれてあるわい」
それを聞いた綾斗は怒りをあらわにした。
「この外道が! 人はお前の私腹を肥やす道具じゃねえんだぞ! しかもよりによってあのゲス野郎と繋がっていただと!? 許せねえ!」
するとその瞬間、家の奥から突然侍達が出てきた。




