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20話 狐の妖力

◆九尾の狐視点


 九尾の狐は周りに誰もいないことを確認すると、口から火を吐き出した。

 彼女の妖力によってその火は熱くなく、他のものを燃やすことが無いようされている。

 もっとも彼女は自然物が好きなため、他の物を燃やしてしまう火は使わないのだが。

 その火の色を変え、大きさを変え、凝縮し、彼女は瞬く間に動物の幻影を作り出した。


「うむ、良いできじゃの」


 その幻影は体長二メートル程の熊である。

 近くから見てもそれが幻影にはまるで見えない。

 九尾の狐が何千年と人間社会に紛れ込んできた実力がそこに示されているといってもいいだろう。


「後は数じゃの」


 彼女は熊の他に鹿やイノシシ、キジなど、様々な動物を炎で作り出した。

 それらの動きは皆自然であり、草を食べる仕草や空を羽ばたく姿は本物のようである。


「最後に仕上げじゃ」


 しかし芸術的と言っても良い程完成度の高い幻影達に、彼女はさらに手を加えた。

 それぞれの体の一部に人の顔を付け足したのだ。

 それにより、動物の幻影達が一気におぞましいものになった。

 それも彼女のこれまでの経験が詰め込まれているだけあって、非常にリアルな人面が付けられている。

 何も知らない者が見たら、たとえ妖怪であっても、腰をぬかして驚くだろう。


「くっくっく。これを見た時の里の者達の反応がたのしみじゃ。さあ、幻影たちよ、行くんじゃ!」


 幻影たちが一斉に里に向かう。

 その後姿を見ながら、九尾の狐は茂みに隠れて里の者達がどのような反応をするのか見る。

 しかし突然、一匹の幻影の姿が消えた。


「なぬ!?」


 九尾の狐は思わず声を出して驚く。

 するとその間に更に一匹の幻影が消えた。


「なんじゃ!? 何がどうなっておるんじゃ!?」


 勝手に幻影が消えることなどありえない。

 彼女は酷く困惑した。

 しかし幻影たちは次々に消えていく。

 彼女は目を凝らして幻影たちを見た。

 するとその幻影たちに襲い掛かっている一匹の犬がいることに気がついた。

 その犬は凄まじい速さで走り、幻影たちに臆することなく牙を立てていく。


「な、なんて恐ろしい犬なんじゃ……!」


 その犬は自分より倍以上もある大きさの熊の幻影に飛びかかる。

 さらには木の幹を蹴って空を飛ぶキジの幻影に噛み付いた。

 九尾の狐の長い生の中でもそのような動物は見たことが無く、彼女は自分が見つかった時のことを考えて恐ろしくなった。


「こ、これは逃げた方がいいのお」


 九尾の狐は冷や汗をかきながら急いでその場を離れた。


◆一反木綿視点


 一方で一反木綿はというと、未だに自分の体を解くことに四苦八苦していた。


「誰かあ! 助けてくれないかしらあ!」


 何度も叫んだ言葉をもう一度繰り返す。

 しかしやはり誰もやってこない。


「はあ、このまま綾斗ちゃん達が帰ってくるまで待つしかないのかしらぁ……」


 ため息を吐きながら、一反木綿はもう一度自身の体を解くことに挑戦した。



 その頃、ウメとチュウキチ、半蔵はキチの家で、彼の手伝いをしていた。

 ウメとチュウキチは薬草を選り分けており、半蔵はキチと薬を作る道具を掃除している。

 半蔵が口を開いた。


「キチ殿は道具を大切に扱っているのでござるな」

「ど、道具がないと薬が作れないですから。これらは僕の命なんです」


 その言葉を聞いた半蔵は感嘆した。


「なるほど、命でござるか。綾斗殿のようなことを言うのでござるな」

「綾斗さんのような、ですか?」


 キチは首を傾げる。

 それに対して半蔵は頷きながら説明した。


「そうでござる。なんでも綾斗殿が言うには、料理人の魂は包丁であり、料理器具であるらしいでござる。それらを粗末に扱えば美味な料理は出来ないのだとか」

「ああ、たしかに綾斗さんはそのようなことをよく仰っていますね。だから綾斗さんの料理は美味しいんですか」



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