表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/55

16話 調味料

 村を回復させた翌日の朝食の席で、綾斗はふと気になったことをウメに聞いた。


「そういや婆さん。婆さんの村に平家の埋蔵金の言い伝えとかってあるか? あったら教えてほしいんだが」

「平家の埋蔵金? ああ、平家のお姫様が、白いツツジの花が咲いた木の下に小判を埋めたっていう話のことかい?」


 その言葉を聞いて綾斗は目を見開いた。

 そしてまくし立てるように口を開く。


「白いツツジの花だと!? そんな話は俺がいた時代には無かった!」

「そうなのかい? でも残念だけど、言い伝えであるのはそれだけさね」


 ウメは申し訳無さそうな顔をする。

 しかし綾斗は笑顔で口を開いた。


「それだけでも十分だ! ありがとう!」


 綾斗は急いで朝食を済ませ、万能工具を持ち笑顔で森に行く。

 しかしツツジの開花次期は春であり、今は秋である。

 そのため花は咲いておらず、どれが白のツツジか分からない。

 だが綾斗には問題なかった。


「樹木解析」

『解析結果を表示します』


 スマートバンドに話しかけるとホログラムが展開され、そこに解析結果が表示された。

 そこには樹齢やどんな色の花を咲かせるかなど、詳しい情報が載っている。


「樹齢60年、紫か。違うな」


 綾斗は一つ一つツツジの木を調べていく。

 そうして樹齢550年で、白い花を咲かせるツツジを一本だけ見つけることができた。

 しかしその下には埋蔵金は無い。


「ま、この地はツツジだらけだから、他にも同じような木はあるだろ。いつか見つかるはずだ」


 そう楽観的に考える。

 そしてしばらくの間探し回ると川に突き当たった。


「そういやこの先は行ったことがなかったな」


 川を越えれば九尾の縄張りである。

 そのため綾斗はそこに足を踏み入れるのを控えていた。

 しかし、もしその縄張りの中に埋蔵金があるとすれば話は別である。


「行くか」


 綾斗は飛び石のように岩が出ているところを越えて川を渡った。

 それからさらにしばらくの間、目的のツツジを探すも、見つからない。

 空が赤くなり始め、影が徐々に長くなる。


「仕方ない。今日はここまでにするか」


 そう呟いて綾斗は踵を返す。

 すると彼の視界に一対の赤い目が茂みの中から覗いているのが映った。


「ん?」


 綾斗がその視線に気づくと目はすぐに茂みの向こうに隠れた。

 そしてがさがさと音がしたかと思うと、そこから金色の体毛の動物が森の奥に向かって駆けて行った。


「ハチか? いや、大きさが明らかに違ったよな。それに狐みたいなかんじだったし」


 綾斗はその動物の姿を思い出す。


「尻尾がたくさんあったような気が……もしかして九尾の狐か? でもひょん爺曰く、九尾の狐は見上げる程巨大らしいし、違うよな」


 そうして胸の中に僅かなわだかまりを感じながらも、綾斗は帰路に着いた。


◆狐視点


 九本の尻尾を揺らしながら、狐は激しく怒っていた。


「おのれ、おのれ、おのれ! よくもわちきの縄張りに侵入し、好き勝手に荒らしてくれたのお! おかげで森の一部が拓けてしもうとるではないか!」


 彼女の脳裏に浮かぶのは、ぬりかべ達が里の建物を建てるために木材を調達した場所である。

 そこは切り株すらなく、彼女の言うとおり完全に拓けてしまっていた。


「縄張りの境界が騒がしいから何じゃと思えば、勝手に里なんぞ作りおって!」


 森の中からこっそりと覗いた里は人間と妖怪が楽しそうに暮らしていた。

 彼女はまさか人間と妖怪が共存するなんて、と信じられない思いでいっぱいだったが、何度目をこすっても見える景色は同じだった。

 彼女は口から火を噴き出す。


「気に食わんのじゃ!」


 自分がかつて夢にまで見、そして諦めた物が他の誰かの手で実現されていたことに腹を立てる。

 それと同時にその里に住んでいる者達に激しい嫉妬を抱いた。

 その憤りをぶつける様に、その矛先を頭に浮かんできた先ほど見た人間に向ける。


「それになんじゃ、あの奇怪な格好をした人間は! 面妖な術を使いおって! 不気味すぎるんじゃ!」


 ホログラムを展開させてツツジの木を解析していた綾斗を見て、彼女は目を見開くほど驚いた。

 これまで長いこと生きていたが、そんな術を使う者は見たことがなかったからだ。

 おかげでしばらくの間呆然とし、その人間と一瞬目が合ってしまった。


「あの時は危なかったのじゃ。もしあやつが陰陽師なら、滅されるところじゃった」


 彼女の脳裏に恐ろしい形相で襲い掛かってくる陰陽師たちの姿が浮かぶ。

 だがそんな彼らの中にも優しい者がいることを知っているため、彼女は人間たちを恨むことはなかった。

 600年前に出会い、そして突如姿を消した心優しい陰陽師の青年の姿が浮かぶ。

 しかし彼はもういない。

 彼女はその幻影を振り払うように頭を切り替えた。

 そしてしばしの間、考え、呟く。


「やるにしても、何をされるかわからんから、あの不気味な男が里にいない間にするかのう」


◆綾斗視点


 夕食時、綾斗はぬらりひょんに話しかけた。


「ひょん爺、もうそろそろ調味料がなくなるんだが、もう残りはないのか?」

「む? もうなくなるのかの? まだまだ量はあったはずじゃが……」


 ぬらりひょんが持っていた調味料は百鬼夜行の宴会のために溜め込んでいたため、驚くほど量があった。

 しかし綾斗はぬらりひょんにそれらを自由に使ってもいいと言われていたのだ。

 そのため自由に使っていたのだが、それがとうとう底を着こうとしていた。


「昨日まで連日で村人達に料理を振舞っていたからな。そのせいだろう」

「むぅ、そうか。本来ならワシも町に出て調味料とか野菜とか、色々もらってくるんじゃがのう。綾斗の料理にやみつきになってから、めっきり行かなくなってしまったわい」


 ぬらりひょんが腕を組んで唸る。

 そしてため息を吐いた。


「はあ。綾斗の料理が食べれんのは心苦しいが、仕方ない。明日街に行ってもらってくるかのう」


 すると綾斗が口を開く。


「それってどのくらいの量を貰えるんだ?」

「そうじゃのう。多くてこのくらいじゃな」


 そう言ってぬらりひょんは両手で一抱え程の球を作って見せた。

 それを見て綾斗は眉を寄せる。


「それじゃあ足りないな。皆の食いっぷりから考えて、三日あればなくなるぞ」

「なぬぅ!? そ、そんなに使うのかの!?」

「ああ」


 綾斗は真剣な顔をして頷く。

 するとぬらりひょんは汗をかき出した。


「困ったのう……。このままじゃ綾斗の美味しい料理が食べられなくなるわい」


 ぬらりひょんがそう言った瞬間、一斉に全員の目が二人に向けられる。

 その目にはどういうことだ! と書かれている。

 その答えを待つかのように、食堂からあらゆる音が消えた。

 そんな中、綾斗が口を開く。


「いや、普通に買っちゃだめなのか? それなら問題ないだろ」


 綾斗の提案に全員の口からホッと安堵の息が吐き出された。

 しかしぬらりひょんは顔を顰めたままだ。


「じゃがワシ、一銭も持っとらんのじゃ」

「……え?」


 今度は綾斗を含め、全員が固まる。


「ひょん爺、嘘だろ?」

「本当じゃよ。ワシら妖怪にとって食事は娯楽じゃから、毎日食事をする必要も、それに費やすお金の必要もないからのう。それに一日あれば十軒以上は回れるから、それなりの量のお土産をもらえるしのう。今までお金は必要無かったんじゃよ」


 そう言われて納得した綾斗は頭を回転させながら、ぶつぶつと一人呟く。


「なにか金を生み出すものはこの里にないか? 服とか木工製品、金属製品とかの職人ができるもの以外が望ましい。皆で作り出せる物じゃないと二束三文の金しか生み出せねえ。それじゃだめだ」


 ひたすら考える綾斗。

 それに触発されたように全員が口々に意見を交わせはじめた。

 その中の一つが綾斗の耳に飛び込んでくる。


「村では竹籠や草履を作っていたけど、すぐにできるものじゃないからねえ。あたしが他に考え付くのは、塩作りくらいだよ」


 それを聞いた瞬間、綾斗は大声を上げた。


「それだ!」


 全員の目が再び綾斗に集まる。

 彼は興奮したまま口を開いた。


「塩作りだよ! 塩ならポンプがあるからいくらでも作れるし、燃料となる薪もたくさん取れる! それに元手も当然タダだから、大量に作れる!」


 するとぬらりひょんが口を開いた。


「たしかに塩ならたくさん作れるし、作り方も簡単じゃのう。それなら塩を作って売るとするかのう」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ