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15話 回復

 村人達が並んだ列はなかなか途切れることが無かった。

 というのも、綾斗がふんだんに料理を作ってきたため、お代わりは自由と彼らに言ったためだ。

 それを聞いた村人達は歓喜した。

 一度並んだ者が何度も列の最後尾に並びなおし、そして並びながら料理を無心で食べる、というサイクルが完成した。

 ときおり前の人が進んだことにも気づかない者や、あふれ出る涙に気づかずに食事に没頭している者まで出始めたりもしている。

 料理をよそってもらった村人が綾斗に礼を言った。


「綾斗さん! あの時はすまなかった。こんな美味い飯をくれて、本当にありがとう!」

「おう。事情があれど、次からは人を殺すような真似をしなかったらそれでいいぞ」


 料理を掬い、村人達のお椀によそう度に綾斗は礼を言われる。

 村人達はいつしか綾斗達の事を親しむようになり、すっかり馴染んでいた。

 一方でサキとウメは病気で列に並べない人のために料理を配っている。

 そこでも彼らは感謝され、キチの手当てを大人しく受けていた。

 キチの薬は彼の妖力が込められているだけあって凄まじい効力を持っている。

 そのためキチが見た患者は片っ端から回復し、綾斗が配る料理の列に並んでいた。



 料理を配り終えた綾斗とウメ、そしてぬらりひょんは村を見回る。

 サキとダイキチはキチの手伝いをしている。

 辺りには茅葺の家が何軒もあり、彼らは一軒ずつ家の外観と畑を見ていった。


(これがサキ達がいた村か。前来たときはじっくり見れなかったけど、こうしてみるとどれも古びた家だな。殆どの家に穴が開いている。修理する元気もないんだろうな)


 綾斗がそんなことを考えていると、隣にいたぬらりひょんが口を開く。


「ふむ、随分と寂れた村じゃの。しばらくこの村には来ておらんかったが、ここまで変わっとるとは。どうやらこの村は相当困窮しておるようじゃの」

「たしかに村人達は皆やつれているからな」


 綾斗は馬車の周りで満足げな顔をしている村人達を見る。

 するとぬらりひょんが首を振った。


「たしかにそうじゃが、ワシはそれだけで判断したわけではないわい。まず、他の村は子供が外に出て遊んでおるのが普通じゃが、この村は誰もおらん。それに前来たのは百年ほど前じゃったが、その時はもっと活気があったんじゃ」


 そう言ってぬらりひょんは寂しそうな顔をする。

 そしてある一軒の家を指さした。


「次にあれを見てみい」


 ぬらりひょんが指で示した場所を見る。

 綾斗は顔を顰めた。


「崩れた家があるな……」

「そうじゃ。大方誰も住まんようになって木が腐ったんじゃろうな。でなきゃ、あんな風にはならん。それと同じものがあちこちにある。それが何故かと言うと……」

「住人が捨てられた、か……」


 ぬらりひょんは重々しく頷く。

 そして彼は更に口を開いた。


「それに土がすっかり死んでしもうておる」

「それはどういうことだ?」

「種を植えても育たんということじゃよ」


 ぬらりひょんは深刻な顔をしてそう言った。

 それに対してウメが重々しく頷く。


「ひょんさんの言う通りさね。村人達が捨てられたから全ての畑を管理しきれなくてねえ。それにご飯が食べられないから、土を耕す力も弱くなる。そうして次第に荒地が広がっていったのさ」


 それを聞いた綾斗は眉を寄せた。

 そしてスマートバンドで土地を蘇らせる方法を検索する。

 彼は村の有様を見て、なんとかして救いたいと思うようになったのだ。


「いくつかあるな。でも、どれも時間のかかるものばかりだ」

「そうかい。時間がかかっても良い、と言いたいところだが、皆の様子を見る限りそうも言ってられなささそうだねえ……」


 ウメはやつれた村人達を眺める。

 その顔には悲しみが浮かんでいた。

 しかし綾斗が励ますように口を開いた。


「たしかに俺の力だけではできないが、皆の力を借りればできるさ」


●侍視点


 侍達は五平がぬらりひょんに料理をもらっている様子を窓から見ながら訝しげな顔をした。


「おい、五平は何故あんなにも妖怪と親しげに話しているんだ?」

「分からないが、妖怪がなにかしたのだろう」

「となると、先ほどの突風もそうか」

「ああ。あれをまともに食らえば即死だろうな」


 侍達は揃ってため息を吐く。


「なら、バテレンを殺すのはあきらめた方がいいか」

「そうだな。返り討ちにされる可能性が高い」


●綾斗視点


 一通り村の中を見回った綾斗達は、その日はそれ以上何もせずに里に帰ることにした。

 村人達を代表して五平が口を開く。


「皆さん、料理を振舞ってくださり、ありがとうございました。おかげでこの村に活気が戻るかと思います。それと綾斗さん、この間は村人達が失礼しました」


 そう言って五平が頭を下げる。

 綾斗が口を開いた。


「気にするな、とは言えないが、事情があったのは聞いている。これからは余所者を襲うことをしなければそれでいい」


 五平はその言葉を聞いてホッと息を吐く。

 そんな彼の様子を見ながら綾斗は彼のことを見直した。


(話してみた感じ、良い人そうだな)


 そして彼らは里に帰り、半蔵と妖怪達に村を救うために協力を求めた。

 だが半蔵は真っ先に反対した。

 そこで綾斗は彼に村の窮状と、このままでは捨て人だけでなく死人も出ることを伝えた。

 そんな彼の説得に折れた半蔵は首を立てに振った。



 三日後。

 再び村にやってきた綾斗達は再び料理を振る舞いながら、村人達に連れてきた仲間達の紹介と村を救うためにこれから行うことの説明をした。

 それが終わると作業にとりかかる。

 まずは森の木を伐採し、木材を調達し始めた。

 チェーンソーを持った綾斗と、チュウキチが木を切り倒す。

 その横でぬりかべが木を素手で引っこ抜いていた。


「よっこらスットコドッコイ! よっこらスットコドッコイ!」


 それを見てチュウキチが呆れたように口を開く。


「相変わらずぬりかべは馬鹿力だねえ」

「ありがよ、スットコドッコイ!」


 礼を言いながら新たな木に手をかけ、上に引き抜くぬりかべ。

 すると芋虫がどこからか飛んできて、彼の体にピトリとくっついた。

 ぬりかべが叫ぶ。


「ぎゃああああ! なんだってんだい、スットコドッコイ!?」


 ぬりかべは驚き、芋虫を遠くに投げながら怒る。

 すると抑えたような笑い声が近くの木の陰から薄らと聞こえてきた。


「けけけ……」

「その声は……かぱ蔵か、スットコドッコイ!」


 ぬりかべが素早く木の後ろに回り込む。

 するとそこには河童がおり、両手を口に抑えて声を押し殺していた。

 河童が大きく目を見開く。


「けけ!? おいらは虫を投げるイタズラなんてしてないんだな!」

「うっせえ! 自白してるもんじゃねえか、このスットコドッコイ!」

「はっ!? しまったんだな!」


 それが終わると木を加工し、使いやすい形の木材にするのだが、その作業はぬりかべが一人でするというので綾斗はその場を去った。


(こだわりがあるんだろうな)


 そんな事を思いながら彼は馬車に向かう。

 道中では一反木綿が村人達に服を作ってプレゼントしていたり、一本だたらが壊れた農具を新しい物と交換していたり、キチが他に病人はいないか一人一人診ていた。

 彼らに声をかけながら通り過ぎる。

 他にも鳥の狩り方を教えている半蔵や幼いの子供達と遊んでいるサキが見えた。

 馬車に到着すると、綾斗は積み込んでいた袋を持つ。

 そして畑にその中身をばら撒いた。


「よし。後はこの腐葉土を畑の土と混ぜ合わせるだけだな」


 万能工具をショベルアームに変形させ、土を掘り返しては元に戻す。

 それを二日かけて村全体の畑に行った。


「最後に干鰯を撒いてっと」


 干鰯とは肥料の一つであり、江戸時代に全国で使われるようになったものであるが、まだこの時代では殆ど使われていない。

 そのため綾斗達は三日かけてこれを作ったのである。

 こうして綾斗達は村を回復させた。


◆五平視点


 五平は家で一人窓の外を覗きながら拳を握り、歯を食いしばっていた。


「くそ! 倉之助殿の言う通りに村人達を弱らせておいたのに、これでは逆効果じゃないか!」


 そんな彼の目には妖怪達とぬらりひょんがいる。

 本来なら村人達を使って綾斗達を殺すつもりだったのだが、どういうわけかぬらりひょんの声を聞いただけでその気がすっかり失せてしまったのだ。

 そしてその状態がおかしいと気づいた頃には綾斗達の姿は無かった。


「もし侍が戦ってくれたなら……」


 迷惑だと思っていた侍達がいればいいのに、と思う。

 だがその侍達は既に夜のうちに出て行った。

 倉之助がいる江戸に向かい、捨て人の回収を綾斗に邪魔されていたこと、そして綾斗が村を復興させたことを報告しに行ったのだ。


「こうなったら次の指示がくるまで、村人達にとって良い村長の顔をしておかなければならんな……」


 五平はため息を吐きながら、顔の筋肉をほぐすように両手で頬を挟んだ。


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