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面通り③

 説明が終わり、息子が帰宅するまで待機となったメルは、あてがわれた自室に向かう。部屋に入るとあらかじめ預けていた手荷物が隅に置かれていた。

 部屋はベッドとデスクライト付きの机、そして衣服を収納するためのモノであろう小さなタンスがそれぞれひとつずつ。メルは率直に「簡素」だと感じたが、彼女にはこれで充分だった。


「さてと」


 荷物を整理して一息つくと、メルは目を閉じて頭の中を整理し始めた。


「まずは、目的のおさらいだ」


 メルは表向きの理由としては、皆川の小間使いとして勉強のため、使用人の仕事を体験すべくこの家に来たわけだがそれは真の目的ではない。本当の彼女はただの小間使いではなく、皆川からとある命令を与えられていた。

 事の起こりは三ヶ月前、土井垣家の使用人のひとりが事故で亡くなった一件である。亡くなったのは川澄ゆきのという十六歳の少女で、彼女は身寄りのない少女だった。


 ゆきのは中学を卒業すると高校には進学せず、縁のある土井垣家に使用人として勤めていた。今時高校にも行かずに就職するなど珍しい話だが、本人の強い希望もあって彼女は使用人になったという。

 最初の一ヶ月は世話になった孤児院の園長と頻繁にメールのやり取りをしていたそうだが、ある日を境にそれがピタリと止まってしまう。最初は仕事にも慣れてメールの連絡よりも大事なことはあるのだろうと心配していなかった園長だが、それから更に一ヶ月後に来た連絡が彼女の訃報だった。


「本当に事故だったのか」


 ゆきのの死を信じられない園長はタケシにたずねるが、彼は不幸な事故の一点張りで委細を語ろうとはしなかった。わかっているのは肺挫傷による死という事実のみ。

 不審に思った園長の依頼で行われた検死でもその事実は変わらなかった。

 だが担当した医師はポツリと園長に一言だけ語った。


「皮膚には痣のひとつもついていないにも関わらず、肺の傷はまるで刃物で切り刻まれたかのように鋭利で不可解」


 ゆきのの死因が常識の範囲外によるものだと悟った園長は、医師のすすめでメルの勤める組織へと調査の仕事を依頼した。

 メルたちはこのような超常現象が関わる事件の解決を目的とした組織である。そして組織にとって土井垣家は古い付き合いの名家である手前、彼らならば件の事件を実行可能だと組織は判断していた。

 園長からの依頼を受けた時点で土井垣家には疑いの目を向けている。だが大っぴらに横槍を入れようとも証拠を隠すのが目に見えていたため、こうしてメルが「なにも知らない使用人見習い」として派遣されることとなった。

 ゆきのの死から更にふたりの死者がこの家から出ているが、それを怪しむものはこの街にはいない。屋敷の中だけではなく近隣一帯で土井垣家は暗部を隠せるだけの力を持っていた。

 いかになにも知らない少女を装っても、皆川の部下を名乗っている以上は最初から怪しまれていても仕方がない。故にメルは慎重に当たることとした。

 期限は次の使用人が決まるまでの最長二ヶ月程。それまでにメルはゆきのの死の真相を探る必要があった。

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