ことのはじまり
東北のある場所に大きなお屋敷が二軒たたずんでいる。
この屋敷は地元の郷士、土井垣家の住まい。片方は土井垣家の人間が住む母屋でもうひとつは使用人用の離れである。
母屋と離れで別れるとは言え土井垣の人間は同じ敷地内で使用人と暮らしており、途絶された空間からでなにが起きているのかは当人たちにしかわからない。外野は様々な憶測を流しているのだが、相手が相手だけにそれを大声で叫ぶものはいなかった。
「また若い子が辞めてしまったな」
「ええ。今年に入って五人目ですよ」
「全員がサトルの担当か。まったく、アイツにも困ったモノだ」
ある日の晩酌の場で家長のタケシは妻のナツコに不満を漏らしていた。彼の悩みの種は跡取り息子の行動で、息子の専属になった使用人が次々と辞めていることを問題視していた。
会話だけを聞けば立場を傘にした強姦したことが原因とも受け取れるがそうではない。彼らはみな、何らかの事故にあって亡くなっているからだ。
もしや偶然ではないのではとは思えども、息子を信じるタケシは死を辞めた暗に表現した苦言という形でその疑いを口にするに留める。
土井垣家の使用人と言えば給金も多く福利厚生も調っているため今までは希望者も多いのだが、そのぶん面接をするのは一苦労。そこで今回は以前不採用にした補欠から選ぼうかと帳簿を開くタケシに対し妻がひとつ提案を出した。
「そういえば、教育の一貫として使用人をひとり雇って貰えないかと頼まれておりましたわ。しばらくはその人に代役を頼んでみたらどうでしょう?」
「ほう。誰の頼みだ」
「皆川さんよ」
「あの青二才か」
皆川はまだ四十歳に満たないため、六十を目前としている主人にとってはまさに青二才であろう。妻の薦めでもあるし、なにより彼に貸しを作るのも悪くはないか。そんな打算でタケシは次の使用人を決定した。
ナツコが手渡した経歴書にはこう記されていた。
女鬼島メル 十六歳 女性