君は書けるよ
オチや山のある話ではありませんが、題名を気に掛けて読むと本当の主人公は僕でなくなるかもしれません。違和感をよんでいただけたら幸いです。
「明後日から夏休みだね。」
「そうだね。」
ああもう来るのか。
「楽しみだね。」
「まあそうだね。」
200も埋められないんだけど。
周りからは無表情が多いうえ、返事も淡泊で話しづらいとされているらしい。でも僕からすれば普通に笑っているし、返事もしているつもりだ。でも確かに長く言葉を発することは少ない気がする。だけど、何故だかこいつはいつも話しかけてくれる。
「今週末、この間見つけた裏山にあった川に行かねーか?」
「いいね。」
「やった。朝、行こうぜ。」
「おけ。」
いつぶりだろう、川なんて久しぶりだな。時間も朝と日差しも弱くて涼しそう。最近といえば、ゲーセンを回るか、カラオケに行くか。外出しても室内ばかりであったからすごく楽しみだ。
「おまえも網、持ってこいよ。」
「了解。」
「あ、笑った。」
「そりゃあ笑うこともあるさ。」
さっきも笑わなかったかね。
「ふーん、そうだな。」
「なんだよ。」
「おはよ。」
「おはよう。」
「持ってきたか?」
「うん。」
また可笑しなことを言う、持っているじゃないか。
「お。バケツも持ってきてんじゃん。ナイス。」
「ん。一応。」
こいつはよく、後先を考えずに行動する癖があるから忘れてるんじゃないかなと思ったんだ。
「はは、流石だ。ありがとう。」
笑われると恥ずかしいじゃないか。けど、とても嬉しい。
「あ、また笑った。」
「ぼくだって普通に笑うさ。」
「そうだっけ。」
「そうだよ。」
こいつは周りと反応が違う。周りは途中から変な顔をしだす。けど、こいつはずっと楽しそうに話してくれる。だから僕もすごく楽しくて、僕の口も惹かれてく。
「あ。鮎。」
思ったより沢山いるな。
「ん?」
「いや、魚がいると思って。」
「本当だ。早くつかまえようぜ。」
「おけ。」
久しぶりに塩焼き食べたいな。新鮮じゃないとできないし。
「あ。そっち。」
「よっし。つかまえた。」
つかまえるの上手い。意外とこういう遊びも好きなのかな。ああ、こいつと釣りにも行きたいな。機会があったら誘おう。
「もうすぐお昼だよ。」
「どうする?」
「一旦、帰るか。」
「うん。そうしよう。」
「あー楽しかった。」
「ほんと、楽しかったよな。やっぱり朝行ってよかったよな。」
「本当に。日差しは柔らかいし、気温も良かった。」
「あとお前がバケツ用意してくれたおかげでたくさんとれたしよ。」
「はは。良かった。」
「それ何匹とれた?」
「10匹くらいかな。」
「大分とれたな。その魚なんて言うんだろ。どうやって食べんのがベストなんかな。」
「鮎だよ。新鮮だし、ワタをとって塩焼きしたらいいんじゃないかな。」
「それって美味しい?」
「今が旬だし、すごく美味しいよ。脂の乗りは少ないけど、加熱しても硬くならなくならないから食感は良いし、今の時期は骨も柔らかいから全部食べられるんだ。」
「そうなんだ。お前、詳しいな。」
「前はよく近所のお兄さんに連れられて、川に行ったり山に行ったりしてたんだ。そこで生き物を見つける度、名前とちょっとした特徴を教えてくれてたから分かったんだよ。たまたま知ってたってだけ。」
「そのお兄さんは物知りで色々とお前に教えてくれたんだな。お前は結構、物知りだとぼくは思うよ。」
「そう?」
「うん。まあ、また来ような。そんで次もとれたやつ、教えてくれよな。ぼく分かんないからさ。」
「また来よ。うん、分かった。」
よく知っていないとそんな素直に返事は出来ないよ。
「あ。今度は釣りにも一緒に行きたい。」
「いいね。絶対に行こう。」
君もやっぱりちゃんとあるんじゃん。
楽しみだね、夏休み。
題名「君は書けるよ」は、対象人物による心情です。第一段落の「200も埋められない」は原稿用紙(400文字)の半分(200文字)を表し、「夏休み」という単語より作文となります。途中にある「僕の口も惹かれてく」は、無意識な発言ではあるが、対象人物による誘導があるとにおわせているつもりです。最終段落より、その何か、対象人物による誘導、を確実なものとなるよう、対象人物が僕に対して多くの反応を煽ります。加えて、括弧外にある文章は対象人物のもので、「物知りであるから文章の書ける幅も大きく、やはり君にはしっかりと表情、感情、反応などがあり、言葉にすることができるから作文はちゃんと書けるよ。」と表したつもりです。
会話では“おまえ”というが、会話でない部分では“君”としていました。対象人物(実は主人公)に怖さを少し感じて持ってもらえていたら嬉しいです。




