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祖父との思い出

作者: SION

私はお盆の時期に行く祖父の家が大嫌いだった。


祖父自身は嫌いではない。

けれど祖父の吸うたばこが好かないのだ。


家から車で数時間、いくらクーラーを入れても車内に差す日差しが暑苦しい上に、

やっと着いた祖父の家は玄関を開けただけでわかるほどのタバコの匂いが染み付いている

我慢して入った居間にはトドのような姿をした祖父がタバコをふかして「よく来たな!」と笑顔で出迎えてくれるが、

私はタバコの匂いのせいでしかめっ面をしてしまう。

なにかと理由をつけて軒先きに逃げ込むと、

祖母が夏なのに温かい緑茶としっかり冷えた水羊羹を持って来てくれる。


水羊羹を食べ終わった頃、

祖母は祖父を軒先きに呼び出す。

私の隣に座った祖父に「出迎える時はタバコは吸わないと約束なさいましたよね?」と丁寧だが、

静かに祖母は怒り、

そのまま私に向き直り、

「いくら嫌でも挨拶はしっかりするものですよ」

と叱る。


言いたいことを言って満足したのか、

祖母はそのままゆっくりと居間へ向かう。

軒先きには私と祖父だけが残る。


気まずい空気が流れ、

逃げるように庭に目を移す。

すると去年はなかったはずの大きなひまわりが、

太陽に向かって花を咲かせているのに気づき、

祖父に呟くように「ひまわりが咲いてるね」と聞いてみた。

すると祖父は、

よく気づいたなと言うように、

「あれはな、お前が好きだって去年話してたから私が植えたんだよ」と誇らしげに話した。


ほんの少し話しただけの会話を覚えていてくれてたこと、

しかもそれを聞いて軒先きからよく見えるところに植えて育ててくれたことが凄く嬉しかった。


ありがとう、ととっさに言い損ねて、

そうなんだ、と返してしまったのは失敗したが、

このあとすぐ、父が運転ミスで車でひまわりの花にぶつかるスレスレで敷地に入って来たことに腹を立てて、突っ込んできた

父に向かって「せっかくじーちゃんが植えてくれたひまわりなのに!」と怒鳴り散らしたのは言うまでもないが、

おかげで祖父に言えなかった「ありがとう」が言えたから良いことにした。


夕食後はまた祖母の水羊羹を食べた。

今度は普通のやつじゃなく、

抹茶味のもの。

これもしっかり冷えていて美味しかった。

その間祖父は父とお酒を飲んでいたが、

途中、またタバコに火をつけようとして、

ふっと手を止めて吸うのをやめようとしていたのをみて、

とっさに「吸わないの?」と聞いてしまった。


祖父は「お前が嫌がるだろ?」と答えた。

申し訳なさそうな言い方をする祖父に私はぶっきらぼうに今日だけなら吸っててもいいと伝えた。


けれど祖父はその日タバコは吸わず、

私が帰るまでの、3日間吸わずに過ごしていた。


その後、

祖母が言うにはそのままタバコを吸うのをやめたのだが、

祖父は翌年には肺がんになり、入院することとなった。


ある日、

病院にひとりで祖父のお見舞いに行ったとき、

私は祖父に「タバコが吸いたい」と頼まれた。

車椅子で祖父と外へ散歩に出かけ、

その途中で買ったタバコを祖父に渡すと、

「一本だけ許せな」と吸い出した。

あれだけ嫌っていたタバコの煙だったが、

懐かしく感じた。


その日の夜、

病院から電話があり、

祖父は寝てる間に亡くなったそうだ。


それから、

葬儀などが慌ただしく続き、ひと段落ついた頃、

病院で祖父が使っていた荷物を片していたときにタバコをみつけた。

箱を開けると一本だけ無くなっていたのをみて、

あの日、祖父が吸っていたものだと思い出した。


なんとなく、

そのタバコを手に軒先きに向かい、

タバコに火をつけてみた。

また、ひまわりが咲こうとしていた。


そのままタバコを吸うことはなかったが、

私の隣には祖父がいるような気がした。

閲覧ありがとうございました。


楽しんで頂けたら幸いです。

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