第5話
翌日、アメリカ本国から到着した物資とともに、メキシコ北部へと向かった。
フエルサが同行したが、これは大臣への報告とともに、国法に触れないようにするというお目付役の任務を担っていることは、誰が見ても明らかだった。
「ここが、サンタ・アガタ州です。その州都はアガタシティ、人口40万人弱の街で、米国との交易ルートとして、以前は栄えておりました。ですが現在は、麻薬カルテルの貿易にもっぱら使われており、メキシコ政府もなかなか手が出せない地域の一つとなっております。この州の知事や行政機関はほぼその全てがバーラ・カルテルが手中に収めており、まさに傍若無人の振る舞いをしております。州の経済の実に6割が直接麻薬関連で、3割が麻薬周辺産業に従事しているとされます。残りについても、麻薬カルテルの影響下にあると推定され、ケシの州と呼ばれることもあります」
フエルサはチャーター機中で、これから向かう先の説明をしてくれる。
聞いているのは中家と、アメリカから派遣されてきたチームのリーダーであるマキシム中尉くらいだ。
あとは好きなように寝てたり、カードで遊んでいたりする。
その情報はいらないと考えているのか、それとも聞きながらしているのか。
それはフエルサにはわからなかった。
飛行機が州都近郊にある空港に着陸すると、すでに準備を整えていた州兵が出迎えてくれる。
「少佐、お待ちしておりました」
州兵に混じって違う制服の人が立っている。
今回連れていくのは、この違う制服の人の方、テック・カバナー総合軍事会社の社員だ。
米海兵隊の准士官や士官だった人が今は中心で、兵についてはさらに近くの町で先遣させていると、マキシムは中家に伝えていた。
「ありがとう」
少佐の階級にあるのは中家だけで、あとは全員が尉官となっていた。
そのため、今次の作戦では、中家が隊長となることになっている。
「臨時指揮所を設ける予定です。どうしますか」
「任せる。ただ、現地の航空写真が欲しい。それにカバナーさんによろしく伝えておいてくれ」
「了解しました」
サッと敬礼し、駆け足で彼はどこかへ走った。
「ではこのまま最寄りの空港へのチャーター機へ乗り換えていただきます。現地は農場地域になっているため、農薬散布用の小さな空港になります。乗ってきた中型機では駐機スペースがないため、小型機2期に分乗していただく予定です」
フエルサが降りつつ、中家に説明する。
「聞いてないぞ。ここでは乗務員の休憩と給油をして、機体が変わらないという話ではなかったか」
タラップ途中で中家が立ち止まり、前を歩くフエルサへ叫ぶ。
「その予定でしたが、中型機がエンジン周りのトラブルによって緊急着陸せざるを得ないとのことです。そのため、予定していた唯一の駐機スペースを占有されることとなり、ここで乗り換える手間が発生することとなりました」
「……わかった」
中家はその場は落ち着いた。
ただ、表情としては、文句を言いたげである。
「では、こちらへおいでください。飛行場の貴賓室を待合室としてお使いいただけるようにしております」
フエルサは、それを無視して待合室へと案内した。