第3話
手野産業の中南米支店に、5人はいた。
手野産業の社員ということで入国しているため、ここが一番怪しまれずに会議ができると考えたのだ。
また、必要な通信もここからなら量子暗号で行うことができる。
最高レベルの暗号強度を誇る量子暗号は、一部の人しか立ち入ることができない手野産業中南米支店の中枢部にあった。
ここからならば、たとえ米軍であろうと処理するまでに数百年はかかるだろう暗号通信が可能となる。
中家らは、その全員が立入るために必要な権限を持ち合わせていた。
部屋前にはボディチェックが、さらに部屋の中には必要以外のものを持ち込むことができなくなっていた。
ここでは手野グループもしくは関連グループや財閥の職員以外入ることができない。
「テック・カバナー財閥を」
通信員にいうと、少しかかるという。
その間、外にいる大臣と話をすることにした。
「待ちくたびれたぞ」
大臣を待たせるための部屋として使っている部屋は、建物の中で一番豪華そうな応接室だった。
そこでも大臣は不満そうな顔をしている。
しかし、そこで待たせるしか、非礼に当たらない方法はなかった。
「申し訳ございません。少々お時間をいただきまして」
「まったくだ」
頭を下げ、流ちょうなスペイン語を話す中家に、大臣がそのままスラングまみれのスペイン語を話していく。
が、すぐに戻し、何事もなかったかのように話し始めた。
「……それで、これが言われて調べさせたものだ」
大臣がハードカバーのファイルを中家に渡す。
一ページ目から文字がびっしりだ。
その後、家の内部図や判明している限りのバーラカルテルの話が載っている。
「それぐらしかない、というよりもそれしかないのだよ。先日も話した通り、彼について詳しく知っている者はほぼいない。さらにいえば、複数の屈強なマフィア、用心棒。そのすべてがあの家の中だけで暮らすことができるようなシステムが組まれている。一歩も外に出ることはない。好物の類も、家の指揮内で作ることができるそうだ」
「となれば、荷物お届け作戦は使えませんね」
日本語で東部が言った。
「一点集中爆破、といってもすぐに制圧されそうだな。上空からの空挺作戦、かつ深夜だな。それ用の設備がいる」
中家がいうと、テック・カバナー当主との話し合いができる状況になったという。
「失礼します、閣下」
大臣へと中家が再び頭を下げ、そして4人を引き連れて通信室へと向かった。