第31話
「そうだな、その通りだ」
武装社長は、懐からジップロックに入れたちくわを取り出して食べる。
ちくわはどうやら醤油で漬けてあったようで、奥まで味がしみ込んでいることだろう。
黒々としたそれは、何かの武器のように見えた。
「なら、この俺を殺すということはあるまい」
フエルサがそう自信満々に言い放つ。
「殺さない、と誰が決めた?」
武装社長は、しかし、そんなフエルサに、同じく懐から銃を取り出して、その口先を向ける。
片手はちくわ、片手は銃というなんとも言えない姿ではあるが、誰一人としてそれを指摘することはない。
「秘密が誰も分からなくなるぞ」
それが切り札だと確信しているフエルサは、何度もそのことを言う。
大臣も、本気で武装社長が殺すのだろうと、止めようとして武装社長へと話しかける。
「そうですよ、武装社長。私からも彼を殺さないように要請します」
「要請は受理した。が、却下する」
「なぜっ」
フエルサへと向けられている銃口は、先ほどからピクリとも動かず。
それが並大抵のことではないことは、特にちくわを食べながらではなおさらなことであることは、誰もが知っている。
いうことは逆らえない、が、それでも言わなければならないのが大臣のつらいところだ。




