第30話
車列は、国防省へと到着し、順次降りていく。
まずはフエルサ、それから武装社長が降りた。
それから中家やマキシムらが車から、自分で扉を開けて降りてくる。
「クレジェンテ国防大臣閣下がお待ちです」
あらかじめ連絡をしていたこともあり、無事に大臣室へと通される。
出迎えてくれたのは秘書のようだ。
そこで秘書に武装社長が、エレベータ待ちのときに尋ねる。
「……大臣はお怒りか」
尋ねているのは、当然スペイン語だ。
「ええ、とてもお怒りです」
「……仕方ないな、甘受せねばな」
エレベータ前は広く、しかし誰もいない。
人払いでもされているかのように、もしくは祝日ではあるかの如く見事に誰もいない状態だ。
「では、私はこれで失礼します」
フエルサが一礼して、武装社長へと一言いうと、どこかへと行こうとする。
「まあ、待ちな」
誰もいなかった部屋の中で、急に銃を持った人物が大量に出てくる。
その右胸にはテック・カバナー総合軍事会社の社章が輝いて見えた。
「きっと話を聞きたいだろうからな、あいつも」
「あいつ?」
ちょうど、ポーンと音が鳴り、エレベータの中からSPに守られたクレジェンテが降りてきた。
「それは私のことだろうね、武装社長閣下」
「そうさ、お前をおいてこの場で最もふさわしい人はいないだろうさ」
「大臣、これは。いったい?」
「アルトゥーロ・フエルサ・ドミニク。現在の官職の一切を解任し、逮捕する。フランシスコ・バーラとのつながりは、すでに判明している。双子の弟だったとはな。よく隠してきた」
大臣が命令すると、兵士らがじりじりとフエルサのところへ近寄ってくる。
「……何の話ですか」
「今言ったとおりだが。聞こえなかったか」
武装社長が言うなり一枚の写真を見せる。
「こいつは、お前だな」
無邪気に笑っている2人。
兄弟だろうか、とてもよく似た顔をしている。
それも、今目の前に立っている人物によく似てもいるような気がする。
「……すでに発覚していたとは、よくご存じでしたね」
「いやぁ、骨が折れたぞ。ここまで連れてくるのにはな」
武装社長が、兵士の後ろから声をかける。
いつの間には大臣が武装社長の横に立っていた。
「バーラの部下らは司法取引が成立した。このままとあるところへと手野グループの手によって連れていかれ、そこで労働に従事してもらうこととなっている。しかし、フエルサ、お前はその名簿には載っていない。ここでつかまって司法の裁きを受けてもらわなければならない」
しかしながら、フエルサは急に笑い出しす。
「どうした」
「いやはや、貴方方がそこまで見抜いているとはいえ、いまだに私を捕まえないとなれば。考えられるのはただ一つ。バーラをまだ見つけていないのですね」
それはまさに図星だった。




