第24話
地上へと連れてきた彼らを、マキシムはどうするべきかを考えた。
「まずは武装社長と話し合わせます。武装社長と話させるということが、武装放棄の約束でしたので」
「わかった」
今は一応は、マキシムが副隊長で、東部はその部下という関係にある。
階級は逆ではあるが、中家がそう決めたからには、それに従うことになった。
東部がマキシムに伝えると、臨時指揮所のテントにある通信設備で、まずは標準強度の電波を出し、それでつながるかどうかを試みた。
「お、つながるか」
暗号用の手野グループ所有の衛星経由であることから画質はかなり悪い。
さらに音声も途切れることもあるが、意味はだいたい通じるだろう。
衛星テレビでまず応対したのは声のみで、手野武装警備の一般通信員だった。
「手野武装警備です。いかがしましたか」
「武装社長と話がしたい」
東部が日本語で話す。
「では、部隊番号をお願いいたします」
「手野武装警備陸上部隊幹部補武装警備員、所属番号は甲358(こうみいや)」
「……承りました。武装社長に接続します」
ブンと何かが投げられるような音がすると同時に、テレビ画面が映る。
武装社長はいつもの通り、アロハシャツを着て、ちくわをわさび醤油で食べているところだった。
「どうした」
「少しお話したいという方がいらっしゃるので、おつなぎします。よろしいでしょうか」
「……ああ、いいだろう」
そういってカメラの前に捕虜にしたてのバーラ側の人物を座らせる。
「……誰だ」
英語で呼びかける。
「そっちこそだれだ」
スペイン語訛りがある英語で話しかけると、すぐに武装社長はスペイン語を話しだした。
「手野武装警備社長だ。武装社長と呼ばれている」
「あんたが武装社長か」
「ほう、知っているのか」
噂は誰もが知っているようだ。
アメリカ海兵隊一個連隊をもってしても止めることができなかった。
いかなる人物に対しても敬意を払い、そして恐れを抱かせる。
この世界でかなわないのは妻のみ、その妻ですら武装社長には逆らわない。
手野武装警備が発足以来社長職にあり、不老不死。
その不老不死になったのも、訪れた死神を組み伏せて、追い出したから。
まことしやかに流れる噂であるが、どれが本当でどれが嘘かは武装社長以外にはごく少数しか知らない。
ちなみに、ちくわが大好きだということも、誰もが知っている話だ。
詫びを入れるなら、万の謝罪よりも1本のちくわというのが武装社長への謝罪と言われるほどだ。
「いや、意外と年を食っていないなと」
「ほざくな若造」
急に声のトーンを下げ、脅すような口調へと変わる。
「貴様は誰だ」
「フランシスコ・バーラの筆頭部下、テレモトだ」
「テレモト、お前は何がしたい。うちの会社に入って」
「俺は麻薬を育てて生計を立てている。武装社長を通して手野グループにあっせんをしてくれるというから信じてこうして話している。なあ、なにか仕事がねぇのか。このままだったら俺は政府につかまっちまう」
「捕まれよ。国法を犯してまで密出国させる義理はねぇ」
じゃあな、と言って回線を切ろうとする。
「待て待て、お前の部下がバーラを探しているんだったな。良い情報がある」
「ほう」
切ろうとしていた腕が止まる。
再び、武装社長は椅子に座った。




