第23話
マキシムは、雑音が多い音声を通して、地下の様子を少しでも詳しく知ろうとしていた。
「んー、よく聞こえんな」
「副隊長、隊長らは地下へと侵入を成功したとのことです」
部下の一人が、高精度のものを使っているおかげで、報告を聞くことができた。
「そうか、なら順調そうだな」
マキシムは少し安心したように言う。
今までずっと緊張し続けていたこともあるが、そろそろ疲労も頂点を極めようとしていた。
しかし、好事魔多しというように、いいことがあれば、当然悪いことも起こるものだ。
「マキシム副隊長、敵兵を発見」
建物の中にいた部下から、そんな報告が入ると同時に、発砲音が断続的に聞こえた。
互いに撃ち合っているようだ。
「どこだ」
「建物本館地下2階です。まるでアリのように増えていってます」
報告しながら撃ちまくる。
音が激しくて、ところどころ聞き取れないところがあったが、大意はマキシムに通じた。
「すぐに増兵を」
建物は、一番大きな本館、各階が廊下で繋がれている第二本館、そして孤立している離れ、プールの管理室、防衛線となる壁の監視塔と分かれている。
これらの名前は、中家が作戦のためにつけた便宜上の名前であるため、彼らは本当の名前を知らない。
もっとも知っても破棄するだけであるが。
地下は緊急脱出路として機能していた最後の出入り口へとつながっていた。
それこそが、さきほどから銃撃戦となっている本館地下2階の殺風景な物置部屋だ。
「悪趣味なほど、何かしたっていう感じだな」
その隣は、おそらくはスパイや敵対組織の人員を拷問するための部屋、扉続きで地下牢が備え付けられている。
ここぞとばかりに銃を撃ちすぎではないかと思わんばかりに撃ち続ける。
今まで、特に激しい戦闘がなかったから、鬱憤晴らしにも見えなくはない。
物置に置かれていたのは、ほとんどがガラクタばかりで、壊されても痛くも痒くもないものばかりだ。
「撃ち方止め」
現場に来たのは、地上班として残っていた東部だった。
ここでは、東部が一番高い階級に位置しているため、東部が指揮を執ることとなった。
「バーラの軍勢に聞こう」
スペイン語で流暢に話しかける。
「君たちはすでに包囲されている。死にたくないだろ、なら投降しろ。政府に働きかけて、死刑だけは回避してやる」
「うるせぇ、どうせ捕まえても約束を反故にするんだろ。お前ら政府はいつもそうだ。何か約束をしてくれるたび、すぐにそれを撤回しやがる。後悔するのはいつもこっち側だ。だからこそ、ここでこうやって暮らしていくのが一番なんだよ」
「その声は、バーラか」
「いや、違うね」
「ならひとつだけ伝えておけ。我々は手野武装警備、テック・カバナー総合軍事会社の連合軍。我々は、政府からの指示を受けているが、政府へ君らを連れて行けという命令は受けていない。どうだ、その知識を手野グループで活かすつもりはないか」
「お前はバカだな、それも超特大の大バカだ」
「ああ、知ってる」
こんな提案をしたことも聞いたこともない。
だが、最近は特定の薬物に限りではあるが、嗜好品として認可されているところもある。
「どうだ、大手を振って歩ける最後のチャンスだ。君らをどうしても捕まえねばならない。だが、それは今次の麻薬戦争においての捕虜として、我々は扱う。もしよかったら地上に出て、我々の社長と話し合ってほしい。しかし、バーラはダメだ。この被害の責任を取ってもらわなければならない」
「……少し話し合わせてくれ。30分後、こちらから話しかける」
「わかった」
東部は、それを聞いて自身の腕時計を確認する。
今は13時42分だった。




