3,真実と“鍵”
「・・・夏美・・・?」
夏美が助けてくれた?
何で夏美が風を操ってるの?
薔薇使いを知ってる?
「大丈夫?杏、いや薔薇使いさん」
「何で?」
「世界が繋がったからよ」
なんの世界?
世界が繋がれば夏美は風が使えるの?
だめだ、疑問ばかり浮かぶ。
「このことを話さないといけないわね。移動しましょうか」
「な、夏美」
「自己紹介がまだだったわ。私は風使いの夏美」
「風使い?」
「すべて話すから、カフェにでも行きましょう」
「うん」
夏美の意見で場所をカフェに移動することにした。
雰囲気が変わったな、夏美。
「街が変わってる?」
「ここは日本ではなくなったの。世界が繋がったから」
「・・・・・・」
さっきの道は変わらなかったのに、何で街に出ると変わってるの?
まるで、トリップしたみたい。
それに皆、服装が独特だ。
夏美はブカブカなパーカーにズボンだし、周りは能力に合わせて着てるみたい。
「着いたわ。お金の心配はいらないから」
「え?」
「通貨も変わってるから」
そう言って中に入った夏美。
私もそれに続いて中に入る。
「普通だ」
中は普通のカフェと同じ。
優しい木の匂いがする静かなカフェで、静かにBGMが流れている。
「ここに座りましょう、杏」
「あ、うん」
私たちが座ったのは一番奥。
声が周りに聞こえにくて安心できる。
「そうね、どこから話せばいいかしら・・・?」
「すべて、で」
「まず、ここは日本ではないわ。
まぁ、さっきの街の雰囲気で分かるわね。
杏の扱う薔薇は最高級。
薔薇はもともと女王様が持っていたの。
それを受け継いだ杏はお姫様よ。
お姫様はいろんな奴から命と薔薇が狙われる。
だから私がいたの」
「まって、よく分かんない。なんで私が姫なの?」
お母さんは一般人。
裕福でも貧乏でもなくて幸せな家庭。
それなのに、姫?
「女王様の名前は早苗様。杏の母親も早苗じゃないかしら?」
「早苗!? でも、お母さんはそんなこと一言も!!」
「言ったらあなたは狙われる。それを恐れて早苗様は黙っていたの」
「お母さんは過労死したんだよ? それはなんだったの!?」
「あなたを守るために力を使いすぎたのね。だから薔薇を渡した」
「そんな理由!?」
それに、恐れるのを怖がったからって何でそれに夏美が関係するの?
「夏美はお母さんのなんなの」
「私のお母さんが早苗様の一番の部下なの。それで杏は私に任された」
「私の本当の名前は杏じゃないんだね」
さっきから夏美はお母さんのことを早苗“様”って呼ぶ。
私には普通ってことは本名じゃない。
「・・・杏は本名じゃないわ」
「やっぱり」
私は生まれたときから杏としか呼ばれたことがない。
小さい時から私はずっと“ここ”にいたのに。
「杏の本名は、朱華。朱い華からのイメージよ」
「しゅ、か・・・。朱い華で朱華」
「杏に朱華の名前の面影がないのはこっちで狙われないようにするため」
「お母さんは?」
「早苗様はもし、バレたら囮になって杏を逃がすつもりだったらしい」
「囮?」
「早苗様は杏を隠すためにこの世界にきたの」
「・・・そう」
何で夏美は私のことを朱華って呼んでくれないの?
言ったらマズいことあるの?
「杏に様をつけて呼んじゃいけないの。それが“鍵”だから」
「鍵?」
私の気持ちが分かったみたいに答えてくれるんだね、夏美。
お母さんが夏美を私につけた理由が分かった気がする。
「別に呼んで欲しいなら呼んでもいいのだけれど、呼んだら早苗様のように過労死してしまうかもしれないの」
「どういうこと?」
「体に力が入るのよ。耐えられなくて死んでしまうわ」
「私ってそんなに力があるの?」
「力が100%だとしたら、杏は3分の2くらいで残りは早苗様が与えた分よ」
「・・・そんなに・・・」
お母さんはなんで私に力を与えたの?
そんなに私に強くなってほしかった?
「鍵を解放してほしい?」
「・・・・・・・」
お母さんがどんな意味で私に偽名と力を与えたかは分からないけど、お母さんの意志なら・・・。
私は『 』を選ぶ。