2,謎の三人衆
30分ほどで、店に着いた。
近くもなく、遠くでもないこの距離が好き。
不思議。
「なに、食べる?」
「杏、食べに来るってことは、まさか・・・」
「うん・・・、そのまさか・・・」
私のお母さんは早くに他界。
原因は過労死だった。
お母さんはそんなに働いていないのに、何故か過労死。
医師も分からないらしい。
その後、お父さんは新しいお母さん、真由子さんを連れてきた。
けど、真由子さんと私は合わなくて。
真由子さんのいろんな怒りは私に向けられた。
つまり、虐待。
お父さんは助けてくれない。
だから真由子さんが来る日は決まって夏美とご飯を食べる。
「夏美といると安心するよ」
「ありがとね、杏」
そのあとも小さな事で笑い合ったりして一番楽しい時間を過ごした。
時間を忘れるくらいに。
「あ、そろそろ帰らないと」
「・・・うん。真由子さんに会いたくないなって思ってさ」
「気持ちは痛いほど分かるけど、お父さんが待ってるんでしょ?」
「あの人が待ってる訳ない。あの人は真由子さんがいればいいんだから・・・」
「そう、なの」
「でも帰るよ。ありがとね、夏美」
「どういたしまして」
今思えば、この判断は間違っていたんだ。
この時に帰らなければ”あいつら”に会わなくてすんだのに・・・。
「じゃあね。また明日」
「うん!明日ね」
私たちは駅の前で別れた。
私は歩きなんだけど、夏美は電車だからここでお別れ。
「コンビニに寄ってこうかな」
私は時間をつぶすために、コンビニに寄って立ち読みでもすることにした。
あんまりマンガは好きじゃないけど、雑誌はよく読むから時間をつぶしやすい。
「お嬢さん、こんな時間に出歩いたら駄目ですよ」
「え?」
なに言ってるんだ、この人は?
今はまだ9時。それにここはコンビニだし安全だと思うんだけど。
「夜は危ない。早く帰りなさい」
「・・・・・・・・」
なんだろ、嫌な予感がする。
「じ、じゃあ、失礼します・・・」
私はこの変な人から逃げるようにその場を去った、はず。
「何で着いて来るの・・・?」
こいつはストーカーか?
私をつけたっていいことないのに。
「お嬢さん、君は薔薇使いの娘さんだろ?」
「薔薇使い?」
「なんだよ、自覚ないのかよ」
後ろから声がした。
振り向くと、前にいる人と同じロングコートにフードを被ってる人がいた。
二人とも笑ってる・・・。
「わ、私は薔薇使いなんかじゃないです!きっと、人違いですよ!」
「人違いなんかじゃないよ。その薔薇のネックレスが証拠さ」
また一人増えた。
いったい、何人いるっていうの?
「俺たちは三人衆。いまんとこ一番強いぜ」
「!!」
その瞬間、何かが横を横切った。
紙?いやそれよりも鋭利なもの、・・・ナイフ?
「俺たちはナイフや包丁、切れる物ならなんでも使えるぜ」
「君には悪いんだけど、薔薇のネックレスは俺たちも必要でね。渡してくれないかな?」
「お嬢さん、怪我したくないでしょ?」
「・・・ネックレスは駄目です。お母さんの形見だもん!」
唯一、お母さんの所持してたものがネックレス。
それに私に薔薇が使えるからって渡してくれた。
・・・使えるから?
「薔薇が使える・・・?」
この人たちがナイフを使うなら私は薔薇が使えるってこと?
でも、どうやって使うの?
「お嬢さんが使える代物じゃないよ。おとなしく渡したほうが身の為だよ」
「いやなら力ずくでも貰うぜ」
ここは逃げるべき?
でもこの人たちは着いて来る気がする・・。
「渡さないんだな?」
「あなたたちには一生渡さないから!」
そう言って私は逃げ出した、のに。
「逃がさない」
一番近くにいた、男が(と言っても皆同じ格好だが)私の腕を掴んでいた。
私が逃げようと腕を振るたびに力は強くなっていく。
「放して!!」
「渡さないなら、このまま連れてく」
「どこにっ、!!」
「騒ぐな。殺されたいのか?」
私の首もとにあるナイフ。
少しでも傾くと刺さりそうな距離。
「浮いて、る?」
「これが俺たちの能力。お前も本当は薔薇が使えるんだがな」
腕を力強く握ってる人が答えた。
薔薇が使える?お母さんもそんなこと言ってたような・・・。
「まぁいい。着いてこいよ」
「っ!!」
下手に騒げばナイフが刺さるかもしれない。
くっそ、薔薇さえ使えれば!!
「凉、やめた方がいい。あいつが来る」
「それマジかよ!? 恭!」
私の腕を掴んでるのは凉って言うらしい。後を着けてきたのが恭。
「とりあえず逃げるぞ!」
「あ、待て!渉!」
一番最後の人が渉。
渉が急に逃げ出すから後の二人、凉と恭も後を追う。
私以外誰もいなくなった道。
恐怖から解放され急に力が抜けた私はその場にしゃがみこんだ。
「なんだったの?・・・あいつって・・・?」
「大丈夫だった?薔薇使いさん」
頭上から聞き慣れた声。
顔を上げるとそこにいたのは片手に風を纏った“夏美”がいた。