飲み会
「戦っちゃ駄目なんだよ。
孫子の兵法を知ってるか?
読んでないのか。駄目だなぁ。
今の子は、ホント勉強しないよね。」
先輩は物凄い上から目線で指導してくれている。
いい感じでお酔いになられている。
もう、終電は行ってしまった。
楽しくもない、
先輩の能書きを延々と聞かされていた。
考えれば考えるほど苦痛だ。
さらに、僕は酒が飲めない。
そもそも、話の主題がわからない。
孫子の兵法も知ってるし、ブルーオーシャン戦略が重要だということも知っているつもりだ。
彼は会社はニッチを狙うべきだ、なのに無理な競争をしすぎだと言いたいのだろう。
彼はおそらく僕が何も知らないと思っている。
そうでなければ、当たり前のことを言い過ぎだからだ。
本来なら、ニッチを狙うためのサーベイをどのようにしていくかとか、足りないリソースをどうやって質を下げずに確保するのか、とか、クオリティーを下げずにどうやってスピーディに開発をしていくか、など話すべきなんだろう。
解決しようとするテーマもなく、こちらに意見も求めずで、管を巻くだけなら、僕からの信任は得られない。
ただ、僕が間違ったのは、ここに来てしまった事だ。
彼は僕の終電を気にせず、時間を忘れて、後輩のために指導しているに違いない。ある意味、美味しいお酒を飲み、後輩を育て、さらには感謝、尊敬までされるという目的を達成しているのだ。彼の勝利だ。
(妄想でも、そう感じていればそれが事実!)
僕の戦略が間違っていたのだ。人生には無駄な時間を過ごしている余裕など無いのだ!負けた。
。。。
。。。
10年後。
僕は独立、年商1億の会社を経営していて、
忙しい毎日を過ごしていた。
ある飲み屋の前を通った時、彼のことを思い出した。
嫌だったはずの記憶が、何やら、懐かしい香りとなって漂った。ノスタルジックとはこういうことなのだろうか。いつまでもわからなかった。