スターライン戦線4
ヴェル・トリリード・デ・ヴァン・マリア・ザ・レメディオス少佐。本名が長いため、ファーストネームで呼ばざるを得ない。
少佐格であり、陰ながら帝国最強兵士なのではと言われているほどの実力者。ただし、戦闘記録は軍人として帝国兵に入隊してから10年間で、出兵回数12回中わずか5回。あまりにもおかしな記録であるが事実であり、たった5回の戦闘だけで少佐にまで上り詰めたという、帝国史上最も異常な記録である。また、そのあまりにも少ない戦闘記録ゆえ、彼女の実力を知るものはほんのわずかである。
帝国の昇進事情を話すと、まず、普通の人間では下士官にすらなれないというのが現状である。亜人や超能力者の類が存在する限り避けては通れない問題だ。そして、常人ならざる力を持っていながら、少佐以上の階級に着けるのもごくごくわずかな人間のみである。少尉からが長い。また、この世界では一騎当千できる力も存在するわけで、10年以上戦場で生き残るのは難しい。
ちなみに、ヴェル少佐とバルド中佐は同期であり、同じ十年間でも数多の戦場を駆け抜け中佐までのぼった彼を評価する人間は、正直ヴェル派の人間より多い。
「えー、私が諸君らの上官ヴェルだ。フルネームは長いからヴェル少佐で構わない。先ほどは日焼け止めクリームを塗っていたため欠席していた。今回の戦線は大変厳しいものになると予想されるが、まあ、頑張ってくれ。以上」
これほど締まらない戦前挨拶を、アイクは知らなかった。さっきほどバルドから班分けを説明され、2つに分かれたところで幼女が現れた。あくびをしながら。
ヴェルは、バルドから2班の名簿を受け取るとだるそうに前に立ち、先ほどの挨拶を述べた。
「これが、ヴェル少佐かよ」と誰かの声が漏れるが当の本人は聞いていない。正直、帝国最強かもと謳われるようなオーラや気品などは一切感じられない。身長は150センチメートルに届くか届かないかぐらい。真紅の髪は長く、前髪は右目を隠している。口にはなぜか無数の牙が生えていて、恐らく亜人であるが、しかしどの種であるか特定できない。ちなみにかなりたれ目である。
「ええっと、”以上”って解散ということでしょうか?」
誰かがおずおずと尋ねる。
「そうだが?各人明日からの戦いに向け、十分に体を休めておけ」
まあ、確かに部下側としてはありがたい配慮だが、流石に締まらない。なんか、こう、ビシッと決まるような言葉の一つでもないものか。
「?」
そうはいっても動きずらい。”こいつらはなぜ固まっているのだろう”といった表情で立ち尽くすヴェルを前に、「おい、お前から動けよ」「何でだよ。お前から先にテントに戻れよ」とだれが動くかの小競り合いが行われていた。もちろんヴェルに見えないように。
はあ、仕方がない。
「あの、少佐?」
「ん?お前は・・・いや、いい。なんだ?」
一瞬何か言いかけたようだが、発言の許可が得られた。ここはひとつ、身の引き締まる言葉の一つでもお願いしよう。
*「我々の中には、この第2特別小隊に入隊してから初めて戦地に赴くものも存在します。ですので、恐縮ですが戦場での心得や、身の引き締まるようなお言葉など頂けると・・・・・・幸いなのですが?」
しまった。少し生意気だったかもしれない。殺されるかも。
アイクが心の中で冷や汗をかく中、他の隊員からは「よくやった」や「馬鹿め、早まったな」といった声が漏れる。
「ふむ・・・心得ねぇ」
しかし、アイクの言動にはそれほど気にする様子もなく、ヴェルは悩み始める。思えば、ヴェルは飛び級続きな挙句、少佐になってまだ日も短い。そもそも人前に立つのは慣れていないのだろう。
「そうだな・・・・私が、初めて戦場に立ったのは17の時だった」
すると、ヴェルが身の上話を始めだしたので、隊員たちは一斉に黙る。帝国での兵役は20歳からが義務であるため、3年も早い出兵だ。
「私を育てた人は軍人だったのからな。まあ、そのうち私も戦場に赴くのだろうと思っていたが、思いのほか早かった。それからは12回ほど戦場に向かわせられたが、正直戦いたくなかったから7回はさぼった」
破天荒。隊員たちは彼女に当てはめる言葉はこれしかないと思った。7回さぼったって・・・いろいろ言いたいのをこらえ隊員たちは話を聞く。
「こんな感じで、人に聞かせるには向かない身の上話だが、5回も戦えばその悲惨さも分かる。あれを好きだのと抜かす奴は殴ってやりたいほど、私は戦場が嫌いだ」
突然雰囲気が変わったのをこの場にいる全員が感じ取った。その言動から、彼女が戦場に対しかなりの憎悪を抱いていると思える。そしてどこ悲しげでありながらも、何故が楽しそうなものを見る目をしているのをアイクだけが感じ取った。
「しかし、あいにく戦わねばならないときが存在する。それは帝国のため、家族のためか。戦う理由は人それぞれだ!であれば、その戦いに意味を求めるのであれば、諸君らは勝利と敗北、どちらを手にしたい?諸君らの奮迅に期待する!以上で解散だ!」
「おおお!」と戦士たちの咆哮か漏れる。
*”幸いです”だけでは目上の方に使うのに不十分。”幸いに存じます”のように、”存じます”や”思います”のような言葉が必要。ただ、そもそも上官に対し”身に引き締まるようなお言葉お願いします”なんて、言うこと自体がおかしい。”恐縮ですが戦場での心得などお聞かせいただけると幸いに存じます”が使用可。もしくは、「上官のお心遣い、大変感謝いたします!」と言って立ち去ってしまう方が良い
ただ、インターネットで調べた限りの見解なので、もっと丁寧な言葉、正しい言葉遣いなど感想・コメントで教えて頂ければ幸いに存じます。