スターライン戦線3
「おっ、アイクじゃねえか。休暇中だってのにご苦労なこった」
「うるせえよ、タカ。お前も今から準備か?」
後ろから調子のいい声が聞こえたので振り返ってみると、案の定同僚のタカト・タカハシ少尉だった。極東から亡命してきた一族の末裔とか何とかで、この辺りでは珍しい名前をしている。”タカ”と頭が続いていることからそう呼ばれている。
「いいや。俺はもう済ませてある。というか、たぶんうちの隊員で荷物一つまとめてねえのはお前だけだな。」
「は?ほんとかよ」
「ほんとも何も、お前は夕方過ぎまでスパイ騒動で事情聴取されてたが、他はみんな5時ごろには聞いてた話だ。ま、明日の早朝には出発ってんだから、早いとこ終わらせちまいな」
「あ、ああ」
どうやら自分だけがスターライン行きをぎりぎりまで伝えられていなかったらしい。正直辛い。今の時刻は7時半。何とか飯と準備を済ませて最速で寝たいものだ。それよりも-----
「そうだ、お前は聞いたか?」
「何をだ?」
「オーガ隊の話」
オーガ隊とは、フラン共和国に存在する大隊の通称だ。隊員200名すべてが鬼種で構成されているとんでも集団だ。オーガは、現時点で世界に存在する亜人種の中で最強種族といわれている。現時点でというのは、約5・60年さかのぼれば、もっと怖い種族がいたのだが今では絶滅してしまっている。ちなみに2位は狼男種だ。(ただし、ウルフはハーフが多いせいでその希少性、戦力性ともに目覚ましくない。)とにかく、フラン共和国には現最強種族が200人集まった集団が存在しているのだ。
「一応聞いているが?」
「おかしいと思わないか?」
「なにがだ?」
「あのフラン共和国だぞ?あれでも表上は不侵略を訴えている。帝国相手に短期決戦を挑む気か?」
ここが一番アイクの突っかかるところだった。フラン共和国は全世界に対して不侵略を宣言している。その代りに自衛として、侵略される時は戦力で抵抗、賠償として1部領土の明け渡しという何とも矛盾した訴えを主張している。しかし、それでもいままでの抵抗にも節度があった。国際条例に乗っ取り正々堂々と侵略者の出鼻をくじいてきたのだ。だから、このようなまるで焦っているかのような・・・・
「ん~。まあ、確かに早く終わらせたいって感じだな。でも、もしかしたら帝国を撃退するだけでなく、そのまま攻め落とそうとか考えてるのかもな?なんて・・・・」
「!?せめっ」
「憶測だ、お・く・そ・く!本気にすんなって」
憶測か・・・とはいえ、焦るとは逆に、むしろ自信満々に帝国をつぶそうとしている。そのための主戦力としてオーガ隊を・・・・あり得るのか?
「あ、そうそう。ここの食堂は8時までだとよ」
「んな!?そうれを早く言え!」
後ろから「走ると怒られるぞ~」と止める気のない声が聞こえたが無視して走る。
アイクが食堂に着いた時には、閉鎖まであと5分だった。
スターライン戦線に一番近い村、コルド村。もちろん紛争中のため今はスターライン作戦会議場所として機能しているため、住民は一人もいない。その広場に、第2特別小隊40名中39名が集まっていた。
「ええ、明日の戦場では2班に分かれて作戦を行う!」
広場に、バルドの野太い声が響く。バルドは名簿表と思しきものを出すと、「いまから、俺の班で動くやつを呼ぶ!」と言って、名前を呼び始めた。そして------
「以上!19名が俺の班だ!残る隊員はヴェル少佐の班とする!」
アイクは名前を呼ばれなかった。